第10話 光の扉
「ふん。そう言うだろうと思っていた」
神様が俺を見つめ、予想通りと言うように余裕の表情を見せている。
まるで俺の行動を読んでるようでムカつくが、しかし、ここは何も言わずに許しておくことにしよう。
「決まったのならそのカタログは返してもらうぞ」
俺の手からカタログ消え、神様の手元に戻る。
すると神様はそれを自分の後ろに放り投げた。
そんな無造作に扱っていい本なのかよ……。結構重要じゃね?
あれなくしたらこれからの奴どうするんだよ。
俺が誰に対してしているか分からない心配をしていると、神様が手を伸ばす。
「なにしてるんだ?」
「今、ロンダニウスに繋がる光の扉を形成しているところだ。黙ってろ」
神様にそう言われては仕方ないので俺はじっと神様を見つめたまま動かないことにした。
すぐに神様は伸ばした手を下ろし、一息つくように息をはく。
「作ったぞ。後ろを見てみろ」
神様に促され俺は後ろを振り返る。
そこにはさっきまで存在していなかった光の扉が俺を迎え入れるように光り輝いていた。
神様と言うだけになんでもありだ。
「その光を通れば、もうここに帰ってくることはできない。もれなく、第二の人生の始まりっていうことだ」
もう帰って来れない。
俺は神様の言葉を聞くと、一度言葉をかみしめる―――ことなどせずに、足を踏み出した。
ここに帰って来れなかろうがそんなの関係ない。2度と来るもんか! こんな神様に2回も会いたくないね。
俺は神様に別れの挨拶をせずに、どんどんと光に近づいて行く。
「ちょっと待て!!」
しかし、俺の足を神様が無理矢理に止める。
急に足が動かなくなったことに今更驚くことはない。
俺はめんどくさそうに神様に振り返る。
せっかく人が颯爽と去ろうとしていたところを。邪魔しないでほしいものだ。
「まだ話は終わってない」
「いいじゃんかよ、行かせてくれ。俺はいち早くあんたの前からいなくなりたいんだが」
「俺だってお前の顔なんて2度と見たくない。気持ち悪い」
「なんだと! ここに至ってまだ言うか! 人が気持ちよく第二の人生を始めようとしている時に! 第一、今は美少女のはずだろうが!」
「中身が変わってなかったら腐ってるのと同じだ」
「よくも言ってくれたな!」
「ほう! また落雷にあいたいらしいな!」
またしても口論を始める俺と神様だったが、すぐに神様が冷静さを取り戻したように首を振り、立ち上がりかけていた体を戻す。
「……チッ。今はこんなことしてる場合じゃないな。お前といち早く別れたいからな。要件はすぐに済ませよう」
「なんだよ」
「これは最後だ。お前に聞いておきたいことがある」
そうして言った神様の言葉に俺は目を見開く。
信じられないことだったが、神様の表情にふざけている印象は受けない。それに考えてみれば当たり前のことだ。
だから俺は、焦ることなくはっきりと自分の意見を神様に言った。
「……本当にいいんだな」
「ああ。構わない。昔からシリアスは苦手なんだよ」
「そうか。分かった」
神様は俺の言葉に納得すると、黙ったまま俺の体を開放してくれた。
どうやらもう話すことはないらしい。
光の扉に歩いて行こうとしても神様は止めはしなかった。
俺はそのまま光に包まれる。
こうして俺は評価ランキング最下位の世界から、1位の世界へと第二の人生を歩み出したのだ。美少女に生まれ変わって。
しかし俺は気づかなかった。
光の扉に歩を進める俺を、神様がニヤニヤしながら見つめていたことを……。
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