第16話 ついでに設定も決まりました。
「そうなると、さらに不思議ね」
「な、なにがですか?」
「バルコンドなんて魔界から結構距離が離れているのよ。そんなバルコンド出身のリュウカちゃんが魔界から来るなんておかしいわ」
アーシャさんのおかげで話がそれたかと思ったが、そう簡単にミルフィさんは逃がしてくれない。
安易に流れに乗ったがすぐに自分の首を絞める結果になった。
バルコンドなんて国知らないし、場所なんて分かるわけもない。これは万事休すかもしれない。
そう思っていた俺を、またしてもアーシャさんが助けてくれた。
「ミルフィ」
そう言ってアーシャさんはミルフィさんのをとめる。
「リュウカにもいろいろ事情があるんだろう。そんなに聞いてやるな」
「でも……」
「わがまま言うな」
「……そうね。ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫ですよ」
ミルフィさんはアーシャさんに言われ、追及をするのをやめた。
ありがとうアーシャさん! まるで天使のような人だ。俺のピンチをこれで3度も救ってくれた。なんて凛々しくていい人なんだろうか。
しかし、すぐに俺のこの考えは揺らぐ。
「やはり、身分の高い人は秘密が多いんだろうさ」
アーシャさんは急にそんなことを言う。
「……へ?」
俺の口からそんな声がもれ出る。
身分の高い人……?
「どういうことアーシャちゃん」
ミルフィさんもよく分かっていないのか、アーシャさんに説明を求める。
俺も聞いておきたいところだ。
「丁寧な言葉遣いに、よく手入れされている長い髪。どこをどう見てもお嬢様じゃないか」
アーシャさんは胸を張ってはっきりとそう言った。言葉に迷いはいっさいない。
……いやいやいや! 何言っちゃってるのアーシャさん! どこをどうみたら、こんななりで、しかも魔界から来た人間をお嬢様と思えるんですか!? あなた、さてはクールなふりしてただの天然だな! ふふん♪とか言って、かわいいんですけど!?
それじゃあ、ミルフィさんも納得しないよ! さっきから俺とアーシャさんを交互に見て確認してるよ!
目だってちょっと不安そうじゃん。
しかし、俺の思っている方向に話は進まなかった。
「……ほんとね。さすがはアーシャちゃんだわ」
ぽんと手を合わせると、ミルフィさんは納得した。
ああ……。納得しちゃうんだ……。
アーシャさんだけでなく、ミルフィさんも少し抜けているのかもしれない。
心の中で必死にツッコんでいたから疲れたな。
「たびたびごめんなさいね。私ったら全然人を見る目がないのよ」
「まったくミルフィは相変わらずだな」
アーシャさんは友人であるミルフィさんに呆れた声を発する。
逆ですよー。アーシャさんよりもミルフィさんの方がよっぽど人を見る目はありますよー。そう言いたかった。
しかし、せっかくできた道だ。ここを利用するしかない。
「さ、さすがはアーシャさんですわ」
まったく思ってもいないことを口にする俺。
サブカルチャーの国、日本で生まれたことが俺の人生の中でここまで役になったとこがはたして今までにあっただろうか。
お嬢様っぽい口調がすらすら出てくる。
うまく使えているかどうか分からないが、この2人なら多分大丈夫だろう。
「だろだろ! それじゃあ詳しい話が出来ないのも仕方ないな」
うんうんと頷いているアーシャさんを見て俺は静かにガッツポーズをとった。
よし、ひとまずはこれで切り抜けられるだろう。世間知らずでもお嬢様なら仕方がないとなるし、お嬢様口調は普段の俺と違い過ぎて変に男口調が混ざることもない。いい設定が出来た。
こうして、俺はとある事情で魔界からきた、バルコンド出身のお嬢様『リュウカ』となったのだった。
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