第32話 幕間~もう1つの視点~
「ふーん。無事泊まるところにはたどり着けたか。よくやった方じゃないか」
自分の前の映像を見ながら、天界の住人、キツネ耳が特徴的な通称『お稲荷さん』と呼ばれている神様は、軽く呟いた。
栗生拓馬との通信は切ったが、こうして神通力を使えば他の世界の様子なんて簡単に見ることが出来る。
神様だ。ナチュラルボーンなんでもありな存在である。
異世界の様子を見るなんて朝飯前だ。
「まぁ、出発としては上出来だな。相変わらず屑でヘタレなのは変わらないが」
少し前の拓馬……いや、面倒だからリュウカにしておこう、リュウカがしていたことを思い浮かべる。
美少女であることを利用して、リーズとかいう女をベットの隣に座らせるまではやかったが、そこからのリュウカのテンパりようは、今思い出しても笑いがこみ上げてくる。
「あんなんで百合ハーレムなんて出来るわけねぇだろ……くくくっ」
話している間も思い出し笑いを浮かべてしまう。
リュウカの考えていることなど、神様にはお見通しだ。というか、筒抜けだった。
神様は心が読める。リュウカに止められたからこれまでしてこなかっただけで、初対面の時はばんばん心を読んでいたことを思い出してほしい。
「くく!……はぁ、笑った。さてと、問題はこっちだな」
そう言って神様はもう1つ隣の映像へと視線を動かしていた。
そこには雨が降りしきる中、一様に黒い服を身に着けている人達の映像だった。ロンダニウスとは比べ物にならないほどの暗い雰囲気が映像からも伝わってくる。
「まぁ、全ては俺のせいなんだがな。こう隣通しで見ると同じ『栗生拓馬』が中心の物語とは思えないほどの差だ。ロンダニウス側がコメディなのだとしたら、こっちはシリアスだな」
そう呟き、神様はある人物に視線を向ける。
泣いている女の子が映っている。名前はもう知っていた。
栗生拓馬と関わりの深かった人物だ。
「かわいそうに。この子は知らないだろうな。あいつが別の世界で楽しく過ごしていることなんて」
自分のやったことだというのに神様はその女の子に同情の眼差しを向けている。
「まぁ、そんなこと気にする必要なんてないか。どうせ、その悲しみも今日までなんだから。明日には泣くことをしなくていい。悲しむ必要なんてなくなる」
女の子の気持ちは痛いほどわかる。きっと、やるせない気持ちだろう。
これもすべて雷を落とした神様がいけないんだが、神様は後悔なんて未だしていなかった。
だいたい、あんな気持ち悪いお願いを神頼みに来る奴が悪い。真剣に聞いているこっちの身にもなれというんだ。
「君は嫌だろうが、これがあいつの望みだからな。シリアスは嫌いなんだとさ」
そう言って映像に何かしらの力を使う神様。
一瞬映像が光ったかと思うと、すぐに何事もなかったかのように続きを映し出す。
変わったところなんてないが、神様の表情は何かをやり切った顔だ。
「栗生拓馬。これでお前の望みは叶えてやった。4つ目だな。感謝しろよ」
不敵な笑みを浮かべた神様は、一瞬だけロンダニウスの映像に視線を向ける。
映像の中心で、黒髪の美少女が油断しきった寝姿を晒していた。
「ほんと、このお気楽な顔をあの子に見せてやりたいよ。あの子はどう言うんだろうな。いや、なにも言わないか。だってもう君ら2人は出会うことのない存在になったんだ。まぁ、俺がそうしたといってもいいがな」
栗生拓馬は死に、ロンダニウスで第二の人生を始めている。
もう、世界の違う2人が出会うことはない。
神様も驚くような、特別なことがない限りは。
神様は映像を消すと、自分も眠りにつくとこにした。
神様だって眠くなる。仕方のないことだ。
それにしたってこの神様、自分でこんな状況にさせたというのに、悪びれる様子は一切ない。これで恋愛成就のありがたい神様として崇め奉られているのが本当に不思議なぐらいだった。性格に難ありすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます