第37話 初めての依頼

 というわけで、掲示板に残った10枚ほどの紙を見ていく。

 どれを見ても魔物の討伐というのばかりで、目的の採取クエストは見当たらない。それにしても、魔物5体の討伐で報酬が1000ルペか。単純計算で魔物1体につき、200ルペということになる。他の依頼も同じような報酬がずらっと並んでいる。

 こうなってくると、リーズさんの朝食10ルペって相当安かったような気がしてならない。良い報酬のものは手早く取られていってしまったと考えると、この1000ルペの報酬も、かなり依頼の中では報酬がしょっぱいことになる。

 とはいえ、討伐するだけでこれだけのお金が入ってくるとか、超楽じゃんか。うまくいけば1時間もかからず終わらせることもできるはずだ。

 いいなー。ホント、異世界って夢あるわー。

 そんなのんきなことを思いながら俺は他の依頼も見ていく。


「討伐、討伐、こっちも討伐か……」


 しかし、一向に採取クエストらしきものは見当たらない。

 もしかして依頼は魔物討伐しかないのか……?

 そう諦めかけていた時だった。


「あった!」


 俺は1番端の紙を手で取り、そこに書いてある文言を読んだ。


『白薔薇の庭園

 

 夢のマイホーム。大きな庭のある一軒屋を買うことが出来たの。これまでいろいろあったけど、私今すっごく幸せ!

 でも、まだまだ庭に花が少ないの。これじゃあ、旦那を喜ばすことが出来ない。

 それでギルドメンバーの方にお願い!

 庭に植えるために、アイリスタ近郊の草原にしか生えてない、白い薔薇の採取をしてきてほしいの。あれとってもきれいでいい香りがするのよ。きっと旦那も喜んでくれるわ。

 そうね。だいたい5本ってところかしら。それだけあればきっと庭も華やかになると思うのよ。アイリスタって私が住んでいるところから遠いのよね。だから私の代わりに採ってきて。

 5本摘んできてくれたら、ギルド会館の職員に渡してくれればいいから。

 報酬には主婦の私にはもう必要ない物をあげる。

 きっとギルドメンバーの方になら喜んでもらえると思うわ。

 頼んだわよ。


 報酬 エターナルブレード』


 長く書かれた文字をひたすら読む。

 なるほど。依頼ってことだったからまぁ不思議じゃないが、こんな感じの文章が書かれているのか。誰かの助けやお願いを聞くといったもの。

 採取クエだからというのもあるだろうが、報酬がお金じゃないからか残っていた気がする。

 まぁ、ブレードとか書いてあるし、武器の類だろうことは分かる。確かに、長くギルドメンバーをやっていて、今更武器が欲しいとは思わない。残っても仕方がないんだろうな。

 そう思いながら俺はその紙を掲示板から引きはがす。

 決めた。これを受けよう。

 金銭感覚をつかむことはもう、他の依頼の報酬を見てなんとなく達成されてしまった。だったら、ちょうど武器屋を見つけることを断念した今の俺に、この依頼はもってこいだ。

 報酬が武器で、しかも戦う必要がないときている。

 まるで俺のためにあるような依頼じゃないか。

 うまくいってるなー。これも美少女パワーのなせる業なのかもしれない。

 俺は上機嫌でステップを踏みながら、依頼を受けるために会館のカウンターへと向かっていく。

 ちょうど1つのカウンターが空いたためにそこに滑り込んだ。


「この依頼受けますー」


 浮ついた声で依頼の紙をカウンターに置くと、中から受付のお姉さんが声をかけてきた。


「あら。ずいぶんと上機嫌な声ですね。リュウカ様」

「はい?」


 唐突に名前を呼ばれてカウンターの先を見ると、そこには昨日と同じ眼鏡をかけた知的なお姉さんの顔があった。


「おはようございます。宿は見つかりましたか?」

「ああ、昨日のお姉さん。はい無事にいいところを」

「そうですか。それはよかったです。念のために聞きますが、変なことはしてないでしょうね」

「変なこと? なに言ってるんですか。私がそんなことするわけ」

「昨日は私にセクハラをしたというのに、ですか?」


 お姉さんが睨みつけてくる。

 ……やっべー。完全に根に持ってるよ。しかも、リーズさん相手に同じようなことをやってしまった手前、冷や汗が止まらない。

 俺はそれをなんとか気づかれないようにしつつ、お姉さんと会話をする。


「お、お姉さん、私を何だと」

「同性なのをいいことに、自分の妄想を実現しようとしている変態」


 ぐはっ……!

 素晴らしく的を射ていらっしゃる! 完全に俺を殺しに来ているよ、この人!


「ふふっ」


 俺が驚きおののいていると、不意にお姉さんから笑いがもれてきた。


「すみません。意地悪がすぎましたね」

「……ほんとですよ。やめてくださいよ」

「ごめんなさい。リュウカ様を見るとつい悪戯心が」

「勘弁してください」


 依頼を受けに来ただけなのにこんなにも疲れるとは思わなかった。

 まぁ、自分が蒔いた種だけど……。


「依頼ですね」

「はい」


 仕事モードの戻ったお姉さんが、俺の持ってきた依頼の紙を見ていく。


「白薔薇の庭園ですね。はい。承りました」

「……これだけでいいんですか?」

「はい。問題ありません。依頼通り、白薔薇を5本集めたらまたここに来てください。報酬はその時にお渡しいたします」

「はぁ、分かりました」

「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」


 お姉さんに送られる形になり受付から離れる。

 結局、お姉さんにからかわれるためにカウンターに行っただけみたいになったな。

 

 

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