第77話 まぁ、ほら、水だからさ。切っても意味ないよね

「まずは私が切り込むから、後ろ頼んだね!」

「え……あ、はい」


 俺がエターナルブレードを握る手に力を入れると、柵を飛び越え、走り出した勢いのまま刀身を光らせたエターナルブレード振りぬく。

 突風が巻き起こると共に、剣の軌跡を描いて飛んでいく光の刃。

 もう使い方が中距離武器のようになってしまっているが、今更気にしたところでどうしようもない。

 これでも、アイリスタを襲った魔物を二太刀で一掃しただけの実力はある。

 別に連発できないがリロードに時間がかかるわけでもないので、出し惜しみする必要もない。

 シャルロットは前に助けたとき見せているから、驚くこともないだろう。そう思っての先制攻撃だ。

 固まっていたウォーターが無残にも飛び散る。

 俺は思いの外出てしまった風にいったん後ろの花畑を気にする。


「やば……大丈夫かな!?」


 俺の問いかけにシャルロットも後ろを振り返り、花畑の様子を見る。


「大丈夫のようです。風の影響はありません」

「よかった……」


 俺がホッと一息ついたところで、バシャン……という音が響いた。

 その瞬間、俺の髪から水がしたたり落ちる。


「あれ……」


 髪を垂れる水を見ながら俺は首だけで振り返る。

 大粒の雨が俺めがけて振ってきていた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ。ちょっと待って」


 俺はなんとか飛んでくる水の玉をよけながら視線をその方向に向けた。

 なんとそこには、今しがた俺の攻撃を受けて飛び散ったウォーターたちが、何事もなかったかのようにいたのだ。

 目を吊り上げ、怒ったように俺に向かって水鉄砲を撃ってくる。


「待って待って! 落ち着こ! 不意打ちは悪かったと思ってるけどさ……ていうか、なんで普通にいるの!?」


 俺が逃げながらそんなことを叫んでいると、シャルロットが俺の疑問に答えるように口を開いた。


「ウォーターに斬撃は効きませんよ」


 さも当たり前と言ったように、必死に水鉄砲から逃げる俺に教えてくれる。

 ていうか、なんで俺だけ!? シャルロットには一発も撃ってないんですけど!?


「ああそれと、ウォーターは基本的に攻撃してきた相手にしか攻撃しません。なので、今はリュウカさんだけが標的となってます」

「説明ありがとう! 助けてくれないかな!?」

「ああはい。分かりました」


 俺のお願いを聞き入れたシャルロットが、持っている杖を掲げる。

 そしてそのまま数秒の後、ウォーターたちに雷が落ちた。

 ズドンッという地響きと共に、斬撃を受けても無傷だったウォーターたちは靄となって消えてしまった。

 なんだか呆気ない終わり方だったな。

 こんなもんなのだろうか。


「終わり……?」


 恐る恐ると言ったようにウォーターたちのいた場所に近づく俺。

 シャルロットは周りを確認しながら俺の隣に並んだ。


「はい、たぶん」

「そっか~。いや、助かったよシャルロット。まさか剣が効かない魔物がいるなんて思わなかった」

「私も、まさかウォーターの特性を知らないで飛び出しているとは思いませんでした。切り込むがまんまその意味だとは」

「あはははは……」

「魔法、使えないんですか?」

「まぁ、そんなとこです」


 俺はバツが悪くシャルロットから目を離す。

 まぁ、実際はちょっとだけ使える。リカバリーとかそんなのだけど……。

 シャルロットが聞いているような魔法ではないので答えないだけで。


「本当にマフラーだけにつられたんですね。さすがに呆れました」


 はぁっとため息をつくシャルロットに、俺は渇いた笑いしか出てこなかった。


「そう言わないでよ」

「言いたくもなります。もし私が協力していなかったらどうしていたんですか」

「無理だったね。クリアするの」


 うんうんと頷く俺にジト目のシャルロット。

 俺の頬に汗が伝う。


「……ああ! そうか分かったぞ」


 俺はどこぞの名探偵さながらのひらめきを覚えて、得意気にシャルロットに詰め寄る。

 会話につながりがないのはツッコまないでほしい。


「なんですか? なにが分かったんです?」

「なんでこの依頼が2人なのかよ。きっと、こう言ったときのために2人なのよ。ウォーターの特性を知らないギルドメンバーがいるかもしれないっていうステラさんなりの配慮」

「それは違います」


 ぴしゃりとシャルロットは俺の意見を否定した。

 慈悲もなにもない。


「ウォーターの特性を知らないギルドメンバーなんて大陸中どこ探してもリュウカさんだけです。唯一1人ですよ」

「そんなの分かんないわよ。もしかしたらって可能性」

「ありませんよ。だいたいギルドメンバーでなくてもウォーターの特性ぐらい常識の範囲内です。ステラさんには違った意図があるんだと思います」


 是が非でも俺の意見を認めようとしてくれないシャルロットに、俺は涙目になりながらしなだれかかった。


「うぅ……シャルロットが冷たい……お姉ちゃんは悲しいよ」

「やめてください。重いです。それに、私のお姉ちゃんはこの世に1人。リュウカさんではありません」

 

 じゃれつく俺たちをステラさんは建物の窓から微笑ましく見ていたようで、家に戻ろうと俺がそのままで振り返ると、こちらに手を振っているステラさんと目が合った。

 シャルロットに密着したまま俺は元気よく手を振る。

 シャルロットも控えめにだが、しっかりと手を振り返していた。


「ステラさーん。ウォーターの討伐終わりました~」

「ええ見てたわよ。すごかったわね~リュウカさんもシャルロットさんも」


 ステラさんの褒め言葉に、シャルロットのフード下にある耳がぴこっと動いた。

 どうやらうれしいみたいだ。

 顔には出さずとも俺にはよく分かるぞ~っとそんなことを思っていると、そんな耳が突然後ろを向くように動いた。

 それを察知してシャルロットが振り返ろうとすると、月明かりで出来た大きな影が俺たち2人を覆う。


『キング~!!!!』


 野太い声が響いたと思うと、べちょっという音が耳に届いてくる。

 振り返るとそこには家程もある大きなウォーターが草原に鎮座していた。

 王冠を頭に被り、俺たちを見下ろしている。

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