第38話 大切なものはしっかり保管しましょう

 そんなわけで、どうにか1人でアイリスタの街から出て、草原に出た俺はすぐに白薔薇と呼ばれるものを発見した。

 なるべくアイリスタから離れすぎないように、アイリスタの街が見える辺りで残りの白薔薇も探していく。

 最初に簡単に1本見つけられたのはよかったが、それからが結構めんどくさかった。

 一面緑の草原に何故だか普通に生えている、花弁はなびらが真っ白の薔薇を見つけるのは、一見簡単そうに思えるがそうでもない。まず初めに白薔薇の絶対数が少ないときている。

 探せども探せども、なかなか見つからない白薔薇。

 しかし、そんな中どうにかこうにか草原を駆けまわりながら、数時間をかけて残りの4本の白薔薇を見つけられた。そこまではよかった。

 あとはアイリスタに帰ってクエスト終了。そんなことを思っていた時だった。


「ガウッ!!」


 なんだか犬のような、それでいて鋭い鳴き声が俺の後ろからしてきたのだ。

 俺は嫌な予感を感じ後ろを振り向く。

 そこには、俺を凝視しているオオカミの姿があった。しかも、群れで。


「え……マジで……?」


 俺は状況が分からずに立ち止まる。

 オオカミの目は真っ赤に光り輝いており、明らかな敵意を俺に向けて放っていた。

 うん。これはつまり……。


「ガウガウ!!」


 先頭の一匹がよだれを垂らしながらこちらにほえ始める。

 それをきっかけに、俺に向かって迷いない勢いで群れのオオカミたちが一斉に走り出す。

 やっぱりなぁ!! 俺もオオカミと同じタイミングで走り出した。


「ぎゃああああああーーーー!!!」


 そしてこの場面に繋がるわけである。


        **********


 長い長い回想を終わらせた俺は、必死にアイリスタの街に向かって無我夢中で走っていった。

 とにかく手の中にある白薔薇を離さないように意識しながらも、とにかく走る。走って走って走りまくる。

 オークに追われてから1日。まさか、こうも早くまた魔物に追われることになるとは思いもしなかった。

 だがしかし、転生者である俺は疲れ知らずの体。

 たとえオオカミだろうと追いつけまい。

 そう思ってさらに速度をあげた。

 俺が足を動かすのに伴って、ポケットの中のストレージも上下している。重さが太ももを通して体に伝わってくる。

 すると、不意にそのポケットから感じるストレージの重さがなくなった。

 俺は咄嗟に足を止め、後ろを振り返る。

 オオカミの群れ。その直線上に真っ黒な板が落ちていた。


「やば……!」


 こんなタイミングで草原に黒い板。誰がどう考えても俺のストレージだ。

 このまま放っておけばオオカミの群れにストレージが踏みつけられてしまう。強度なんてしらないし、そんな簡単に壊れるようなことはないと思いたいが、無くしたら非常にまずいことになる可能性は高い。

 大金持ちから一文無しに巻き戻ってしまう。

 俺は走ってきた道を戻ってなんとかオオカミの群れがストレージの上を通る前に、回収することに成功した。


「ふぅ。危ない危ない」


 ストレージをポケットにしまって、俺はオオカミたちからの逃走を開始しようと体をアイリスタの街の方向に向きを変える。


『ガルルル……―――』


 しかし、残念ながらその間にオオカミの群れが俺の周りを取り囲んでしまっていたようだ。

 喉を鳴らし、一斉に俺に向かって威嚇をしてくる。


「あー……あはははは……」


 どうしようもない状況に、俺は苦笑いしか出ない。

 めっちゃ怒ってるなー……。俺、なんかしただろうか。

 縄張りに踏み込んだ? しかし、それにしてはオオカミなんて周りにいなかったけどな。


「ガウガウッ!!!!」


 でも、めっちゃ吠えてるし、どうしたもんか。

 別に死なないから、戦ってもいいけど……。

 すると、オオカミたちの視線がある一点に集中しているのが分かった。

 それは俺の手に握られている白薔薇。最初の1本はストレージに入っているので今は4本。なぜ手に持っているかというと、依頼書にも書いてあったように、とてもいい香りがするからだ。なんというか人を魅了する香りだ。

 美少女にいい香りの花。これは絵になると思って持っていたが、どうやらオオカミたちの狙いもこれのようだ。

 ためしに、白薔薇を上に掲げてみると、面白いようにオオカミたちの目も動いた。


「なに? これが欲しいの?」


 魔物と会話なんて出来ないのは分かっててもなんとなく話しかけてみる。

 犬っぽいオオカミたちだからなんだかペット感覚になってしまう。

 完全に目には殺意がこもってるけど。


「ガウ」


 おお。返事した。

 俺はオオカミのその反応に感動しつつ、白薔薇をオオカミたちの前に持っていく。オオカミたちの態度を見るに、白薔薇さえ渡せば何もしないといった感じに映る。なんとまぁ、魔物らしくない行動だ。

 知能が高いのかもしれない。

 しかし、俺はひょいっとオオカミたちの前から白薔薇を取り上げる。


「ごめんねー。あげられないんだ。俺だってこれが必要なんだよ」

「ガウガウ!」

 

 おうおう。なんだが文句があるような物言いだな。

 だけど、どんなこともされようと俺は白薔薇を渡すつもりなんてない。

 こっちはこの広い草原を駆けずりまわってなんとか5本全部集めたんだ。たとえ魔物であろうと渡してたまるものか。

 俺のそんな態度にオオカミたちが牙をむき始めた。


「力ずくで取ろうって? 穏やかじゃないなぁ……いいだろう受けて立つ」


 俺は無謀にもオオカミたちに宣戦布告をする。

 周りを取り囲まれて逃げ場のない俺。

 そして、白薔薇を渡すまで動かないとするオオカミたち。

 もうこうなっては戦闘は避けられない。

 なぁに、大丈夫大丈夫。こっちは死なない身。武器はないがなんとかなるだろ。オオカミが疲れるまで踏ん張るつもりでいる。

 さぁ、転生者リュウカ、初めての戦闘だ!

 その結果はいかに!

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