第25話 なんかもうなんでもありですね
「転生者というのは、分かっている通り、この世界とは別の世界から来た方のことですな」
「はいまぁ、知ってます」
「我々の世界ロンダニウスはそんな転生者に対して、いろいろと特別な扱いをするようにということになっておりまして」
「だから、直接俺をここに呼んだと?」
「その通り。あれはギルドメンバーになるに問題ないか確認すると共に、転生者かそうじゃないかという判断も兼ねております」
ヘイバーン支部長はそう言ってひげを触る。
癖なのだろうか。
「それでその、俺はギルドメンバーになれるんですかね?」
「ふぉふぉふぉ。問題ありませんよ。そうですな、まずはこれを差し上げましょう」
そう言って差し出されたものは少し硬い真っ黒な板だった。
ちょうど、地球で使っていた携帯と同じような大きさと硬さで手になじむ。
「これは?」
「ストレージ……と言って分かりますかな」
「ああはい。分かります分かります」
ゲームとかでよく聞いた言葉だ。
「じゃあ、この中にいろんな物が入るって訳ですか」
「ええそうですな。魔力を込めればなんでも、家でも入ってしまいますよ」
「あはははは。それはすごいですね」
俺は適当に反応する。
家を持ち歩く奴なんていないだろ……。
「ていうか、魔法って俺でも使えるもんなんですかね」
「もちろん使えますよ。この世界に足を踏み入れた段階で、誰でも魔法を使う素質は作られますからな」
「どうやってです? 前の世界に魔法なんてなかったんですけど……」
まぁ、進み過ぎた化学は魔法と変わらないといえばそうなのだが。正直、電話とかメールもよく原理が分からず使っているところがある。
あれでなんで離れた人に届くのかな。
「試しにストレージに登録してみましょう」
ヘイバーン支部長は俺の持っている黒い板(これからはストレージと呼ぼう)を指さし軽く言った。
「ストレージに意識を集中させて」
「は、はい」
俺はなんとなく目を閉じて、手に持っているストレージの感触に意識を集中させた。
すると、真っ暗な俺の視界に光が差したように感じ、目を開ける。
「…………」
ストレージは俺の手の中で光り輝いていた。
どうしたわけでもない。ただなんとなく意識をストレージに向けただけなのに、ストレージは、俺のなにかに反応を示して光っているように見える。
「ふぉふぉふぉ。成功ですな」
「……これでいいんですか?」
「問題ありませんよ。これで栗生拓馬君……いえ違いますか。リュウカさんは無事、ギルドメンバーの一員です」
「はぁ……なんだか実感わきませんね」
「こんなものですよ。ストレージをよく見てください」
俺は言われるまま、手に持っているストレージに目をこらす。
『 リュウカ ギルドメンバーNo.1105
主な拠点 アイリスタ支部
所持金 10,000,000 』
真っ黒なストレージの表面にうっすらとした光で文字が書かれていた。
ははーん。こういうことね。簡単なプロフィールってわけか。なるほどなるほど。
分かりやすい。分かりやす……!?
「あ、あのちょっとおかしなところが……」
「おかしなところですかな?」
俺はヘイバーン支部長に自分のプロフィールらしきものを見せる。
「どこにもありませんけど?」
「いやいやいや。あるでしょ。おかしなところ!」
「なんですかな」
俺はもう一度確認する。
『 リュウカ ギルドメンバーNo.1105
主な拠点 アイリスタ支部
所持金 10,000,000 』
やっぱりだ。おかしい。
どう考えてもおかしなところが1つだけある。
「俺、こんなにお金持ってないんですけど!?」
なんて言ったって一文無しの状態だったのだ。
しかし、ヘイバーン支部長は特に驚いた様子はない。またもや俺が突き出したストレージに目を向けると、当たり前の様に呟いた。
「それは、ギルド会館本部からの感謝料ですぞ」
「感謝料って。俺なんにもしてないんですけど」
「なにをおっしゃる。この世界を選んでいただいた、そしてギルドメンバーになってくださったということ自体が我々には嬉しいことじゃから。気にせず自由に使ってくれて構わないですぞ」
「いやいやいや、それにしてもこの値段は……」
一、十、百……日本円で換算すると単純に一千万はある……!
「なんじゃの? 足りないのか?」
「そんな、もう十分で……」
「そうかそうか。ちなみに、転生者のリュウカさんには宿屋の一室を無料で提供しますので、泊まるところの心配もありませんぞ」
ひげを触りさらっとすごいことを言ってのけるヘイバーン支部長。
心配していた全てのことが、簡単に解決していく。
なんていうか、普通に怖い。
「さらには」
「まだあるんですか!?」
「まぁまぁ。落ち着いてくださいな。さらには、毎日5万ルペがストレージに入るようになるのじゃ」
「…………」
なんだろうか。頭の理解が追い付かない。
「えっと……5万ルペってどれぐらいの価値が」
「まぁ、生活に困らないぐらいじゃな。むしろ使い切るのが難しいぐらいのお金じゃ」
「それが毎日?」
「毎日ですぞ。勝手にストレージに入るので、リュウカさん自身が気にする必要はありません」
「ちなみにこれも転生者だから……」
「もちろんですな」
ヘイバーン支部長は軽く言うが、それってやばくないか……?
なんか語彙力がなさ過ぎて申し訳ないが、やばいよね?
お金にも困らない。衣食住のすでに住が確定している。さらに言えば、神様からの恩恵で寿命以外では死なない。まだ体験してないが武器だって簡単に使いこなせるようになっているはずだ。
つまり、いろんな意味で今の俺はぶっ飛んでいる存在だということ。
しかも男で女だし。
なんかもうなんでもありだな!
考えるのがバカバカしくなってくるわ。
「はぁ~~~~……」
「おやおやお疲れですかな」
「いやもうなんていうか……」
「ふぉふぉふぉ。まぁ、まだこの世界に来たばかりでしょうからな。お疲れなのはわかります。私の話はここで終わらせていただきますよ。では、楽しいロンダニウス生活を」
「ああ……はい」
俺はぼーっとした頭で立ち上がる。
「ああそれと、泊まる宿屋はご自分で決めてもらっていいですから。カウンターで職員からあるものを受け取ってくださいね」
「りょうかいでーす」
適当に返事を返して、俺は支部長室から出ていく。
ちなみにストレージはズボンのポケットに入れてある。
完全に携帯だ。しっくりくるわ。
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