第182話 マキさんとエターナルブレード
きょとんとした顔の3人を前にしても、マキさんの表情に変化はなく、むしろどうしてそんな反応が返ってくるのか分からないといったふうに当たり前のように呟いた。
「そもそもエターナルブレードが有名になったのはその刀身の大きさであって、戦い方自体普通の武器ですよ。斬撃を飛ばすとか、竜巻とかなんてのはまったくなくて、その大きさと質量で魔物を圧倒するといった感じで使います」
実際私もそうでした、とマキさんが付け足す。
すると、即座に雫が反応した。
「え、でもそれじゃあ有名になったのは大きさだけってことですか? でもそれだったらなんで……」
そこまで有名になったんだろう。
雫は目だけで俺に問いかけてくる。
そんなこと俺でも知らない。でも確かに、あの時、エターナルブレードを初めて出したときのどよめきは相当のものだった。
アイリスタのギルドメンバーでさえも驚く武器が、ただ大きいだけだとは思えない。だからこそ、斬撃を飛ばし、竜巻を起こせでも俺自体そんなに驚かなかったのだ。これぐらいできて当たり前というか……。元々恩恵もあるんだから、まぁ、なんとも言えないが。
当時の様子を雫は知らない。それでも、マキさんの発言の数々でエターナルブレードがどれほど有名なのか察した雫はそこに疑問を抱いた。
しかし、俺にはその疑問に答えるだけの解答を持っていない。というか、そこに疑問を抱いたことすらない俺には、無理な話だ。
試しにシャルロットを見てみる。
シャルロットは俺の視線に対して首を横に振った。
「私もよく知りません。ごめんなさい」
謝るシャルロットに俺は気にしてないというように笑顔を向ける。
となると本当にエターナルブレードはその刀身の大きさだけで、アイリスタのギルドメンバーをもどよめかす知名度を誇っていたと考えられる。
……うーん。どうだろうか。それだけのことで、アイリスタの、いわゆるゲームで言うところのラストダンジョン前の街の住人をどよめかせられるだろうか。正直難しいと思う。俺はアイリスタが初めての街だったから何とも言えないが、アイリスタのギルドメンバーというのは他の街に比べて強者が多いという。つまりいろいろな経験をしてきてあの街に移住しているのだ。そんな人たちをもどよめかせるほどの武器が、大きさだけとは……何度も言うが考えられない。
ついつい考え込んで黙ってしまった俺に、上から声がかかる。
「きっと、リュウカの言ったことと同じなのでしょう」
声の主はエンシェンだ。
雫の腰からいつの間にやら俺の前まで飛んできて刀の体を揺らしている。
「私と同じ?」
「はい。つまりはぎゃっぷというものです」
使い慣れていない単語に完全にひらがなの発音だったが、そんなのはお構いなしにエンシェンは続ける。
「男性でも持てるかどうか怪しい背丈以上もある大きな武器を、マキのような女性が扱っている。それだけで印象としては圧倒的に残るでしょう」
「あぁ……なるほど」
エンシェンの説明に俺以外の雫、シャルロットも納得といった表情でマキさんを見ていた。
マキさんは細身だ。そんな女性があんなにも大きい武器を操っているとなれば、確かに衝撃で記憶に残る。ただ振っているだけでもすごいと思ってしまうのだ。
「それが独り歩きしてあんなにも有名になったと」
「ええ。きっとそうなのでしょうね」
「な、なんかお恥ずかしい……」
「いいじゃないですか。幸か不幸か、武器だけが有名になりマキ自身はそこまで人目につかないのですから」
「うん、まぁ、そうなんだけどね」
あははははと笑うマキさんにシャルロットが一歩前に出た。
なにを言うのかと思ったが、続く言葉は当たり前の疑問だった。
「不思議ですね。普通それが理由なら武器と一緒に扱っている人の方も有名になるはずなのに」
「あー……それはね」
すると、そこでマキさんは頬を染めて照れ笑いを浮かべた。
「ウィルがいろいろと守ってくれて。ほら、私って視えちゃうから。どういった理由で近づいてくるのか分かっちゃうと、ね」
含みのあるマキさんの言葉に、俺たちは全員黙り込んだ。
有名になるというのはそれだけ人目に晒されることになる。たくさんの人の感情に晒されるということはマキさんにとっては害の方が大きい。
知らなければいい事も知ってしまう可能性もある。せっかく落ち着いたのにまたしても人間不信のようになってしまうかもしれないことに、ウィルさんが事前に対処したということだろう。
「それもあってか、勝手にエターナルブレードの名前だけが広がって……今のような感じになったと思うのよね。私自身はあんまり詳しいところまでは知らないから他人ごとみたいになっちゃうけど」
申し訳なさそうに言葉尻を下げるマキさんを見て、俺は首を振った。
別に眉を落とすことでもない。マキさんが他人事のように思っているのは、逆に言えばウィルさんがしっかりとマキさんを守ったということになる。
完全にエターナルブレードだけでマキラニアという人物は出てこない。
それが一番マキさんにとっていいことだ。
俺はそう納得して左手にストレージを取る。
心の中でエターナルブレードの名前を叫ぶと、瞬く間にエターナルブレードが具現化された。
ドンという質量のある音を立てて草原に突き刺さる大剣に全員の視線が集まる。
「これなんですけど、どうですか?」
俺の問いかけにマキさんはエターナルブレードの全身をじっくり見つめた後、懐かしそうな表情を浮かべた。
「ええ。まさに私が出したエターナルブレードです」
「そうですか……よかった」
俺の安堵のため息に、マキさんの面白そうな声が聞こえてきた、
「ふふ。不安だったんですね」
「ええまぁ、一応」
斬撃も竜巻も出せないといった時点で少しだけ、違う武器なんじゃないかという可能性は少なからず出てきた。
まぁ、全て視えてしまう千里眼の前に心配など無縁なんだろうが、それでも確認してもらう必要なあるだろう。
俺とマキさんが互いにエターナルブレードを間に笑いあっていると、おもむろに柄の部分に小さな生物が降り立った。
柄の先端に立ち、ルクスがマキさんの方を向いて鳴く。
「きゅる!」
「あらルクス。あなた起きたのね」
「きゅるきゅるきゅる」
「え? この剣から私の匂いがする? ふふっ。さすがね」
そう言ってよっとというように軽く、片手で地面に突き刺さったエターナルブレードを引き抜いた。
それにまるで練習したように同じタイミングで俺たちから声がもれる。
『片手……』
「驚きました?」
「え、ええ……」
俺が生唾を飲み込みながら首を油の少なくなったロボットよろしく動かした。
同じように驚きのあまり目を見開いている雫とシャルロットも頷く。
「すごすぎ……」
「どこからそんな力が……」
「まぁ、なんというんでしょうか……慣れ?ですかね」
ふふっと笑うマキさんに圧巻というように言葉を失う2人。
俺も俺で本音がもれる。
「俺でも恩恵だよりなのに……」
「ふふ。人は見かけによらないんですよ」
「よらなすぎです」
ため息混じりの呟きに対してもう一度マキさんは笑って見せると、エターナルブレードを軽く掲げて草原を舞うように動き出した。
流麗に動くマキさんとエターナルブレード。それに付き添うように器用に周りを飛び回るルクスの姿は、色とりどりの花々に囲まれ一つの綺麗な絵画のように美しく、見るものすべてを釘付けにするかのように、周りを魅了していた。
有名になるのも納得の光景が広がる。
それをただただ見ることしかできない俺たちは、開いてしまった口を閉じるのも忘れて、しばらくの間、舞うマキさんとルクス、そしてエターナルブレードに見入っていた。
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