第12話 転生者特有のアレ

 俺はとにかく必死に走った。

 どれだけ走っても周りの風景は変わらないし、オークも諦めることなく俺を追いかけてきている。

 だがしかし、ここで俺が諦めてはいけない。

 もう意地も何もかなぐり捨てて、大声で助けを求めて叫んでいた。


「誰かーー!! 助けてくださーい!!! 変な2体に追い回されてるんです!! このままじゃあ私の純真な体が汚されてしまいます!!」


 しかし、むなしくもだだっ広い荒野に、俺の声が響くだけで反応は帰って来ない。

 第一走り出した手前、この方向でいいのかもわからない。へたをすると敵の本拠地に突っ込んでいる可能性もなくはないが、今更そんなこと言っても仕方ない。

 もしこの先が、カタログで見た魔界だというところであろうと、オークにつかまるのだけは避けなければいけない。

 何度も言うが、オークと美少女なんて組み合わせは非常に良くない!!

 せめて捕まるにしてもサキュバスがいいなぁ……。

 それまでは俺は足を止めるつもりは一切なかった。

 転生者であるおかげか今のところいくら走っても疲れない。そのおかげでどこまでも走っていけるような気がしてくる。


『くくくく……! あははははは!!!!』


 すると俺の耳に誰かの笑い声が聞こえてきた。

 辺りを見渡しても誰もいない。

 しかし、確かにはっきりと男の笑い声が聞こえてきたのだ。


『ずいぶんと楽しそうな状況だな』


 またしても男の声だ。

 俺の頭に直接語り掛けてくる。

 だが、どこか聞き覚えのある声だな。


『どうだ新しい人生の一歩は。有意義な旅になりそうか?』


 俺のことをバカにしたような男の声に俺はピンと来た。

 こんなこと言う奴、最近では1人しかいない。

 頭に直接話しかけてくるような訳の分からない所業をするのはあの野郎しかいない。

 俺は声に出してその男に話しかける。


「……神様だな! よくもこんなところに召喚しやがったな!」

『こんなところとは失敬な。ちゃんとお前の望んだ『大陸ロンダニウス』なんだぞ』

「そうはいっても出口の場所は決められただろ! もっと普通な場所にしろ!」

『普通な場所ってのはどこだ?』

「どこって、穏やかな草原とか、教えなくても分かるだろ!」

『そこだって草原だぞ。元だがな』

「元じゃ意味ねぇんだよ! おかげで始まって早々人生最大のピンチだっつの!」

『楽しそうじゃないか。冒険の始まりは困難がつきものだ。状況を楽しむのも醍醐味じゃないのか?』

「醍醐味も何も俺は望んでなんてない! 始まりはもっと楽したい! かわいい魔物と戦ったりしたかったのに、なんで初エンカウントがオークなんだ! 最悪だ!!」

『そうならそうと言ってくれれば、こっちもどうにかしたって言うのに』

「そんなとこ一言も言わなかったじゃねぇか! 聞いてねぇぞ!」

『あれー。言ってなかったっけー?』


 めちゃくちゃ棒読みの返事が返ってきた。

 わざと言わなかったなこいつ! くそっ、美少女にしてくれただなんて安易に評価を上げるんじゃなかった!

 やっぱこいつムカつくな!


『だいたいさ。面白くないんだよ』

「なにがだ!?」

『穏やかな草原? かわいい魔物? けっもう見飽きたわ。あーいやだいやだ。これだから最近の若いもんは』


 何故だか神様の口調が急に最近の世界の風潮を憂う大人の口調になる。


『初めから文句ばかり言ってよ。こっちはたくさんの恩恵を与えてんだよ。だったら、まずは感謝からが先だと思うがな』

「感謝されたいなら、感謝されるような振る舞いをしろ! だいたい、こうなったのも神様が俺を殺したのがいけないんだろ! 俺に文句を言う前に、そっちこそ謝ったらどうだ!」

『誰が謝るか。だって、お前ムカついたんだもん。後悔はしていない』

「なんて奴だ!」


 発言がもう神様じゃない。

 人を殺しておいて、ムカついた、後悔はないと言いきるとか悪魔の類だ。


『……あー、まぁ仕方ない。少しは神様らしいことをしてやる。よく聞け』


 神様はめんどくさそうな声で俺に何かしてくれるらしい。


『そのまままっすぐ行けば、人間族の拠点がある。まずはそこに行け。きっと後ろの奴からも助けてくれる』

「まじか!?」

『本当だ』


 神様が頷いたように感じる。


「……嘘じゃないだろうな」

『嘘じゃない』

「信じてもいいのか?」

『それはお前にまかせる。だが、この状況で唯一の情報を信じないのはいい選択とは思えないけどな』


 俺はしばらく考えた後、仕方ないということで神様の言葉を信じることにした。

 このままずっと走っているわけにもいかないし、藁にもすがる思いだ。


「……分かった。信じよう」

『いい判断だ。さらにもう1つお前に教えてやる』

「なんだ?」

『これは恩恵の一種でな。よくある転生物にもれず、お前にも特別な力を宿してある。それを使えばオークなんて一撃だ。ただ―――』

「なんだと! それを早く言えよ」


 俺は咄嗟に足を止め、オーク2体に向き合う。

 なんだ。じゃあ、必死に逃げる必要はないじゃないか。あーあ、焦って損したよまったく。

 俺は続く神様の説明を待つ。


『ただ、お前に与えた恩恵は、疲れにくい強靭きょうじんな体と、どんな武器でも威力が最大限になり初めてでも玄人くろうとの様に扱えるというもので、つまりは』

「……え?」

『武器もなんも持ってない今のお前はただの体力自慢の人間でしかないってことだ』

「くそったれー!!」


 俺はすぐにオークからの逃走を開始する。

 変に止まったせいで、オークとの距離が少しだけ近づいた。

 ヒントが与えられただけで、未だにこのピンチは脱していない。むしろ、俺がオークに一歩近づいた形になっている。


 人の話は最後まで聞くべきだな……。

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