姉御と姫編
第18話 イケメンで楽しそうなアーシャさん
「じゃあ、後は頼んだよ」
アーシャさんがこの拠点にいたいわゆる『ギルドメンバー』だという他の戦士たちに一声かける。
アーシャさん、ミルフィさん以外の戦士はみんな男のようで、野太い声が返ってきた。俺も普通に男のままだったらきっとあの中の誰かにミルフィさんのように付き添てもらっていたのだろうか。そう思うと、美少女になって本当によかった。
拠点の魔界側の反対にはすでに、木造の馬車が止まっていた。
運転手である男の人が帽子をとって挨拶してくる。
それに3人して頭を下げると、最初にアーシャさんが馬車に乗り込む。
すると、アーシャさんはこちらに手を差し出してきた。
「ありがとう」
それに驚くこともなくミルフィさんがつかまり、馬車の中へと入っていく。
アーシャさんはもう一度手を差し出してくる。
今度は俺の番のようだ。
俺は戸惑いつつもステップ部分に足をかけると、アーシャさんの手をつかんだ。ミルフィさんとは違った、戦士にありがちな少し硬い手のなかに、女性独特の柔らかい感触を感じながら、俺はアーシャさんにひかれる形で馬車の中へと足をすすめる。
手を差し伸べる行動に嫌味などいっさいなく、それはもう惚れるかと思うほどのイケメンっぷりだった。
馬車の中は簡易的で、荷台の両端が座れるようになっており、すでにアーシャさんとミルフィさんは並びあって座っていた。
俺は隣に行くのも変だと思い2人の対面に座り込む。
固い木の感触が伝わってくるようで、何度かお尻を動かして座る位置の調節を試みる。
「リュウカ。もしかしてお前……」
「は、はい! なんでしょうか!?」
俺はアーシャさんの少しだけ低い声に咄嗟に反応を返す。
なんだ……? 何かおかしいことをしただろうか……。
「……馬車、初めてなのか!?」
アーシャさんがなぜか嬉しそうに俺のことを見ている。
突然のことに戸惑ったが、しかし、ここは乗るべきだ。だって、本当のことだもん。
「は、はいそうなんですよ実は~」
「そうかそうか! やっぱりな! さすがはお嬢様だ。私達とは住んでる世界が違う!」
「ええーお嬢様ですからーあはははは」
なんだかよく分からないがアーシャさんが楽しそうなのでそっとしておこう。
住んでいる世界が違うとはまた粋な表現をする。まさか本当に違ったとは思わないだろう。
うんうん、楽しそうなアーシャさんはかわいいなぁ。クールな感じとの落差が激しいぶん、かわいさも倍増だ。
「ふふ。相当嬉しそうねアーシャちゃん」
ミルフィさんはそんなアーシャさんを微笑ましく見守っている。
そんな3人を連れて、馬車はこの拠点からアイリスタへと向かっていく。
**********
「あ、あの……!」
「どうしたリュウカ! 今はあまりしゃべらない方がいいぞ!」
「そうよ~。舌噛んじゃうかもしれないからね~」
「お2人は平気なんですか! こ、この揺れ……!」
「もう慣れたからな!」
俺の必死な問いかけに、とても誇らしげにアーシャさんが答える。
しかし、そんなアーシャさんに俺は何か言ってやる余裕はなかった。
今現在、馬車はでこぼこ道でも走っているかのように物凄い揺れを記録していた。俺は体が倒れないように椅子の部分を両手で必死に掴みながら耐えている。
もう少しつかまるところが欲しいんですけど!!
日頃、いい座席で尚且つ衝撃をある程度吸収する『車』に乗っている俺にとっては、この揺れに対する対応の仕方が分からない。
とにかく倒れないようにしながら、アーシャさんとミルフィさんを見たが、なんと2人はこの揺れの中余裕そうに座っていた。アーシャさんに至っては足を組んでいる。きれいなおみ足に普通なら対面に座る俺にとってそれはもう最高の風景だったが、今はそんなことを思っている余裕はない。
口を開いていないから、舌をかむことはないが、油断すると首を痛めそうだ。
「リュウカちゃん。体勢を落ち着かせる魔法を使ってもいいのよ」
「……魔法ですか!?」
「ええ。別に魔法が使用禁止ってわけじゃないし、慣れないうちは大変だろうから」
「……」
「どうかした?」
「……魔法使ったことないんですよ~!! 無理です!!」
「あらまぁ」
俺の必死な訴えとは裏腹に、ミルフィさんはのんびりとした驚きを見せている。
あらまぁじゃなくてどうにかしてくださいよ……! 驚いてる表情もかわいいけどね!
「おお……魔法を使ったことがないとは、やはり住む世界が違うのだな!!」
アーシャさんは天然を爆発させている。
だから、そんなこと言ってる場合じゃないんですよーーーー!!!
「ごめんなさいね。だったら、耐えるしかないわ」
「そ、そんな……」
「この魔法は自分専用なのよ」
「ああ……」
「なに心配することはない。あとちょっとすれば揺れもおさまる」
つまりはそれまではとにかく耐えるしかないということだ。
……地球の文明発展ってすごかったんだなぁ。
まさか、第二の人生の出発パート2にして最初に思うことが、地球の評価を上げることだとは夢にも思わなかったよ……。あぁ、日本が恋しい……。
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