第66話 ギルド会館って……

「う……う、うん……」


 ベットの上の美少女が悶える。

 字面だけを見れば俺がついに、エロエロな状況を体験しているだろうと思われるかもしれないがそうじゃない。

 ここは俺の部屋で、俺以外の美少女がベットで寝ているが、残念ながら違うのだ。

 寝ている美少女はあのケモミミ白髪美少女。

 俺がなんとかして魔物の群れから助けたところ、安心して意識が飛んでしまったのか、地面に倒れていたのだ。

 最初、それに気づいたとき、それはもう焦った。

 体を触ってもいいのかとか、どこか怪我してるんじゃないのかとか、もしかしたらもう死んでしまっているのかと、いろいろな考えが浮かんでは消えを繰り返し、顔を真っ青にしたものだ。

 しかし、よく見れば胸は上下しており、耳をすませれば規則正しい微かな寝息も聞こえてきたから、ほっと一安心した。

 さすがにこのまま森の中に白髪の美少女を置いておくわけにもいかず、眠った彼女の体を背負いアイリスタの街へと戻ったのだ。

 ちょうど、この美少女が追われていた魔物の中にベアーがいて、3個目の肉をドロップしていたので俺の用事、ベアーの肉3個という依頼も完了することができた。

 美少女を背負って街に戻るなど騒ぎにならないかと心配になったが、もうすでに遅い時間だったため、アイリスタの入り口付近には誰もおらず難なく街の中に入ることはできたのだが、そこからが問題だった。

 はたしてこの美少女、どこに連れていけばいいだろうか。

 このまま背負い続けるわけにもいかずに、かといってこんな白髪美少女、街の中で見たことがない。 

 こんなきれいな髪をしていれば一度見ただけで忘れないだろうが、残念ながら俺の記憶にそんな髪の女の子はおらず、街に入って早々困り果てていた。


(ひとまず落ち着ける場所……場所……)


 辺りをきょろきょろしながら探したが、これといった場所もない。

 宿屋はまだまだ閉まっているとこも少なく、明かりがついている店も何件かあるものの知らない宿屋に入るわけにもいかずに、俺はため息をこぼしながらひたすらに歩き回った。

 こんなに歩いているのに、背中にいる美少女は起きる気配がまったくなく、かわいらしい寝息をたてている。

 これでミルフィさんのように豊満な胸でもあれば背中の気持ちいい感触に興奮してどこまででも歩けるのだが、残念かな。この子は貧乳のようだ。

 感触はあまり伝わってこない。

 だがしかし、顔はかわいく髪もきれいだし、それになによりいい匂いがする。

 襲われて走って汗もかいているだろうに、そんなこと感じさせないようなフルーティーな香りが漂ってきていた。

 まぁ、それでよしとしよう。

 俺は気づけばギルド会館の前まで来てしまっていた。

 ……ていうかそうだ。忘れてた。ギルド会館だよ。

 ここに持ってけばいいじゃんか。

 知らない宿屋とかだと俺が入ったところでどうしようもないが、ギルド会館なら別だ。なんていったって俺はギルドメンバー。ここに来たっておかしくない人間だ。

 それにちょうど依頼を終わらせていたし、この美少女を職員に渡して俺は依頼の報告といこう。一石二鳥だな。

 そう思って下を向いていた顔をギルド会館に向ける。


「…………」


 見たギルド会館は真っ暗だった。

 中から光がもれておらず、人の気配もない。

 試しに階段を上って入り口から中へ入ろうとしたものの、見えない変な壁に行く手を阻まれており、中に入ることすらできない。


「おいおい……嘘だろ」


 ギルド会館は閉まっていた。

 何度も繰り返し見えない壁を触ってみるもびくともしない。

 完全な施錠。

 俺は落胆し丸まった体で階段を下りていく。

 ……いやそこはやってろよ。おかしいだろ。ギルドメンバーっていつ何時帰ってくるか分からないんだぞ。なのにギルド会館がやってないってどういうことだ。

 なんだ? お前ら役所の人間か? 定時に帰るタイプなのか? 不便だってそろそろ分かろうぜ。どんだけ国民が困ってるのか、もう一度考え直した方がいいよ。俺の父ちゃんと母ちゃんも言ってたぞ。

 仕事が終わって帰ってくれば閉まってる。土日祝日は普通に休み。大事な書類取りに行くのに、その時間が合わないんじゃ意味ないって。

 まったく、そんなだからお役所の人間は嫌われるんだ。自覚してー。

 まぁ、それは俺のもといた世界のある国の話だけど、だからってギルド会館が閉まってるなんておかしい。

 24時間営業でも問題ないような気がするけどな。使っている人間はそんな感じなんだからさ。

 とはいえ、いつまでも文句を言っているわけにもいかずに、俺は仕方なく自分が泊まっているリーズさんの宿屋に美少女を背負ったまま向かった。

 説明すればリーズさんは分かってくれるはずだ。

 そうしてリーズさんの宿屋の扉を開け、満面の笑みで迎えられた俺は、事の事情をリーズさんに話した。

 意外にもリーズさんは驚きはしたものの冷静に対応してくれて、ひとまず目を覚ますまで俺の部屋に寝かせておくことになったのだ。

 不思議だったのは美少女を背負ったまま階段を上る俺を見るリーズさんの顔が、ずっと笑顔だったこと。

 なにを思っているのか分からないが、面白そうに笑っている顔はちょっと変な感じだった。たがそれよりも今は背中の美少女を寝かせることを最優先して、俺は自分の部屋に入っていったというわけである。

 

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