第21話 人気者の2人
「ありがとうございます」
俺は馬車から先に降りたアーシャさんの、差し出された手をとりながら馬車から降りる。
馬車がアイリスタに着いた途端、アーシャさんは一番早く立ち上がると、自分だけ先に降りて、俺達が安全に降りれるために手を貸してくれていたのだ。
相変わらずのイケメンぶりである。
馬車から降りるぐらいで大げさだと思ったが、ミルフィさんがなにも言わないあたりいつものことのようだ。アーシャさんの動きにも無駄がない。女性でいるのがもったいないぐらいのナチュラルな行動に、俺男の心が白旗を上げている。
うん、この人モテるや。
俺はそのままアーシャさんとミルフィさんの隣に立つと、初めての街アイリスタの地面の感触を確認した。
アイリスタはどうやらレンガ造りの街のようで、今立っている道路のようなところも、先に続く道もすべてに鮮やかなレンガが敷き詰められている。
道路全体がコンクリートの日本とは違い、異国めいた雰囲気に俺の心も浮足立つ。
ここが俺のはじまりの街か。
「馬車乗り場はすぐそこだが、関係ないんだな」
アーシャさんが指さす場所には多くの馬車が立ち並んでいた。
人々が順番に馬車に入っていっている様子が目に映る。
他の街に行きたいときはああやって馬車を利用するみたいだ。
覚えておこうと思うが、アーシャさんの言った通り、今の俺には関係ないところだ。
なんていったて、一文無しですから。
乗れません。
「本当に行くの?」
ミルフィさんはまだ俺のギルド行きに納得していないようで、心配するような声で俺の顔を覗き込んでくる。
優しい人だ、天使である。
でもごめんなさいミルフィさん。俺、戦いとかしてみたいんですよ。
「はい」
俺はミルフィさんの純粋な優しさに罪悪感を感じながらも、力強く頷いた。
「そっか……」
「諦めろミルフィ。リュウカの意思は固い」
「分かったわ」
「ごめんなさい」
「いいのよ。じゃあ、行きましょうか。ギルド会館は街の中心にあるわ」
俺はミルフィさんにそう言われ、2人の後をついて行くように意気揚々と歩き始めた。
美少女と歩くなんて気分がいいなぁ。
**********
しかし、そんな俺の余裕はすぐに消え失せることになる。
レンガ道を歩いている俺は、今はアーシャさんとミルフィさんの後ろに身を隠すようにして歩いていた。
「どうしたリュウカ。歩きづらいだろ」
俺の様子を見てアーシャさんが振り向きながらそう言ってくる。
「そうよ。もっと隣にきて歩きましょうよ」
「い、いえ、できれば私もそうしたいのですが」
「なんだ、初めての街で緊張してるのか? 変な奴だな」
アーシャさんは肩をすくめてみせる。
俺だってこんな変に身を隠した状態で歩きたくありませんよ。
だけど、だけどさ、さすがにこの状況ではこうするしかないでしょう。
「あ! アーシャさんにミルフィさん! ご無事でお帰りですか?」
すれ違った女性が2人に声をかける。
「ああ。この通り問題ないぞ」
「ええ。心配してくれるなんて優しいのね」
「そ、そんなことありません! お2人がいるおかげで、私達のような一般人は安全に暮らせるのですから」
「そう自分を卑下するな。私達だけでは魔物を倒すことしかできない。不自由なく生活できるのは君のような支えてくれる人がいるからだ」
「……あ、ありがとうございます!」
女性は激しく頭を下げている。
なんだか顔が恍惚と輝いているような気がしないでもない。
アーシャさんとミルフィさんが女性に手を振ると、また前を向いて歩きだす。
「ああ……なんて聡明な方達なのでしょうか……やはり2人は別格ですね」
手を振られた女性はそう呟くと、しばらくの間その場に立ち止まったまま2人の後ろ姿を見つめていた。
完全に見惚れてしまっている。
「お! 姉御に姫じゃねぇですかい」
俺が先ほどの女性の方に意識を向けていると、またしてもアーシャさんとミルフィさんは話しかけられていた。
今度は大剣を背中に背負った大男だ。
「その呼び方やめてくれないか」
「そうよ。姫だなんて、私そんな感じじゃないのに」
「いやいやなに言ってるんですか。俺達アイリスタのギルドメンバーにとって、これは決して忘れてはならない呼び名ですぜい」
「それはお前達が勝手に決めたことだろ。強制してるような言い方はよせ」
「はっはっは! こいつは申し訳ねぇ! しかし、俺はこの呼び名気に入ってるんで! 勝手に呼ばせてもらいますよ」
「はぁ、まぁいいぞ。勝手にしろ」
「さすがは姉御。心も広いぜ!」
大男はそうして楽しそうに笑いながらこの場から去っていく。
そう。実はこういったことが、馬車から歩きだしてから何度も何度もあるのだ。
すれ違うほぼすべての人が、アーシャさんとミルフィさんに話しかけてくる。中には、わざわざ民家の窓を開けて手を振る人までいた。
しかも、話の内容はみんな好意的。
初めの内は人望あるなぁとして、感心しながら並んで歩いていたが、あまりにもたくさんの人に声をかけられるので、いつの間にか俺は2人に並ぶのが恥ずかしくなったわけである。
だから、こうして後ろで身を隠すように歩いているという状況になったのだ。
人気者すぎやしないかこの2人……。
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