第67話 ケモミミ白髪美少女の正体

 コンコンッ


 俺の部屋の扉がノックされた。

 俺は座っていた椅子から身を起こして、ドアの前まで行くと、取っ手をつかんで引き開ける。

 外にはリーズさんが立っていた。

 手にはお盆を持ち、料理が乗っている。


「朝食をお持ちしました」


 笑顔で中に入ってくると、皿が2枚乗ったお盆を机の上に置き、ベットの上で寝ている美少女を見つめた。


「あら……」

「まだ起きてないんですよ」


 俺もリーズさんに近づき状況を説明する。

 窓の外から朝日が差し込み、ベットの上の白い髪を輝かせている。

 昨日、ここに美少女を連れてきたのは夜。寝かせているベットを使うわけにもいかずに、俺はそのまま椅子に座って眠ってしまったようだ。

 目を覚ましたら朝で、ちょうど寝かせていたケモミミ白髪美少女が気持ちよさそうに寝返りをしたところだった。

 リーズさんが白髪美少女の体を触り、容体を確かめる。


「まだ疲れて眠っているだけですね」

「大丈夫なんですか?」

「はい。とはいっても足をねん挫しているみたいなので、起きてもしばらくは安静ですけどね……」


 リーズさんは上に被せた布団をめくり、足を見る。

 すると、右足首あたりが若干腫れているのが分かった。

 きっと魔物の群れに襲われたときにくじいたのだろう。思えば、なぜだか俺が駆けつけたとき、動かずに木を背にしていた。

 あれは単に逃げなかったわけじゃなくって、足を痛めて逃げれなかったのだろう。

 ほんと、タイミングよかったわぁ。

 こんな美少女死なせてたかと思うと、後悔で死にそうになる。

 白髪じゃなければ見つけられなかった。月明かりに照らされた白い光を見て俺も暗い森の中で彼女の存在に気づけたのだから。もしこの子が俺のような真っ黒な髪をしていれば気づかなかっただろう。夜目はきかない。残念ながら夜でも街灯で明るい現代社会で育ったがゆえのものだ。

 恩恵も万能じゃないってことだろう。

 まぁ、見つけて戦いになれば、そこからは早いんだけどさ。

 どうも、戦いにならないと真価を発揮しないらしい。


「朝食は2人分持ってきましたので、リュウカさんも食べちゃってください」

「いいんですか?」

「はい。リュウカさんも夕食抜いてるんでしょ」


グゥウウウ………。

 タイミングよく俺の腹がなる。

 

「あはははは……」


 照れ笑いを浮かべて後頭部をかいた。

 欲望に忠実なことで。さすがは俺の腹。


「すみませんが、またお任せしていいです? 私はお店のこともありますから」

「はい。分かりました」

「もし、この方が起きられたら、残りの朝食をあげてください。きっと、喜んで食べてくださいますから」


 いったんお辞儀をして、リーズさんが俺の部屋から出ていく。


「後ほど、お水も持ってきますので」

「はーい。了解です」


 部屋のドアを閉めるリーズさんに手を振って、とりあえず俺は机の上に置かれたお盆から皿を1つとると、一緒に置いてあったフォークでリーズさんお手製の朝食―――魔物の卵を使ったスクランブルエッグを食べ始めた。

 うん、美味い。

 やっぱり手料理って最高だね!

 もぐもぐして皿を平らげたところで、まだまだお腹のすきはなくならない。もう一皿も食べてしまいたくなるが、ここはぐっと我慢だ。

 だがしかし、欲望に忠実な俺の体は徐々にもう一皿に近づいていく。


「ダメですよ。欲張っては」


 その手をコップを持って部屋に入ってきたリーズさんの声で止められてしまった。

 ニコニコと笑って、両手に1つずつ持ったコップを机の上に置く。


「あ、いやその、これは……」

「ふふ。お腹が空いているのは分かりますが、これは寝ている人の分ですよ」

「ですよね……すみません」

「いいですよ。リュウカさんも疲れてますからね。足りなければ追加で持ってきましょうか?」

「いえ、大丈夫です……」


 なんだか見られて恥ずかしくなってきた。

 空腹感もどこかへ飛んで行ってしまったよう。


「そう言われるのでしたら分かりました」


 リーズさんが頷いて、俺の部屋から退散しようとする。


「私が見てないからって食べちゃダメですよ」

「分かってますって! からかわないでくださいよ」

「ふふ。ごめんなさいね。無くなっているとその方が悲しむので」

「悲しむ……?」

「はい。嬉しいことに大好物と言っていただけましたから」


 リーズさんが小さな笑みを浮かべて、俺の部屋から出ていった。

 大好物……? 言っていただけた……?

 もしかして、この美少女とリーズさんて知り合いなのか?

 まぁ、とはいえまずは起きてもらわないと俺も部屋から出るに出られないし。

 とりあえずは、持ってきてもらった水を飲みながら待つとしましょうか。

 あぁ、冷たい水が体に染みる……。


        **********


「――…こ、ここはいったい。私……」


 しばらくしてから、ベットの上からか細い声が聞こえてきた。

 俺はすぐさま反応してベットの上の寝そべる美少女の顔を覗き込む。

 まだ寝ぼけているのか、目はうつろでぼんやりとしている。


「大丈夫ですー? 分かりますかー?」


 俺は刺激しないように注意しながら、そーっと声をかけた。

 目を何回かしばたかせたあと、俺と目が合った瞬間に、急に美少女がばっと起き上がった。


「危ない!! 魔物が!!」


 咄嗟に俺の前に立ち上がろうとして、ベットから出るも、すぐさま顔をしかめてうずくまってしまった。


「痛ッ……!]

「ああ……ちょ、ちょっと大丈夫ですか? 無理しないでください。足、怪我してるんで」


 俺は美少女のうずくまる体に手を差し伸べると、肩を貸してベットに座らせる。

 まだ起きたばっかりで状況が理解できてないようだ。

 混乱してしまっている。


「落ち着いて、しっかり周りを見てください。ここは森の中じゃないですよ」


 俺の問いかけに答えるように、周りを見渡して状況を整理しようと努める美少女。ちょっと期待したが、やはり頭に生えているケモミミがピコピコ動いていた。

 かわいい。

 そして、机に置かれた皿を見た瞬間に、そのケモミミがピンッと逆立った。


≪ぎゅるるるる……≫


 かわいらしい音が美少女のお腹辺りから聞こえて来る。


「ご、ごめんなさい、その」

「お腹空いてるんですよね。いいですよ食べても」

「でも、そのこれあなたのじゃ……」

「大丈夫です。これは、ケモミミ―――っと失礼。君のために宿屋の人が持ってきてくれた朝食ですから。遠慮なく食べちゃってください」


 俺はそっと机の上のあるお皿を持って、ケモミミ白髪美少女のもとへと持ってきてあげた。

 フォークを手に取ると、待ってましたと言わんばかりにぱくつく。

 なんというか、この子、すごく末っ子っぽい。守ってあげたくなるというか、まぁそんな感じがする。

 これまで年上お姉さんばかりと出会ってきたから新鮮だ。

 嬉しそうにスクランブルエッグを食べている美少女の顔は永久保存版のようにかわいい。耳も連動して動いているようで、ピョンピョンと楽しげだ。

 これで尻尾もあれば完璧なんだろうけど、それは存在しなかった。

 きっとかわいいんだろうなぁ。耳をピコピコ、尻尾をブンブンふって。ああもう、ずっと愛でていたい。

 どっかの変な神様よりも断然にいい。

 そうだよこういうの待ってたんだよ俺はさ!!


「ふぅ……」

「美味しかった?」

「はい。やっぱり、リーズさんの料理は美味しいですね」


 美少女の口からリーズさんという言葉が出てきた。

 俺は別に驚きもしない。リーズさんの口ぶりから予想できたからな。


「思った通り。リーズさんと知り合いなんですね」

「はいそうですよ。ていうか、あなたとも何度かお会いしたことありますけど……」

「へ……?」

「あれ? リーズさんから聞いてませんか?」


 不思議そうに首をかしげた後、なにを思ったのかおもむろに自分の肩口にあるフードをつかみ頭に被った。


「自己紹介が遅れました。私、シャルロットと言います。この度は助けていただいてありがとうございます。リュウカさん」


 フードの中からにこっとした顔がのぞく。

 まぁ、なんということでしょうか。

 そこに現れたのは、俺以外で唯一のリーズさんの宿屋の客、年齢不詳の謎のフードの人だったのです。

 うそだろ、そんな、まさか……。

 あの謎の人物の正体がこんな美少女なんて……。

 俺はがっくりと膝をつき、四つん這いになる。


「あ、えっと、その、大丈夫ですか、リュウカさん。今ひざから崩れ落ちましたけど。そ、そんなにびっくりしましたかね」

「そんな……そんな……」

「リュウカさん……?」


 怪訝そうに白髪美少女改め、シャルロットさんが俺を覗き込んでくる。


「……こんな美少女を見逃していたとはーー!!!! 俺のばかーー!!!!」


 そんな視線にも気づかずに、自分の失態を悔いる俺であった。

 

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