第8話 カタログ

 俺が神様の投げた本を手に取り倒れた体を起こすと、神様は侮蔑で歪んだ顔を元の整った顔立ちに戻し、口を開いた。


「落ち着いたな屑が。まさか予想よりも斜め上に混乱するとは思っていなかった」

「いや、完全に落ち着いてなんていないぞ。今も油断をすれば手をズボンの中に入れそうだ」

「やめろ」

「そう言われるとやりたくなるのが人間というもので……」


 俺は片手を本から離し、ズボンの中へと進ませようとする。

 すぐに神様が手を掲げ、何かしようとしてくる。

 俺は咄嗟に手を本に戻す。

 まったくちょっとした冗談だというのに、神様は気が短いなぁ。


「お前が変な気を起こす前に説明してやる。その本を見ろ。表紙に何と書かれている」

「異世界転生カタログ」

「そうだ。これがお前をここに呼んだ理由になる」

「これがどうしたって言うんだ」


 俺は神様の話を聞きながらペラペラとページを捲っていく。

 中には様々な写真と共に見たこともないような街の風景や人々の生活の様子が映し出されていた。どう表現していいか分からないが、一番近いのはゲームの攻略本だろうか。

 使える力みたいな欄などが特にそうだ。

 難しい文字が並んでいるところもあるが、そこは無視した。


「お前は俺に殺された。それは分かるな?」

「ああもちろんだ。よくもやってくれたな」

「まぁそれはいい」


 俺の恨み言を軽く流す。こっちはさっぱりよくないんだが……。


「寿命とは違い神が手を下した場合、天界のルールとして被害者には様々な恩恵が授けられる」

「恩恵……」

「そうだ。1つは願いを叶えてやること」


 神様の言葉に俺は立ち上がる。

 願いを叶えるということは、俺の願いが叶うということ。

 だったら……!

 俺がそう意気込んで立ち上がったがすぐに神様が手で制す。


「それはもう終わった」

「……は?」

「自分の体を見ろ。十分すぎるだろ。黒髪ロングの美少女。巨乳。そして、童貞を捨てるだったな。3つも叶えてやってるんだ。大盤振る舞いだろ?」

「なんだって……!」


 俺は神様の言葉に落胆して腰を下ろす。

 そんな……これがその恩恵の1つだなんて……。

 しかし、俺が文句を言う筋合いはない。何故なら神様を挑発したのは俺であり、願いを叶えて見せろと言ったのも自分だ。神様は言葉通りに、そのありがたい神通力で俺の願いを叶えてくれている。悪いとしたら変なノリでそんなことを言った自分にあるのは明白だ。

 神様は落胆している俺など無視して話しを続ける。


「そしてもう1つの恩恵と言うものが、それだ」


 俺の手にあるカタログ本を指さす。


「人生を強制的に終わらせたために、余っている残りの寿命を望んだ世界で送れるというものだ。もちろん元の世界には戻れないがな」


 つまりは生まれ変わるのではなくそのまま別の世界に行くというわけだ。

 異世界転生。表紙そのままだな。

 ずっと落胆しているわけにもいかず、俺は渋々本を手にとり神様の説明にそってページをめくっていく。


「好きなところを選んでくれて構わない。50音順や評価順など様々な探し方が出来るからそこから自分で選べ」

「……なるほど」


 俺はすぐに評価順のページにいく。知らない世界を50音順で見てもきりがない。だったら、評価順で見た方が早いだろう。

 そこの見出しにはこう書かれていた。


『評価ランキング 1位~100位』


 俺は1位の世界を見る。

 大陸ロンダニウス。魔法や剣といったファンタジー小説に出てくるような世界であり、常に魔界から魔物が現れると書いてある。

 さらには、大陸中に魔物がはびこっており、人間はそれらと戦いながら生活を送っている……らしい。ランキング1位のわりには随分と物騒な世界だなと思っていたが、最後に書いている文字を見て納得した。


『転生者の方はこの世界では寿命による死しかありません。どれだけ魔物に傷を与えられたりしたところで、寿命以外では死ぬまではいかないようにされています。安心してください』

 

 なるほど。

 生存が約束されているのなら、誰だって飛び込む。

 他の異世界も見てみたが、こんな説明が書かれているのは1位の世界しかなかった。

 これは決まったようなものだ。

 俺はこの世界に転生することを決め、ちょっとした興味であることを神様に聞いてみた。


「ちなみに地球もランキングの中にあるのか?」

「もちろん」


 神様の言葉に俺はページをざっとめくっていく。

 しかし、いくらめくっても『地球』という文字が出てこない。


(50位。ここまでないか。いったいどこにあるんだ……?)


 俺が必死に地球と言う2文字を探していると、ついに見つけることが出来た。

 そして、その順位を見て衝撃のあまり固まる。


「こ、これは……!!」

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