第114話 リュウカはMじゃありませんよ

「えぇええええええええ!!!!!!!!」


 シャルロットの驚愕の表情が目に飛び込んでくる。

 口をパクパクさせながら、数字に目を通していく。

 ちなみに叫び声で始まるのはこれがナイルーンに来て3度目だ。俺、俺、そしてシャルロット。

 まぁ、俺が叫びすぎなだけかもしれないが……。

 それでも俺の2回よりもシャルロットのこの1回の方が明らかに大きいことは確かだ。耳を押さえていたのにしっかり聞こえてきたぞ。

 シャルロットのケモミミなんてこれでもかと直立している。


「な、な、な……ええ!?」

「シャルロットさーん? もう大丈夫ですかー?」

「一、十、百……え、え、まだまだある……なにこれ……」


 どうも俺の声は聞こえてないみたいだ。

 仕方なくシャルロットが自分から復活するのを待つことにした。

 すると、シャルロットは震える手で俺のストレージを差し出してきた。それはもう、高級品を知らずに手に取ってしまったかのような不安そうな表情で。


「お、お返しします」

「いや、別にそんな震えなくても……」

「無理言わないでくださいよ……こんな大金が入ったストレージなんて……」

「そう? まぁ別にいいけど」


 俺はシャルロットの手からストレージを取る。

 シャルロットがホッと一息つく。

 俺はそのままストレージをポケットにしまった。


「ちょ、ちょっとリュウカさん! ストレージ、ポケットにしまうんですか!?」

「え、ダメ?」

「ダメですダメです!! そんな大金、無造作に」

「えー、でもさ。この安心感?がやっぱりほしいんだよね。ポケットにあるっていう」

「全然安心できませんよ!! しまってください! 体の中に! 絶対落とさないように!」


 顔を歪めて物凄い迫力で迫ってくるシャルロット。

 なんかシャルロットに落とさないようにとか言われると説得力が半端じゃない。

 俺は仕方なくポケットの中にあるストレージを左手の掌にしまった。

 

「これでいい?」

「はい。よかった……」

「別にそんなに敏感にならなくてもいいのに」

「なりますよあんな金額見せられちゃ……初めて見ましたもん。あんな桁あるの」

「やっぱり異常だよねー」

「はい。考えられません。一体そんなお金どうやって」

「あーいやぁ、あはははは……まぁいろいろと」


 俺は視線をそらしながらまたしても頬をかいた。

 さすがに毎日支給されてますとは言えまい。なんでと問われたらお終いだ。

 俺の曖昧な返しにシャルロットはどうするかと思ったが、意外にもそれ以上踏み込んでこようとはしなかった。

 というか、なぜか少しだけ納得顔だ。


「でもまぁ、これだけの金額稼いでもおかしくはないのかもしれませんね。リュウカさん、強いので」

「そんな。強くなんて」

「そこは認めてください。謙遜はいいですけど、あの実力を見せておいてそれはただの嫌味ですよ」

「……ごめんなさい」

「はい。よろしい」


 なんだかろうか。小さなアーシャさんがいるみたいだ。

 とか言って、血は繋がってるからあながち間違いじゃないか。


「通りであんなに簡単に10万ルペ渡すなと思いました。リュウカさんまったく気にしてなかったので不思議で」

「まぁ、確かに」


 億レベルの所持金だと10万なんてたかがと思ってしまう。

 ただ一つだけ言わせてほしい。

 あのとき俺は―――

 

「でもたぶん、リュウカさんあのとき所持金なんて気にしてなかったですよね。ただ困ってる人を放っておけない。でしょ?」

「シャルロット……!」

「言わなくても分かってますよ。それぐらい。私もリュウカさんには助けられてるので。どうしようもないぐらいお人よしなんですよね」

「うんそうなんだよ~」


 俺は嬉しさのあまり、にこやかな笑顔のシャルロットに抱き着こうと歩き出す。

 なんだこの子天使か。やばいぞ。

 俺が目を潤ませシャルロットに抱き着こうとしていると、不意にシャルロットが人差し指を立てて自分の顎に当てる。


「ん? でも、譲渡するにはストレージを見る必要があるから、10万ルペ取られた後ってリュウカさん自分の所持金知ってましたよね? だったらあの落ち込み様はいったい……」


 やばい。今度は違う意味でやばいぞ。

 俺は咄嗟に抱きしめるために動かしていた足をくるりと回し、そのまま街の方を指さす。

 

「さ、さぁシャルロット! いろいろと問題も解決したところで会館に行こうじゃないか!! 善は急げ! 思い立ったが吉日だよ!」

「……ああはい。そうですね。行きましょうか」


 シャルロットは俺の声に反応して手を引っ込めると、そのまま若干急ぎ足になっている俺の隣に並んできた。

 表情はいつも通り。もう気にしてないようだ。

 ……危ない危ない。あとちょっとで俺がけち臭い野郎だと思われるところだった。

 シャルロットに嫌われたら立ち直れる自信はないぞ。けち臭い奴だとばれて、ゴミを見るような目で睨まれて見ろ。想像しただけで……想像……あ、ドキドキして……。


「リュウカさん?」

「は、はい!? なんでしょうか!」

「いえ、なんだか顔が赤いので……って声裏返ってますよ。大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫! まだそっちの趣味はないから!」

「そっち……?」

「ううん! 気にしないで!! こっちの話。これは……そう、そうよ。不安事が消えてちょっと嬉しくってさ!」

「ああ。分かります! 私もちょっとだけ浮足立っているのが自覚できますから! わくわくしますねー。もしかしたら家持になれるかもしれないですもんね、私たち!」

「う、うん……!」


 あぶなー。何とかごまかせたぞ。

 危うく違う世界の扉が開くところだった。

 平常心平常心。大丈夫。まだ俺はそっちには落ちてない。少しだけ落ちかけたけども。

 俺は今一度自分の正常さを確認し、シャルロットと一緒に会館へと向かっていった。

 

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