第81話 朝焼け
「うっひゃー。こりゃあまた派手にやったなぁ」
空中から地面に着地した俺は、抉れた地面を見て感嘆とした声を上げた。
音もすごかったけど、あんなにいたウォーターを一撃で消し飛ばしてしまうなんて、考えもしなかった。
私ではキングウォーターを倒せないなんて言ってたけど、こんな魔法使えるなら十分倒せたのではなかろうかと思ってしまう。
俺が呆けていると、遠くでばたりと誰かが倒れる音が微かに聞こえてきた。
音をした方を見れば、シャルロットが地面に顔から倒れこんでいる。
俺は慌てて駆け寄るとその顔を膝の上に置き見下ろした。
「シャルロット! 大丈夫!?」
微かに胸が上下しているのは分かった。
それでも頭頂部の耳は垂れ、表情は苦しそうだ。額に汗までかいている。
俺は服の袖で汗を拭きとった。
シャルロットの目が若干だが開く。
「シャルロット! 聞こえる!? 返事して!」
「リュ、リュウカさん……そんなに叫ばなくても聞こえてますよ」
「ほんと!?」
「本当です。少し、魔力の使い過ぎで倒れただけですから。しばらくすれば治ります」
無理しているわけじゃない。
それはなんとなく表情で察することが出来た。
とはいえこのままにしておくわけにもいかず、俺はエターナルブレードをストレージにしまうと、お姫様だっこの要領でシャルロットの体を抱えた。
「え、ちょ、リュウカさん?」
戸惑うシャルロットを無視して、俺はステラさんの家の方まで歩いていく。
「おろしてください。大丈夫ですから」
「ダーメ。シャルロットはなにも気にしなくていいからゆっくり休んで」
「でも、ウォーターが」
俺はそんなシャルロットに抉られた草原を見せた。
「ウォーターなんていないよ。全部シャルロットが倒してくれたから」
「これを、私が……」
「そうだよ。覚えてないの?」
「はい……その慌てて必死だったので」
「そっか。でもすごいね。こんな魔法撃てちゃうなんて」
「あははは……まぐれですよ。普通はこんな魔法危なくてできませんから」
「まぐれでも勝ちは勝ち。シャルロットはキングウォーターを倒したの」
「……違います。私の勝ちではなく、私たちの勝ちです。ですねよ、リュウカさん」
「ん。そうだね」
お互い笑いあった後、シャルロットは安心したのか俺の腕の中で寝息を立て始めてしまった。
すやすや眠るその顔はやりきった感じの達成感が垣間見えるようだ。
ついつい、俺も微笑みを浮かべてしまう。
パーティーもあながち悪くないかもしれないな。
**********
眠るシャルロットを抱えながら、俺はステラさんの家にまで到着していた。
柵を開け、中に入ると、扉を開けて中から車いすに乗ったステラさんが顔を出した。
「リュウカさん! シャルロットさん!」
「ステラさん。あまり慌てられると危ないですよ」
「ですが、2人とも……」
ステラさんの視線が抱えられているシャルロットに移った瞬間、ステラさんが驚いたように両の手を口に当てた。
「あの、シャルロットさんは……」
「ああ大丈夫です。寝ているだけですよ」
「寝ているだけ……?」
「はい。ど派手な魔法を使ったので、魔力切れらしいです」
「そう……よかった」
ホッと胸をなで下ろすステラさんだったが、すぐに表情を変えて俺たちを中にむかえてくれる。
「布団は部屋にそのまま敷いてあります。シャルロットさんをそこへ」
「はい。分かりました」
ステラさんに部屋の扉を開けてもらい、俺は腕の中ですやすや眠っているシャルロットを布団に寝かせた。
もちろん、フードはステラさんの家に着く前に俺が被せておいた。
あんなに隠していたのに、こんな形でばれたくないだろう。
「ぐっすりですね」
ステラさんが優しい顔で眠るシャルロットの体を見つめている。
「はい」
俺も頷いた。
こんなに体を動かしても起きないところを見ると、たぶんこのまま朝までコースだな。
「こんな小さな体でギルドメンバーだなんて」
「ほんとすごいですよこの子は。数百匹もいるウォーターを一撃で仕留めちゃいましたからね」
「少し前に地響きがしましたけどそれって」
「はい。シャルロットの魔法です」
「まぁ」
ステラさんは本当に驚いたような声を上げた。
「リュウカさん。ここではなんですのでリビングでお茶にしましょう。シャルロットさんを起こしてしまっては悪いですわ」
「ですね。そうしましょう」
俺はシャルロットに掛け布団をかけてあげると、ステラさんと一緒にあまり音を立てないように部屋を後にした。
すでに外は白みがかっている。
朝日が昇ろうとしているのだ。
俺は昼間に寝てしまっているので、眠気も襲ってこないまま、リビングでステラさんの出すお茶を飲みながら、戦いで消耗した体力を回復させていった。
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