第14話 2人のお姉さん
「ふふっ。安心しちゃったようね。ぐっすりだわ」
「本当にな。ここが戦いの最前線だと思えないぐらいの穏やかな寝顔だ」
「とても可愛らしい子ね……まだ若いんじゃないかしら」
「そうだろうな。だとしても、不思議だ」
「ええ。武器も何も持っていないこんな子が、魔界から来るなんて」
「こんなこと今まで一度もないぞ。しかも、なんだこの服」
「さぁ。分からないわ。でも、珍しい服をしてるのは確かね。履いているズボンなんて触ったこともない感触だったわ。それにこんなにも綺麗な黒い髪なんて見たことないわね」
「山の方の国から来たのか?」
「それにしたっておかしいわ。魔界に近づく人間なんているとも思えないし」
「それもそうだな」
「なんだか不思議な子。来てる服も、髪も、魔界から来たことも。すべて分からないことばかりだなんて」
「本人が起きるまでは考えても仕方ない。その子の看病はまかせたぞ。私は警戒に戻る。いつ何時、魔物がその子を追ってくるかも分からん」
「ええ。任せて」
**********
「……ほんと、綺麗な髪……」
俺の頭になにか温かなものを感じ、ゆっくりと閉じていた目を開けた。
俺の目に入ってきたのは、俺の長い黒髪を撫でるように触っていた、あの巨乳のお姉さんだ。
俺とお姉さんの目が合う。
ニッコリと笑ってくれた。なんだろう。すごく落ち着く。
「目が覚めたのね」
「…………」
俺はゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。
「まだ混乱しているようね」
「あの……」
「安心していいわよ。もう魔物は追ってこないから」
「……は、はい」
まだ覚醒していない意識の中でも、お姉さんの穏やかな声はすんなりと入ってくる。
俺が寝かされていたテントらしきものの中には、俺に使われていたのと同じ薄い布のようなものしかなく、他にはなにもなかった。
……そうか。俺は確か、オークに追われて、そしてお姉さんの胸に抱き着いた……。
途端俺の視線はお姉さんの胸にいきそうになる。
それを咄嗟に止める。なんだか、冷静になったら少し恥ずかしい。
しかし、体が美少女になっても中身が男であることに変わりのない俺の目は、本能のままにお姉さんの大きな胸にいってしまう。
「ん?」
お姉さんも俺の視線に気づいたように自分の胸に視線を落とす。
まずい! 気持ち悪がられる!
俺はすぐに視線を外したが、お姉さんは気にしていないようにこう言った。
「気持ちよかった?」
意外な返しに、俺は驚いたようにお姉さんの方を向くと、お姉さんは悪戯っぽく舌をペロッと出し自分の胸を押さえている。
なんだろうこの気持ち。ギャップというのか、穏やかな雰囲気と少し違って、なんだかとても可愛い。はっきり言って好きだ。
ほんと男のままじゃなくてよかったと思った。
こんなことされたら、すぐに俺のオレが反応して、隠すのに力を費やしていた頃だろう。
その点、なにも気にする必要ない。
だから俺はそれを利用してお姉さんに近づくとその手を力いっぱいに握った。
「はい! とっても!」
お姉さんが俺の行動に驚いたのか目を見開く。
だが、そこは大人のお姉さん。すぐに余裕な表情を見せると、微笑んでくれる。
「そう。嬉しいわ。役に立ったようで」
「ええほんとに!! 幸せでした!」
「ありがとう。こんなに元気なら心配なさそうね」
お姉さんは俺の気持ち悪い言動にも気を悪くしたような雰囲気は一切見せず、本当に嬉しそうに笑っている。
これが、美少女の力か……!
きっとお姉さんも俺が普通の俺だったら今の言動に気持ち悪いと思い、顔を歪めたはずだ。下手をするとセクハラとしてボコボコにされていたかもしれない。
ほんと、同性っていいな。
「どうかしたのか。ずいぶんと騒がしいが」
すると、テントの入り口の布が開き、外から騎士の鎧を着た女性が入ってきた。
その容姿は覚えている。
巨乳のお姉さんと同じで、オークから逃げている俺を遠くから励ましてくれた騎士のお姉さんだ。
巨乳のお姉さんが、優しい癒し系だとすると、こっちはどちらかというとクール美人のような感じだ。異性よりも同性にモテるタイプだろうか。
いい意味で騎士の鎧も似合っている。
俺を助けてくれたお姉さん方はどちらもとにかく美人であった。
騎士のお姉さんは俺を一目見ると、そのクールな顔を人懐っこく崩し、俺に微笑みかけてくる。
「おお。起きたか、よかった……」
そして、安心したように息をはいた。
ずるい……! ギャップの落差ってこんなにも心に来るものなのか!
巨乳のお姉さんとはまた違うドキドキがあった。
世の女性がかっこいい女性にキャーキャー言うのも分かるわ。だって、今の俺も超言いたいもん。
もうこのテントの中、天国なんじゃないかな。
まぁ、本当の天国知ってるけど……あれは天界だったか。
どうでもいいや。
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