第11話 走る俺
俺は温かな光に包まれながら、真っ白な道を歩いていた。
この道の先に、異世界がある。それを実感し始めた俺は気分が浮足立ってしまうのを抑えきれない。
もうこの体にも慣れてきた。スキップをするように軽い足取りで、異世界に向かって足を進めている。
異世界にいったらどうしようか。
美少女になったからには、これを利用するに越したことはない。美少女……はっ!
俺の頭になにかが閃いた。それはめくるめく男の頃に夢見ていた風景。
俺は男じゃない。女だ。同性だ。であるなら……
異世界の美少女に激しいスキンシップをしたって問題ないってことだろ!!
俺は天才かもしれない。自分の才能に震えあがりそうになる。
そうだよ。同性なんだ。てことは、胸を揉んでもただのじゃれ合い。一緒にお風呂に入ることも……可能ってわけだ!!
まぁ、お風呂という文化があるかは分からない。しかし! なければ作ればいいだけのこと!
評価ランキング1位の世界だ。説明欄にも書いてあったが、この世界で寿命以外の原因で死ぬことはない。
だったら何も怖いことはないな! よし!
異世界での目標は確立した。
「俺は、百合ハーレムをつくる!!!」
誰もいないのをいいことに、俺は光の中で大声で目標を宣言した。
手を上げることまでしている。
よかった。美少女になって本当によかった。そこはあのイケメン神様に感謝しないといけないな。
俺が神様の印象を改めている内に、徐々に出口が見えてきた。
さぁ、俺のハーレム道の始まりだ!
きっと出口の先は広大な草原が広がっているんだろうなぁ。
そこから初めての街にたどり着き、紆余曲折のすえ、美少女と知り合う。
ここまで得意の妄想を膨らませた俺は、意気揚々と新しい世界『大陸ロンダニウス』の大地に足を踏み出した。
**********
周りの光が消え、俺が期待の膨らんだ心で辺りの様子を見渡す。
緑豊かな草花がたくさん―――広がっていない!!
どういうことだ! どこを見渡しても木や花など見えもしない! 雑草1つ生えていないじゃないか!
大地はひび割れ、どこか薄暗い。
生命が生きていくには、俺の立っている場所は適していなさ過ぎた。
空気も悪く、あまり息をしていたくないレベルだ。
「ブヒヒヒヒ……!」
「ブルルルル……」
周りの雰囲気のせいか、変な声まで聞こえてきた。
気持ち悪い声が徐々に大きくなってくる。地面も少しゆれているだろうか。
妙にはっきりとした幻聴だなっと思っていた俺の体に、その時、大きな影が差した。
俺はその影の正体を突き止めるために後ろを何の気なしに振り向き、そこにいた生物と目が合った。
その途端、本能が危険を察して走り始めた。
「……なんで、なんでこんなところにオークがいるんだよ!!!!」
俺は必死に足を動かしながら、俺のことを追いかけてくる豚の顔をした巨大生物を見つめる。
まさしくオークと呼ばれる怪物に違いなかった。
だって明らかにゲームで見たとこあるようなフォルムしてるもん!!
こん棒のようなものを持って、戦士のような鎧をそのだらしない体につけた、俺よりも何倍もあるオークが2体こちらに向かって歩いてきている。
「やばいやばいやばい!!! オークは! オークだけはだめだってば!!!」
俺はとにかく走る。
捕まったら終わる! 第二の人生一歩目にして、大きく人生の路線を変更をするはめになる! 純粋な異世界転生物語から、18禁の物語になっちゃう!! 物語というよりも薄い本行きだ!!
そんなことされるわけにはいかない……!!
だいたい初めて出会う魔物がオークってどうなってるんだよ!!
そりゃあさ、魔物のはびこる世界って書いてあったけど、普通初めて出会う魔物ってもっとかわいらしい奴って相場が決まっているじゃんか! 丸くて青いかわいらしいやつ想像するじゃんか!
なのに……なのに……なんで、よりにもよってオークなんだよ!! 絶対捕まったらいけないじゃんか! あんなことやこんなことをされるに違いないじゃん!!
だって聞いてみろよ、追ってきているオークの鼻息。
めっちゃ荒いよ!! 確実に美少女の俺を見て興奮してるよ!! 捕まえた後のこと想像してるよ!
分かる!! 俺だってこれでも思春期真っただ中の男子高校生だったんだ! そこら辺の知識はもちろんある! 一時期はそういったものを見て発散していたこともあるよ! 仕方ないじゃんか!! 思春期だもん!! 多感な時期だもん!!
だけど、だけどさ! 今はダメだってば!! 美少女なんだよ俺!? オーク×美少女の組み合わせは絶対あっちゃならないやつだ!! 考えなくても本能で分かる!
見ているのは好きだけどされるのはたまったもんじゃない!!!!
いくら死なないといっても、精神が持ちません!!
勘弁してください!! お願いします!!
俺は必死に知らない大地をひたすらひた走っていく。
どこに向かってもいいか分からないが、止まったらいけないという使命感にかられとにかく足を動かし続けた。
……誰か助けてくださーい!!!!!!
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