第34話 とりあえず確認してみる
一言で表そう。
リーズさんの朝食はそれはもう美味しかった。
朝食を持ってきてくれたリーズさんが料理の説明してくれたのだが、どうも魔物の卵と肉を使った簡単料理らしい。
名前を魔物のなんとかって言っていた。
後半は忘れた。なんだがカタカナが並んでいたので覚えていない。
それに、それよりも適した名前を俺は知っている。
つまりはまぁ、完全に見た目は『ベーコンエッグ』だったわけだ。
最初、魔物の卵と聞いたときはびっくりしたが、置かれた皿を見てもそれはベーコンエッグでしかなかった。
別に変な色をしているわけじゃないし、匂いもよかったために何の抵抗もなく食べることが出来た。
ただ、1つだけ言えるとしたら、どうもこの世界、言語は日本語なのに箸の文化はないようだ。
リーズさんの持ってきた皿にはナイフとフォークが乗っており、使い慣れていないがために、ベーコンエッグ1つ食べるのにも苦戦を強いられた。
これは慣れるしかないか、いっそ箸を作るのも手だな。清潔で同じような長さの棒があればできるし、いずれはマイ箸というのも考えておこう。
とにかく、朝食のベーコンエッグを食べ終えた俺は、しばらくして皿を取りに来たリーズさんに素直に美味しかったと告げた。
「よかった。ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべてリーズさんは食器を片付けに行く。
なんかもういちいちかわいいな。好きになりそうだ。
なるほど、あの笑顔を見れば食べ終えたら絶対お礼を言いたくなる。
あの人の気持ちが分かったかもしれない。
宿屋の1階には俺だけが取り残される。
奥では水を流す音が聞こえてくるので、たぶんリーズさんが食器を洗っている。リズミカルな鼻歌が聞こえて来るのは気のせいじゃないだろう。
俺はそんな楽しそうなリーズさんの鼻歌を聞きながら、ふと思い立って、ポケットの中に忍ばせていたストレージを取り出した。
「そういやあ、ヘイバーン支部長が言うには毎日お金が入って……」
俺は手の中のストレージの文字を読み進める。
『 リュウカ ギルドメンバーNo.1105
主な拠点 アイリスタ支部
所持金 10,050,000 』
うん。マジですわこれ。
最初から1千万円……じゃないか。1千万ルペが入っていて小さく感じるが、なにもしていないというのに確実に5万ルペはストレージに入っている。
それを確認し、俺はストレージをポケットにしまう。
魔法で体に収納出来るストレージ。きっとそっちの方が安全なのも分かるが、どうもポケットに入れておく方がしっくりときてしまう。現代っ子の携帯依存をなめてはいけない。
当分は体に収納することはしないだろう。
正直、ポケットにある感覚だけで落ち着くもん。
すると、リーズさんが戻ってきた。
手にはコップがある。
「これ、良かったらどうぞ。お水ですけど」
「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね」
俺はリーズさんの手からコップを受け取ると、一気に飲み干した。
うまい!
「ふふ。良い飲みっぷりですね」
「いやー、お水はやっぱりどの世界来ても同じで美味しいですね」
完全に発言的にはアウトだろうが、どうせこの宿屋には俺と俺のことを転生者だと知っているリーズさんの2人しかいない。
大丈夫だ。
「でも、リーズさんってほんとに家事とか好きなんですね」
「分かります?」
「はい。鼻歌聞こえてきたので」
「楽しいんですよね。お料理作るのも、誰かに食べてもらうのも、その片づけをするのも全部。つい、鼻歌とか歌っちゃって。子供っぽいですよね」
「いえいえそんなことないと思いますよ。かわいいですし」
「そうですかー? ありがとうございます」
笑うリーズさんはとっても魅力的だ。
宿屋の仕事が本当に楽しいのが伝わってくる。
「そんなリュウカさんにこう言うのは心苦しいですが、すみません、朝食のお代をもらえます?」
「はい。いいですよ。どうすればいいんですかね?」
硬貨も何も持っていない。
支払い方法が分からないでいる俺に、リーズさんは自分の手を差し出してきた。
リーズさんの手が光ったと思うと、手の中に俺のと同じ真っ黒の板が浮き出てきた。これがリーズさんのストレージのようだ。
「ストレージとストレージを合わせればいいんです。リュウカさん。私のストレージにリュウカさんのストレージを近づけてください」
「はい。分かりました」
言われた通り、リーズさんのストレージに俺のを近づける。
「これでいいんですか?」
「はい」
しばらくすると、俺のストレージがぶるっと震えた。
すると、少し遅れてリーズさんのストレージが光ったように感じる。
「これで終わりです」
「これだけですか」
「はい。本当ならもっと大きな、支払い専用のストレージを使うんですけど、私のところはそこまでお客様も来ないので。こうして私のストレージに直接という方法をとっています」
「なるほど」
納得したが、ちょっと客商売としては悲しい理由だった。
「紙幣とか硬貨での取り引きは……」
「しへい? こうか? なんですそれ」
あっ。リーズさんの頭にハテナマークが浮かんでいるぞ。
「い、いえ。気にしないでください」
俺はそう言って自分の言葉を取り消した。
どうやらロンダニウスの通貨ルペは完全な電子マネーのようだ。
だから、ストレージを体に埋めておくぐらいするのか。落としたら全財産を失う。何となく体に入れる大切さが分かった気がする。
まぁ、だからって俺はポケットに入れるけど。この安心感はまだ手放せない。
てことは、これから何かを買うにもこうしてストレージをかざす必要があるわけだ。ペイするわけである。
なんだこれ、完全にスマホだ。
ストレージによりいっそう親近感がわいた気がする。
ちなみに、ストレージをリーズさんから離して文字を見たところ、
『 リュウカ ギルドメンバーNo.1105
主な拠点 アイリスタ支部
所持金 10,049,990 』
しっかり所持金部分が減っていた。10ルペ。
安い!……のかどうか分からないが、とにかく支払いはこれで済んだらしい。
簡単だ。
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