第33話 おはようございます。今日もいい朝ですね。
日差しが、部屋の窓から差し込んでいる。
リーズさんの宿屋にカーテンの類はなく、窓から直で太陽の日差しが部屋の入ってくる。しかも、俺の部屋はどうも朝日が浴びやすい場所らしく、日差しが俺の顔にクリーンヒットしているわけだ。
俺はまぶしさのあまり目を開けた。
寝ぼけながら体を起こした俺は、思いのほかずっしりときた重さを感じ、胸辺りを触る。
もにゅんとした感触を俺の手が感じ取る。
「……夢じゃ、なかったんだな」
そう呟きながら俺は部屋と、そして自分の体を見つめる。
これで起きたら地球の俺の部屋だとしても、まぁそれはそれでいいんだが、ちょっと残念な気持ちになったんだろう。
この胸の感触を味わえなくなるのは悲しい。
「それにしても、なんか変な夢見たな」
天界にあのキツメ耳の神様がおり、なぜか俺の映っている映像を見ながら、隣の映像と比べてニヤニヤしていた。
それになんだか厚かましく感謝しろとか言われたような気がする。
俺はそんなむかむかする胸を抑えながら立ち上がると、少し体勢を崩す。
「ああっと。どうもまだ慣れないな」
寝てしまうと感覚が男に戻ってしまうみたいだ。
昨日までは気にすることもなかったが、起きたばかりは気をつけないといけない。
それになんだか、昨日とは違う部分も存在する。
なぜか、本当になんでか分からないが、昨日に比べて自分の胸を触っても興奮しない。ちなみにさっきから胸をひたすらに揉んでいるんだが、昨日ほど心にグッとくるものがない。
でも……
「あひゃう!」
先端を掴むとさすがに変な声がもれ出る。
まぁ、これは男でも変わらないか。
でもなんだか自分の体に興奮しなくなったのはちょっとショックだな。
これでいつでも美少女の悶絶した声が聞けると思ってテンション上がってたのに。
とかいって、毎日のように興奮してたらさすがに俺でももたないか。
これも仕方がないのかもしれないけど、なんだかなぁ。
「あのリュウカさん!」
すると突然俺の部屋のドアが叩かれる。
声からしてリーズさんに間違いない。
「え、あ、は、はい!」
「大丈夫ですか!? なんだか変な声が聞こえてきたのですが」
やっべー。どうやら俺の悶絶声が聞こえてしまったようだ。
俺は慌ててドアまで駆け寄ると、そのまま開けようとしてドアがガチャンといい、びくとしない。
鍵がかってるんだった。
焦り過ぎて忘れていた。
俺はちゃんと鍵を解除して、今度こそドアを自分の方に引く。
ドアの前には、もちろんリーズさんが立っていた。
今日もお綺麗だ。
「あの! なにかありましたでしょうか」
「い、いえなんでもないんですよ! お気になさらないでください」
「そうですか? よかった……」
リーズさんがホッとしたように胸をなで下ろす。
「転生者様になにかあったのではと思って慌ててしまいました」
「あははは。なんだかすみません」
まさかあんなことをしていたとは言えず、俺は苦笑いでごまかす。
「……それよりもなにか用ですかね?」
「ああいえ、朝になったのでお伝えしようかと思いまして。起きられていないのでしたら、またの機会というつもりでドアの前に立ったのですが」
ああ、それで俺の声が聞こえたわけですか。なるほど。
この部屋の壁が薄くて、俺の声が下まで聞こえていたわけじゃなかったのはひとまずよかった。
もしそうだったら、いろいろと気を使わないといけなくなる。
「おはようございます。リュウカさん」
「ああはい。おはようございますリーズさん」
お互い朝の挨拶をかわした。
「よければ朝食どうです?」
ついでというようにニコニコしながらリーズさんが提案してくる。
はてさてどうしようか。
まだ起きたばっかりだというのに急に朝食というのもな。
「私の手作りなので、もしかしたら―――」
「朝食にしましょう!」
即答した。
そうだった! ここの食事はリーズさんの手作りだったんだ(当たり前です)。
これはいただかねばならないだろうよ。
なんといっても、母親以外の手料理を食べるのは初めてなのだ。
しかもこんな綺麗な人の手料理。食べない選択はあるだろうか。いや、男としてそれはあり得ない。
「そ、そうですか。じゃあ、私は準備いたしますので、リュウカさんは1階で座っていてください」
「分かりました!」
やったー! 手料理が食べれるぞー! しかも朝一で! なんて良い1日の始まりだろうか。オークに追いかけまわされた時とは比べ物にならないな。いやほんと、この宿屋にしてよかった。
俺はそのまま、部屋を出るとリーズさんの後ろをついて階段を下りる。
その間にふと気になって俺の部屋の向かいの部屋を見つめる。
あの性別不詳の謎の人物の部屋。昨日の手紙からして良い人の部屋は、ドアが閉め切られていた。1階にも姿は見えない。
てっきり昨日同様に黙々とリーズさんの料理を食べていると思ったのに、違ったようだ。
「あの方でしたら、いつも朝早く出ていかれるんですよ」
リーズさんが俺の顔の動きで察したのか教えてくれる。
「そうなんですか」
「ええ。朝早く出て、しばらくしたら帰ってくるんです」
「へぇ。早起きなんですね」
「はい。そうなんですよ」
俺の適当な返しにリーズさんが頷く。
うん、今が何時でどれだけ早起きか見当もつかないが、リーズさんが肯定しているのなら、あの人は早起きなんだろう。
ダメだな。なんか適当な返事になっているぞ。まだ寝ぼけているのだろうか。
まぁともかく、行動まで謎の人物だった。
はたして俺があの人の顔を拝める日は来るのだろうか。
分からないが、今はそんなこと考えても仕方がない。
リーズさんは朝食の準備に取り掛かるために1階の奥に消えていく。
俺はそれを見届けると、1番近くの机の、1番端の椅子に腰かけた。
謙虚な日本人に生まれた
端っこって落ち着くなー。
すぐにリーズさんは1つの皿を手に持ってきて、俺を見つける。
「あら。リュウカさんも端を好むんですね」
「そういう人種なんで」
「ん? 前の世界の話ですか?」
俺の言葉が理解できなかったようで、リーズさんが首をかしげる。
そしてリーズさんお手製の朝食が俺の前に置かれる。
いい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
何気にこの世界に来て初めての食事だった。
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