第116話 ギルドの裏の仕組み

 受付に座っているお姉さんを信じられないように見つめている俺に、その人は変わりない冷徹な目で見つめてくる。


「リュウカ様……ついに私だけではなくシャルロットさんのような純真無垢な女の子にまで手を出して。これはアーシャさんに報告しなくてはいけませんね。妹さんの貞操がピンチ―――」

「―――ちょちょちょっと待ってもらっていいですかね!!」


 俺は焦るように受付のお姉さんに詰め寄る。

 

「誤解ですよ。私はいたって健全にシャルロットに対しての気持ちを」

「ではなぜそこまで焦っているんですか? 顔に冷や汗までかいて」

「こ、これはその……驚いたからで!」


 そう驚いたってだけで、決して事実を言い当てられて焦っているのではない! 決してだぞ!


「っていうかどうしてお姉さんがここに!? アイリスタじゃないんですけど!?」

「あれ? 言いませんでしたっけ?」


 お姉さんはポカンとした顔でとぼけたような声を出す。

 なんだよ。ちょっとかわいいじゃないか。冷静なのとのギャップでちょっとドキッとしたぞ。ずるいな。


「なんですか? 何のことを言ってるのかさっぱりですけど」

「これはすみませんでした。私の説明不足で……」


 お姉さんはそう言って頭を軽く下げる。


「ギルド会館は裏で全ての支部と繋がっているのです」

「は?」

「ですから、魔法により扉を作りどこの街でも会館であったら、一秒も経たずに移動することが可能なのです。部屋から部屋へ移動するように簡単に」

「……初耳ですけど。ていうかなんでそんなこと」

「すべてはギルドメンバーの方のため。そしてもう1つは」


 お姉さんが俺を見つめる。

 さらには隣で静かにしているシャルロットをも見た。

 シャルロットが首をかしげたところで、お姉さんは続きをいっこうに言おうとはしなかった。


「……もう1つは?」

「まぁ今はいいでしょう。またの機会に」


 俺が聞いてみてもお姉さんはそれ以上このことについて口を閉ざしてしまい、代わりに受付台の下から書類を取り出す。


「先ほどの職員から事情は聞いております。家を借りたいとのことですね。資金に関しては今更聞く必要もないので、この書類にリュウカ様の名前と共に住む方の……今回で言えばシャルロットさんの名前の記入をお願いします」

「名前を書くだけ?」

「はい。なにか?」

「いえその、もっと何かあるかと思って……」


 家を買うのだ。そんな名前だけなんて簡単なことで終わるとは思わないだろう。

 身分から家族構成、いろいろと聞かれるものだとばかり思っていただけに、なんだか拍子抜けというか……変に不安になる。

 ちょっと前に詐欺られたばかりだしな。

 俺が不安がっているとそれを察してか、お姉さんの口が開く。


「本来であればこうも簡単にはいきません。それこそ最短でも手続きに2日はかかります。借りる方の過去の経歴などを見てこの人は大丈夫かどうかを十分に確認しないといけませんから。しかしリュウカ様は事情が異なります」


 お姉さんが意味深な目で見つめてくる。

 詳しく言わなくても分かりますよねといった意思が伝わってきて、俺も静かに頷いた。

 つまりは『転生者』だからということだろう。

 すべてにおいて特別な待遇をされる転生者だからこその手続きの簡略化。

 便利だと思うが、どうも持ち上げられすぎていて変な感じだ。

 しかし文句言っても仕方がない。

 お姉さんが書類を前に出す。

 俺は書類に書かれている内容に従い俺とシャルロットの名前を書くと、お姉さんに書類を返した。


「…………はい。確かに承りました」


 お姉さんは俺からの書類を受け取ると、一度書類に目を通してから椅子から立ち上がり、受付奥へと消えていってしまう。

 俺はお姉さんが見えなくなるまで背中を見た後、無意識のうちに入っていた体の力を抜いた。


「ふぅ……いや、びっくりした~……まさかここであのお姉さんと対面するなんて」

「知り合いなんですか?」

「まぁね。なんでかアイリスタで依頼を受けると、だいたい受付があの人なんだよ。だからまぁ、知らない仲じゃないっていうか」

「へぇ。そんな偶然もあるものなんですね。私の場合はいつも違う受付の人ですよ。とはいえ職員自体多いわけじゃないので結局顔見知りにはなっちゃいますけど。私の場合は悪目立ちもしてましたから……」


 あはははっと苦笑いを浮かべるシャルロットに、俺もついつい想像できてしまい苦笑いを返してしまう。

 きっと悪魔憑きの不運が発揮されてしまっていたのだろう。

 そういう意味では俺たち2人が一緒にアイリスタにいては目立っていたのかもしれないな。ナイルーンに来て正解だった気がする。


「リュウカ様。シャルロットさん。お待たせいたしました」


 シャルロットと話していると後ろから声をかけられる。声からして受付のお姉さんなのだが、どうして後ろからなのだろうか。

 俺は振り返ると、こちらを見ているお姉さんに話しかけた。


「あの、どうして外に」

「家の鍵はその家にお送りしてから渡すという決まりになっていますので」

「決まりねぇ。別にここで渡してもらってもいいんじゃ……」


 あれだけ書類手続きが簡略化されたのだから、鍵ぐらい……そう思って聞くと意外にもお姉さんは首をこくりと縦に振った。

 

「それは私も同感です。ですが決まりなので仕方ありません。こちらもいろいろとありますから」

「はぁ」

 

 いろいろとはいったい。

 まぁ考えても仕方がない。俺はシャルロットと目配せすると、お姉さんに対して頷きを返して歩き出した。

 それに従いお姉さんも歩き出す。

 3人してギルド会館から出ていく。

 

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