第148話 大剣でよかったこと

 俺の目の前には今にもナイルーンに攻め入ろうと準備していたのであろうアンデット族の軍団がいる。

 体中が腐敗したいわゆるゾンビや体全てが骨で出来たスカルマンなど、ざっと見ただけでも100はゆうに越す量のアンデット族が、上から急に降ってきた俺を何だという風に見つめている。

 俺はなんとか吐き気を押さえて立ち上がると、とりあえず左手にストレージを取り出した。

 頭の中でエターナルブレードを呼ぶ。

 すぐに俺の背丈以上もある大剣が俺の目の前に現れた。

 ドスンという音と共にエターナルブレードが地面に突き刺さる。

 相変わらずの大きさに俺はなんとかして柄を掴むと、地面から引き抜いた。

 すぐさま体に恩恵の力が宿ったのを悟る。

 

「先手必勝!!」


 俺は有無を言わさずエターナルブレードを横薙ぎに払う。

 すると、エターナルブレードの刀身に込められた力が斬撃としてアンデット族の軍団に襲い掛かった。

 後ろにいくたびに斬撃は横に広がっていく。

 いやはや強い。恩恵というのはやっぱりチートだな。もれなくアンデット族は俺の攻撃により全て真っ二つになった。

 あの駄目サキュバスがアイリスタに攻めてきたときも同じような光景が広がっていたっけか。防御態勢もままならないぐらいあっという間の出来事に、きっとアンデット族の族長も驚きだろう。

 向こうから出てきてくれればいいんだけどなぁ。

 俺が呑気にそう思い前に進もうとした時、急に足をつかまれた。

 ぬちょっという気持ち悪い感触に足元を見る。

 そこにはもれなく、真っ二つになったゾンビさんが俺の足をがっちりと掴んでいるという光景が広がっていた。

 得も言われぬ寒気が俺の体を襲う。


「う、うぎゃあああああ!!」


 全身に鳥肌が立つ。

 人生でマジで出したこともないぐらいの大声が出た。

 

「ちょ、ちょ、ちょ。待って。待ってね。なんで生きてるのかな……?」


 カタカタカタカタ……アガー……アガー……

 辺りに不穏な音が響き渡る。

 俺は嫌な予感がして辺りを見渡す。するとなんということでしょう。もれなくエターナルブレードの餌食になっていたはずのアンデット族が普通に復活しているではありませんか。

 スカルマンはまるでなんともなかったかのように骨を組み立て再生し、ゾンビは切られた上半身と下半身がそのまま意思を持っているかのように動きまわっている。

 おかげさまで来たときよりも気持ち悪さが増した。


『カタカタカタカタ―――……!!!!』


 スカルマンが大合唱を始める。

 持っている剣を宙に向けて俺の方へと振り下ろすさまはまるで開戦の合図の様。

 俺の予想通りゾンビたちやスカルマンが俺へと特攻を仕掛けてきた。

 さらには上から骨の弓矢が帯のように降り注いでくる。

 これじゃあ味方も巻き込むでしょうよ。


「って、あんたら死の概念ないんだったな!!」


 矢が当たってもケロッとしてるんだもんね。そりゃあ容赦なく攻めて来れるな。

 うんうんって納得してる場合でもない。

 いくら死なないと言っても俺には痛覚はある。あれだけの矢を受けたら痛いどころじゃないぞ。

 俺は逃げるために足に力を入れて後ろに飛ぼうとした。

 だが、がっちりと俺の足をつかんでいるゾンビを引きはがすことが出来ない。

 死んでリミッターを失ったのかゾンビの力は想像以上に強力だ。


「ぐふ……」


 腐った息で笑っている。

 くそ気持ち悪い。

 俺はとにかくエターナルブレードでゾンビの手を切るといったん中央から離脱。元の位置にまで戻ってきた。


「うわ……まじかよ」


 切り離したはずの腕が未だ俺の足をつかんでいた。

 俺はなんとかそれをエターナルブレードの分厚い刀身で払うと、前を見た。

 すでに矢は着弾している。アンデット族は全員味方の矢を受けて体中を矢だらけ。

 なのに意に返さないようにこちらにゆっくりと迫ってきている姿はまさにホラーそのものだった。

 額に汗が伝う。


「おいおい。大丈夫なのかよ。普通骨砕けるだろ」


 体中に矢が刺さり、矢の鎧のようになってるのにピンピンしてるってのはずるすぎる。ギルドメンバーが多く挑んでも何の成果もあげられないのがなんとなく分かった気がする。

 だが、止まっているわけにもいかない。こいつらを倒して族長に会わなければならないんだ。

 俺は足を踏み込むと自分からアンデット族の中に入っていった。

 まず一番近くにいたスカルマンから。

 標準的な片手剣サイズの武器を振って俺に切りかかってくる様子が目に見えた。

 俺はそれを難なく避けると、そのままエターナルブレードの刀身部分を頭から振り下ろす。

 ドンという鈍い音が響いたと思えば、その時には一体のスカルマンが粉々に砕け散っていた。再生する気配はない。すぐに靄となって消える。


「うん。やっぱりこう使うよね」


 クオリアさんが言っていたことを思い出してやってみたが効果てきめんだったようだ。

 アンデット族は再生不可能なまでに粉々にするか、治癒魔法による攻撃をするしかない。

 治癒魔法を使えない俺は前者を使うしか選択肢はなかった。

 だから、大剣の大きな刀身を利用してやろうという気持ちで踏み込んだ。結果、俺の考えは正しかったようで、考えなくても体が勝手にエターナルブレードを横にして振りかざしていた。

 武器を大剣にしていてよかったと初めて思う。これで俺の武器が細剣とか片手剣とかだったらつんでいたぞ。打撃武器になりえない。

 さて、スカルマンの対処法は分かった。これでなんとかするしかない。

 問題はゾンビと上から振ってくる矢だ。

 正直矢の方は問題がないと言えばない。なぜって忘れてはならないが俺はこの大剣で竜巻を起こすことが出来る。

 つまり―――


「いっくぞー」


 緊張感に欠けた声と共に俺はエターナルブレードを回転させた。

 すぐに俺を中心とした渦が出来、矢が全て落とされていく。さらには周りのアンデット族を巻き込むことも出来る優れものだ。

 だが飛ばすだけで倒すことは不可能。飛ばされたアンデット族はすぐに体勢を立て直すと俺の方へと向かってくる。

 しかも、この技は斬撃を飛ばすのと同様なぜか連発が出来ないという特典付きだ。きっとゲームだったらリキャストタイムがつけられていることだろう。

 死なないんだから矢を無視して戦い続ければいいんだが、誰だって痛いのは嫌だ。避けたいだろ?

 だからこれは矢が降ってきたときのために取っておくことにしよう。

 そうしてスカルマンを一体一体粉々に砕きつつ上からの矢に対応していく。

 死なないと言っても同じ条件なら、転生者のこちらの方が圧倒的に有利だ。

 さて、残るはゾンビの対応について。

 粉々にするのもなにもゾンビの場合変に肉が残っているのでそう簡単にはいかない。それこそ治癒魔法の出番なのだが言った通り俺は使うことが出来ない。

 でも困ることはない。俺はゾンビの弱点を知っている。

 簡単な話だ。


「はい! ヘッドショット!」


 俺は掛け声とともにゾンビの頭めがけてエターナルブレードの刀身を叩きつける。

 それだけでゾンビの頭部は吹っ飛び、連動した上半身下半身が力なく崩れ落ち、その後には靄となっている。まぁある意味頭部を粉々にしているようなもの。クオリアさんの説明に合致している。

 そうして俺は1人でアンデット族の数を確実に減らしていった。

 アンデット族からしたら恐怖でしかないだろう。華奢な女の子が自分よりでかい大剣を振るいながら仲間を粉々にしていっている。しかも余裕な表情で。

 だがそこはアンデット族なのか。どれだけ倒してもひるむことなく攻めてくる。恐怖というものをなくしているとしか思えない。

 

「カタ…カ…タ…………」


 気づけば最後の1体を倒して戦闘は終わっていた。

 神殿の広場に戦いの後はない。全て靄と消え、元々なにも無かったかのようになる。海の中ということもあってか終われば静寂が訪れる。気持ち悪い程静かな空間を俺は歩き、前を見つめる。

 そこには神殿に繋がる階段があった。

 俺は迷いなく入っていく。

 もう吐き気はなくなっていた。たぶん嗅覚がマヒしているんだろう。それか慣れたか。とにかく今の俺はどんな匂いでも気分が悪くなることはない。

 俺はそのまま難なく神殿の奥へとすすみ族長がいるんだろうなと思う場所を片っ端から見て回った。

 道中でてくる敵は同じ要領で倒していく。もう2体や3体なんて敵じゃない。全部を粉々にして神殿を我が物顔でかけめぐる。

 しばらくすると今まで見た扉よりも大きな扉を見つけた。

 きっとこの中に族長がいる。なんとなく分かる。

 俺はそっと手を近づけた。こんなにも大きな石の扉、俺の手で開くだろうかと少しだけ心配になったが、なんということもない。扉は俺の手が触れる直前で勝手に内側に開いた。


≪ゴゴゴゴゴゴゴ…………≫


 ゆっくりと開いた扉はまるで俺がここに来ると分かっているように思える。

 俺は扉が完全に開いたのを待ってから中に入った。すぐに大きな影が目に映る。


「あらいらっしゃい。人間族の小さな子」


 女性なのか男性なのか分からない独特な声が響く。

 俺は顔をあげて声の主を見つめた。

 そこには今まで見てきたスカルマンの何倍も大きな骨の巨人がいた。

 神殿で一番大きな部屋にも入りきっていないのか、俺から見えるのは上半身だけ。下半身は俺の立つ地面のさらに下だ。

 人間など米粒のように小さいことは明白。ちょっと手を振っただけでひとたまりもないぐらい大きい。圧倒的な質量と威圧感を感じる。

 こいつが族長だ。直感で分かる。

 そんな族長が俺を歓迎するように手を横に広げて骸骨の目の部分を細めた。

 予想以上の大きさと雰囲気に俺は生唾を飲み込む。

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