第22話 ギルド会館
「着いたぞ」
アーシャさんの声に反応して、俺は縮こまっていた体を戻すと、アーシャさんとミルフィさんが見ている建物に目を向ける。
「ここがギルド会館だ」
ギルド会館と言われた建物は、思っていたよりも大きくはなかった。
街の雰囲気と変わらずレンガ造りの建物になっているが、2階建ての一軒家ぐらいの大きさしかない。
横に広いわけでもないし、あまり威圧感もなかった。
印象的なのは、他のところとは違い武器を持った人が多いぐらいだろうか。みな、せわしなく出入りをしている。
まぁ、ギルド会館なんていっているぐらいだから、当たり前なんだが。
「ギルド会館は主に依頼を受けたり、倒した魔物に応じて報酬をもらったりする場所だ」
「もちろん、新しくギルドメンバーになる手続きもできるわよ」
「はい」
「手続きは扉を入ってまっすぐいったカウンターで
「分かりました」
俺はアーシャさんとミルフィさんに説明を受け、扉に向かい歩いていく。
「じゃあ、がんばってね~」
後ろからミルフィさんの声が届いてきた。
俺は振り返ると、動く気配のない2人に首をかしげる。
「あれ? お2人は来ないのですか?」
「うーん……行ってあげたいのはやまやまだけど……」
「悪いな。私達が行くと、変に目立ってしまう。リュウカも何やらここまで迷惑そうだったからな。ここからは1人で行った方がいいような気がしてな」
「ごめんね」
「ああいえ、気にしないでください。2人とも有名人みたいですしね」
「すまんな」
そういう理由なら仕方ない。
俺は謝るアーシャさんとミルフィさんに背を向けると、ギルド会館の扉を開ける。
まぁ、1人で心細いところもあるが、目立ちすぎるのもなんだか嫌だし、2人の気遣いに感謝しよう。
俺はギルド会館に1人で入った。
中にはアーシャさんの言ったように、正面にカウンターらしき場所が5つあり、すべて同じ服を着た女性が受付をしていた。
さらには入って左手には掲示板のようなものがあり、紙が張り巡らされていた。内容は把握していないが、きっと依頼を確かめる場所だろう。
いわゆるクエスト確認画面である。今も、何人かが内容を吟味するように見つめている。
他のスペースは食堂の様に大きなテーブルと椅子が並べられており、何やら作戦会議のようなものをしている人が見える。なかには、暇つぶしの様にぼーっとしているだけの人もいたりと、座っている人の表情は様々だ。
さらに、右奥には階段のようなものがあり、2階へと行けるようになっていた。
しかし、階段を上ろうとする人は1人もいなかった。用がないというよりも、階段の上にはいってはいけないというような感じがする。
入り口でじっとしているわけにもいかず、俺は視線をカウンター付近に戻した。
アーシャさんとミルフィさんがいないだけで、まったくといっていいほど注目されていない。
それが俺にはありがたかった。
俺は周りの視線を気にしないで、ちょうど空いている一番近かったカウンターに向かって歩いて行く。
「本日のご用件は何でしょうか」
俺がカウンターの前に立ったところで、受付のお姉さんが話しかけてくる。
眼鏡をかけた知的な人だった。
「えっと、ギルドメンバーになりたくて……」
俺は少し緊張しながら受付のお姉さんに要件を話す。
これで断られたらどうしようか。
「分かりました。ではまず、ギルドメンバーになるにあたっての注意事項をお話しします」
さらっと進んだ説明に俺はホッと胸をなで下ろす。
お姉さんはカウンターの下から紙を取り出すと、それを俺に見せてくる。
「ギルドメンバーになられた方は、主に世界中にはびこる魔物の退治が基本となります。モンスターを倒したり、依頼をこなしたりし、それに応じた報酬を各地の会館で受け取ることが出来ます」
「各地?」
「はい。ギルドメンバーに決まった場所や範囲はありません。どこで登録しても、どの街の会館でも利用できます」
まぁつまりは、ギルドメンバーであればどこへ行こうと会館で報酬をもらえるということだ。
ATM感覚みたいな感じか。
「しかし、注意していただきたいことがあります」
「はい」
「魔物の討伐報酬はどこの会館を使っていただいてもいいのですが、依頼の報酬の場合は、その依頼を受けた会館でのみの交付となります。くれぐれもそこはお間違えにならないでください」
「分かりました」
俺は頷く。
「それと、ギルドメンバーはその仕事柄命を落とす場合があります。その際、会館側はなにも責任を取りませんのでお忘れなく」
お姉さんは事務的な態度で、淡々と告げる。
すべては自己責任ということだ。当たり前のことだな。
「それ以外でしたら、決まった規約というのはありません。何からなにまで、あなたの自由にしてもらって構いません」
お姉さんはそこで説明を終わらせる。
すると、紙を俺の方に向けてカウンターに置くと、一緒にペンを差し出してくる。
「それがよければ、ここにお名前をお書きください」
俺は言われるまま、紙の横線を引っ張ってある部分に『リュウカ』と書いた。偽名なのは間違いないが、そう書くしかない。
ここで俺は一つだけ分かったことがある。いくら体が変わっても筆跡までは変わらないようだ。
しかし、これまで当たり前の様にしてきたが、この世界の言語は何故だか日本語なのはどういったわけだろうか。
そこも恩恵の影響なのかと思いながら、俺は紙をお姉さんの方に向ける。
「はい。確かに確認いたしました」
そうしてお姉さんは紙をカウンターの裏にしまうと、俺を見つめてきた。
「ではリュウカさん。これから審査いたします」
「審査ですか?」
「はい。誰でもなれるといっても、過去に犯罪を犯した人などを入れるわけにはいきませんので。魔法で本質を見させてもらいます」
「え、えっと……」
俺はお姉さんの言葉に戸惑う。
お姉さんの言っていることは分かる。その人が潔白かは大事だ。
しかし、もしかしたら転生者であることがばれるかもしれない。
別に悪いことではないが、あまり知られたいことではないぞ。下手したら心が男ということも見られるかもしれない。
そうなったら、俺はもれなく女装趣味の変態という認識をされる。
「なにか、困ることでもあるのですか?」
お姉さんは戸惑う俺を疑うように見つめてきている。
このまま黙っていては不審がられる。
ええい! もうどうにでもなれ! どっちにしろ、ここを抜けないとギルドメンバーになどなれないのだから。
俺は意を決してお姉さんの目を見つめた。
「ふふ。安心してください。プライベートなことまでは見ませんから。それでは始めます」
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