第20話 到着
「しかし、そうなるとどうする……」
アーシャさんが困ったように呟く。
「そうね。お金もなし、魔法も使ったことなし……困ったわね……」
「リュウカ。お前、これまで金を稼いだ経験は?」
「いえ、まったく」
地球にいた時もバイト経験はない。
俺の人生において自分でお金を得たことなどなかった。
「だろうな……お嬢様に稼がせるようなこと、親がさせないだろう」
「じゃあ、アイリスタのどこかのお店に入るとかは?」
「あーどうでしょうかね」
接客をしたことはもちろんない。まぁ、物は試しということもある。
ギルドメンバーになれなかったらそっち方向に行くのも手かもしれない。
しかし、俺の第一志望はアーシャさんやミルフィさんのような戦って稼ぐことだ。接客など地球と何も変わらない。面白くないじゃないか。
俺はひとまずミルフィさんの意見を断ろうと口を開きかけたところで、アーシャさんが呟く。
「店で稼ぐというのはやめておいた方がいいだろう」
「なんで? リュウカちゃんこんなにもかわいいから、人気出ると思うんだけど」
「まぁ、それは私も否定はしない。しかし、ならばなおさら客商売はおすすめできない」
「どうしてー? お嬢様がそんなの似合わないから?」
「……違うぞ」
アーシャさんの返答に少し間があったとこは目をつぶろう。
「他の街ならともかくアイリスタはダメだ」
頑なにアーシャさんは俺の客商売には反対のようだ。
それに対してミルフィさんは説明を求める。
「アーシャちゃんがここまで言うのも珍しい。なにかあるの?」
「私達は住んでいるから忘れているが、アイリスタは場所もありギルドメンバー……つまりは私達のような戦士が多くいる。女性はいいかもしれないが、中にはガラの悪い連中だっているんだぞ。そんな奴らの前にリュウカを出してみろ。なにをするか分からん」
「……確かにそうね。すっかり忘れていたわ」
ミルフィさんがアーシャさんの説明に納得した様子を見せる。
「ごめんなさいリュウカちゃん。お店で働くのは忘れて」
「いいえ、大丈夫ですよ。元々、あまり好きじゃないので断るつもりでしたし」
「あらそうなの」
「はい」
俺はミルフィさんに向き合い軽くそう言う。
きれいなお姉さんなら少し迷ったとこだが、男達の相手などごめんだ。
「それよりも聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
初めて俺から2人に質問する。
「ああ。なんでも聞いてくれ」
「ええいいわよ」
2人が快く頷いているところに俺はずっと思っていたことを言う。
「ギルドメンバーでしたっけ。それは私でもなれるものですか?」
「えっ」
「リュウカ、お前今なんて」
「だから、ギルドメンバーに私もなれるかなと思いまして」
俺は2人の目を見る。
なぜそこまで2人が驚いているのか分からないが、静かに返答を待った。
「……ええ、なれるわよ」
「……ああ。アイリスタのギルド会館に行けば手続きをしてくれる」
「本当ですか!? よかった……なれなかったらどうしようかと思いました」
俺はホッと一息つく。
これは演技でも何でもなく、本当に安心したからだ。
とにかくギルドメンバーになれることは今の2人の言葉で確証を得られた。まずはいい一歩を踏み出せた。前の様に転ぶことにならなくて本当によかった。
「だが……」
「本気なの? リュウカちゃん」
「はい。何か問題ありますか?」
「問題っていうわけじゃないがな……ちなみに武器を振ったことは?」
「ありませんよ」
俺ははっきりと言う。
あんな平和な日本で暮らしていて、武器なんてもの触れたためしもない。
「ギルドメンバーが戦士の類だということは知っているな」
「はい。それはお2人を見ていれば分かりますよ」
「魔物と戦うのよ? 街が襲われたら、誰よりも前線に出なきゃいけないのよ? 死者も何人も出てる。それでも」
「はい。それでもです」
「お嬢様のやることじゃないぞ」
「そんなの関係ありませんよ。それに、私これでも結構しぶといんで。運は強い方ですから」
ぶっちゃけ、恩恵によって死なないんで。
さすがにこれは言えないが。
「まぁ、魔界から逃げ出せるぐらいだからな……しかし」
「そうよ、なにもギルドメンバーにならなくても……」
そんなこと知らない2人は俺のギルドメンバー行きを納得してくれない。
「大丈夫ですよー。心配し過ぎですってば」
俺はそんな2人に間延びした声でそう言う。
まぁ、2人の気持ちも分からないわけじゃない。普通だったらオークから逃れたお嬢様が口にすることとは思えない。俺だって2人の立場だったら反対したと思う。
しかしこっちは望んでこの世界に転生してきたんだ。
2人には申し訳ないが、俺はギルドメンバーになることを決めている。変えるつもりなどない。
気楽そうな俺と、不安な顔で俺を見るアーシャさんとミルフィさんを乗せた馬車は、
「アイリスタ、アイリスタに到着しました」
そんな運転手の声により動きを止めた。
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