第80話 初めての連携

「うぉおおお……目がまわ、らない!」


 俺はエターナルブレードをブンブンと回しながら適当なことを言って回転数を増していく。

 正直、身体能力の上がった俺に駒のように回るのは造作もないことだ。

 足が絡まらないかと言った不安が普通だったらあるのだが、そんなこと恩恵の前には必要ない心配だ。

 絡まらない。分かる。直感で。

 俺は足を器用に動かしながら、キングウォーターに迫っていく。

 徐々に回転数も増えて風が回るように吹き始めた。

 キングウォーターもなにかを察して慌てたように俺に得意の水鉄砲を放ってくる。

 だがしかし、威力抜群の水鉄砲は回るエターナルブレードに切り裂かれ、空中で霧散した。

 

「へっへー。効きませんよーだ」


 余裕の笑みを浮かべて、俺はさらに回転数を上げていく。

 そしてついに、俺を中心とした竜巻が草原に巻き起こった。

 渦巻く風がキングウォーターの水で出来た体を揺らし、シャルロットのきれいな白髪もなびかせる。


「すごい……」


 シャルロットの呟きが風に乗って聞こえてきた。

 まぁ、そう思うよね。俺だっておかしいと思うもん。

 いくら回転数を上げたとはいえ、竜巻は普通起こらない。

 いやはや恩恵様様である。

 俺がこんな超人的な戦い方が出来るのも、神様のおかげだ。イケメン神様に関してはそこだけは感謝しよう。

 キングウォーターがあまりの風の圧でひるむ。

 しかしそこはさすがは好戦的になっただけある。

 逃げることはせずに、なんとか止められないかと口から水を撃ち続ける。

 なんどもなんども発射されるのだが、全てが風に巻き込まれるように消えていく。

 あれかな? バカなのかな?

 同じことを繰り返しても結果は変わらないというのに、すごく必死に口を突き出して水を飛ばし続けている。

 あれだけ追い詰められていたというのに、すぐに形勢逆転するとはキングウォーター側も思ってないだろう。

 ついには血相を変えて逃げ出そうと俺から背を向けてしまった。


「あ! こら! 逃げるな!」


 俺は逃がさまいと足を早めキングウォーターを追いかける。

 逃げる水の巨体に、素早く追う竜巻。

 はたから見たらシュールな光景に映ったことだろう。

 しかし、それもすぐに終わりを迎えた。

 キングウォーターよりも俺の方が少しだけ早かったようで、竜巻が水の体を捉え、渦巻くように巻き込んでいく。


「ウ、ウォーター……」


 虚しい悲鳴を残し、キングウォーターは体全部を竜巻に飲み込まれてしまった。

 水を含んだ竜巻はまさしくアメリカ産ハリケーンのような出で立ちになった。


「さてと、問題はここからだな」


 俺は回転する視界の中で、竜巻の中に目をこらした。

 キングウォーターを巻き込むことには成功した。問題はこれから。

 体の水を消し飛ばすことに成功したとはいえ、はたして小さな核というのがそう簡単に見つかるものだろうか。

 その核を潰さない限りは、どうしたって勝ち目はない。

 今は竜巻のおかげでキングウォーターも体を形成できないでいるから良いものの、核を潰せずに終われば結局なにも変わらない。

 またしても俺たちの不利な状況に戦況は傾いていしまう。

 ここはさすがに真面目にやろう。

 そう思って目をこらしているものの、回転している視界で小さなものを見つけるというのは至難の業だ。

 見つからない。


「ああ……早いところ見つけないと」


 いくら恩恵によって竜巻を起こせても、永遠に出来るわけじゃない。

 どこかで終わりは来る。

 第一、俺の目が限界に達する気がしてならない。

 回りながら、小さい物を見つけようとしているのだ。

 ゆっくりとゆっくりと、三半規管がやられていくような気がする。

 このままずっと続ければ吐くぞ。

 美少女にあるまじきゲロが……ヒロインじゃなくゲロインになってしまう。

 そんなの嫌だ。


「つってもな……見当たらないし……あーあ、分かりやすく核だけ中心に来ないかなぁ。そうすれば分かりやすいのに」


 竜巻は中心の俺の上部には風を巻き起こしていない。

 そこにさえ来てくれれば探さなくてもいいのに。

 そんな俺の適当な呟きを聞いていたのか、タイミングよくエターナルブレードが光り始めた。


「いやいや、まさか、嘘だぁ」


 エターナルブレードが俺の声を聞いた?

 そんなわけあるはずない。

 こいつは無機物だぞ。人の声なんて理解できないよ。

 恩恵の力はそこまでじゃ……。


「まじだわ」


 浮かんだ思考を流すかのようにブンブンと首を振りながら、まさかと思い上を見上げたら、そこには小さな赤い粒が浮かんでいた。

 まるで切ってくださいと言うかのように、きれいに竜巻の中心にその赤い粒は浮遊している。

 俺はニヤリと笑う。

 あれが本当に核かどうかなんて知ったことじゃない。

 でもほら、核って言われたら普通丸いもんじゃん。

 そんでもって俺の発言からの流れ的にこれ絶対核じゃん。

 じゃあもう、切るしかないよね。

 俺はエターナルブレードの柄を両手でぎゅっと握りなおし、回っていた足をピタッと止めると、そのまま垂直に飛び上がった。

 回転が終わったことにより纏っていた風がどこかに行ってしまう。

 散りじりになっていた水たちがまるで意思を持ったかのように、空中に浮かぶ赤い丸に吸い寄せられていく。

 だがしかし、そのスピードは思っていた以上に遅かった。

 水が集まるよりも前に、俺のエターナルブレードの刀身が、赤い粒の中心を捉えた。


 パキッ―――!


 遅れてそんな音がし、赤い粒は真っ二つに切り裂かれていた。

 集まろうとしていた水は目的を失いさまよった後、1つ1つ小さな形を成していく。

 そして現れたのは小さな小さなウォーターたちの群れ。

 ざっと数百匹はいるであろう。

 それを俺は空中で見ながら、俺の攻撃に唖然としぼーっとしているシャルロットに声をかける。


「シャルロット! 今だよ!」


 俺の大声にびっくりしてシャルロットは持っている杖を落としそうになった。だが、すぐに体勢を立て直すとウォーターたちを視認し頭上に黒い雲を発生させる。


「サンダーショック!!」


 かわいらしい声でそう叫ぶ。

 シャルロットの作り出した黒い雲が電気を発し始め、それをどでかい稲妻へと変化させ数百匹のウォーターへと容赦なく落とした。

 轟音を轟かせ、ウォーターたちは消し飛ぶ。

 土煙が晴れたそこには、抉れた地面だけがあり、それ以外なにもなかった。

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