第5話 イケメンの正体
「どうしてくれるんだ! 俺のめくるめく高校生ライフを……彼女とのラブラブ生活を!」
項垂れるまま、俺はイケメンに思いのたけをぶつけた。
本当なら今頃、神社からの帰り、雨宿りしている美少女と出会って恋に落ちていたかもしれないのに……!
「心配するのはそこなのか」
「当たり前だ! それ以外、俺にとって重要なことなど何一つない!」
俺はきっぱりと言いきる。
男らしく項垂れていた体を起こして、ガッツポーズまでしたぐらいだ。
「あーあ、あの子がかわいそうに……」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
イケメンは小さな声で何か言ったように聞こえたが、すぐに否定した。
それに、今はそんなことよりも、現状俺はどうなるのかが大切だ。
「安心しろ。お前がたとえ生きていたとしても、彼女なんて出来ない」
「そんなの分からないじゃないか」
「分かるんだよ。俺を誰だと思ってる」
イケメンはその体を強調するように両手を広げる。
「誰なんだ?」
俺はそこで初めてイケメンのことを聞いた。
そういえば、イケメンが何者なのか知らなかった。まぁ、天界にいるのであれば人間でないことをは確かだろう。
「神様だ」
「……なるほど」
俺はさして驚くことなく受け止める。
なんだか、いろいろどうでもよくなってきた。
「ちなみにただの神様じゃない。ここをよく見ろ」
イケメンは自分の耳を指で示すようにする。
「何か分からないか?」
「耳がって……ただの耳だろ。キツネの」
そこでふと、自分の言ったことが引っかかる。
俺は何で、すぐイケメンの耳をキツネだと思ったんだ?
耳でも猫とか犬とか似たような種類はあったはずだ。なのに、俺はすぐに、日頃目にもしない、キツネの耳だと理解できた。
俺は少し前の記憶を探り出す。
その理由は思いのほかすぐに思いついた。
俺は顔を上げ、少し気まずい思いでイケメンを見る。
「気づいたみたいだな」
「まさか……お稲荷さん?」
「正解」
イケメンは俺の言葉に満足そうに笑う。
そう。俺がイケメンの耳を見て、すぐにキツネだと判断出来た理由。それは、俺が少し前にキツネの像を見たからだった。お稲荷さんで。
お稲荷さんは狐にまつわる神を奉納しているということで、入り口には狛犬ならぬ、狛狐が置かれているのだ。
それを何となく見た俺は、イケメンの耳を見てすぐに、あの狛狐と同じ耳だと、無意識に思っていたらしい。
「ってことは、つまり……神様が怒っている理由っていうのは……」
「ああ。よくもまぁ、毎年毎年、欲望丸出しの願い事を頼んでくれたなぁ!?」
「すいませんでした!!!」
俺は神様のはなった怒号にびっくりしたまま、精一杯の土下座を繰り出した。
「こっちは、忙しい時期だっていうのによ。鮮明に思春期男子の妄想聞かされている身にもなれっつんだ」
怒りはまだ収まらないらしく、愚痴愚痴と何かを言い続けてくる。
しかし、俺もこれに黙って土下座しているわけではない。
俺は土下座を解くと、勢いそのままに神様に向き合う。
「お言葉ですけど神様。妄想ではなく、それは俺の純真な願いなんですよ」
「どこが純真だ。不純の塊みたいな願いじゃねぇか」
「神様から見ればそうかもしれません! ですけど、俺にとってはとても大事な、それこそ、長年ずっと変わらず願ってきた、いわば宝物みたいなもんなんですよ! 叶えてくれたっていいじゃないですか!」
「嫌だね」
「そんな酷い! あんまりだ! 神様だったら困っている人に手を差し伸べるのが道理ってもんでしょ!」
「神様にだって選ぶ権利はあるんだよ。叶えてあげたいと思えるような願いであるなら、俺だって快く叶えたさ」
神様は適当な返事で、俺の言っていることをろくに聞きもしていない。
そんな態度を取られて俺も少しムカついてきた。
「……ははーん。さては、神様」
「なんだよ」
急に勢いを殺した俺の態度に、神様は少し警戒したように体の動きを止める。
俺はそんな神様に皮肉たっぷりに言い放った。
「俺の願いが叶えられなくて、言い訳してるんじゃないんですか?」
「……」
図星だろうか。神様は体を小刻みに震えさせながら、椅子を掴んでいる。
勝ったな。
「調子に乗るなよ……」
すると、神様の掴んでいた椅子の肘掛けの部分が、バキバキと音を鳴らしてひび割れていく。
しかし、神様の言った通り、完全に調子に乗っている俺にはその様子など見ているようで、視えていなかった。
「調子に乗るなよ人間ふぜえが!! お前にはあの絵馬が見えなかったっていうのか! 俺がどれだけ神通力に溢れた神様だと思っていやがる!!」
「いやいや、あの絵馬だって実は自分で用意したんじゃないですか? 有名になりたいからって」
「なんだとてめぇ……俺だけにとどまらず、大切な参拝客にまでバカにしやがったな」
神様の顔には完全に青筋が立っていた。
激おこである。
「そう言うんだったら参拝客でもある俺の願いも叶えてくださいよ。出来るんでしょう? お稲荷さん」
しかし、そんなこと気づいてもいない俺は、売り言葉に買い言葉で、こんなことを言ってしまった。
それはもう挑発するかのように、はっきりと。
「ああ分かった。お前がそこまで言うんだったら、叶えてやろうじゃないか! たっぷりな皮肉を込めてな!!」
「……え?」
ここにきて初めて、自分がどれだけ調子に乗っていたかを理解した俺だったが、時すでに遅し。
神様はもう激怒を通り越して、鬼になるんじゃないかと思えるほどの、鋭い視線を俺に向けると、俺めがけて稲妻を
本日2度目の落雷 and ブラックアウトである。
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