第41話 依頼達成です!

「リュウカ、どうして武器も持たずに街の外になんか出たんだ。いくらお金がいるからって危ないじゃないか」


 アイリスタまでの道のりの間、アーシャさんがそんなことを聞いてきた。


「そうよ。今日はたまたま私たちが通りすがったからよかったものの、もし誰も助けられなかったらリュウカちゃん……」


 そう言ってミルフィさんも心配そうに俺を見つめてくる。

 2人は俺が転生者だとは知らない。

 2人にとってみればリュウカという人物は『バルコンド出身の世間知らずのお嬢様』ということになっている。

 そしてお金を持っていないこともまた、2人の中では周知の事実であるのだ。

 まさか、転生者で初めに感謝料として1千万ルペをもらっており、しかも、毎日5万ルペも入ってくる。さらには、転生者なので寿命以外の要因では死なない体であることなど夢にも思うまい。

 俺はどうしようかと思って考えた後、当たり障りのないことを言うことにした。


「ええっとその、採取依頼だったら私でも大丈夫かなって思ったんですよ。お金がないと武器も買えませんし、戦わないのなら出来るって思って。まさか、白薔薇にあんな効果があるとは知らなかったですけど」


 苦笑いを浮かべながら俺はそう言った。

 別に嘘は言ってない。まぁ、武器が買えないあたりは今考えたことだけど。

 でも、考えついて思ったけど確かにそうだな。一文無しの俺は普通だったら武器屋に行ったところで武器すら買えない。

 つまり、咄嗟に考え付いたとしては十分に的を射ているというわけである。

 おかげで、アーシャさんもミルフィさんもこれといって変に思っていない様子だ。


「まぁ、確かにそれはそうだがな」

「でも気をつけてね」

「へ?」

「リュウカちゃんはアイリスタに来たのが初めてだから知らないかもしれないけど、この街アイリスタはロンダニウスでも特に魔界から近いところにある街なの。つまり」

「魔物もそれだけ凶暴性が高いってことだ」


 アーシャさんがさらっとそんなことを言う。

 ミルフィさんも頷いている。

 確かにオオカミたち、ええっと『ウルフ』か、それに襲われたとき明らかに強すぎると思っていたが、しっかり理由があったわけだ。

 てっきり俺が素人だからだろうと思ったが、それだけじゃなかった。

 アイリスタは魔界にある人間側の拠点から1番近い街。ゲームで言うところの、ラストダンジョン前に訪れる最後の街に匹敵する位置にあるわけである。

 まぁ、つまりはその草原にいる魔物も、それに恥じない強さになっているわけである。ギルドメンバーが多いのも魔界が近いことが由来しているし、ここのいる魔物たちが他のところよりも強いのは疑う余地はないだろう。

 最初からアーシャさんたちのことを疑うつもりなんてなかったが、改めて考えると始まりの街にしては難易度が高い。というか、高すぎる。

 神様め……! よくもこんな場所を初めにしやがったな!

 治まっていた神様に対する怒りが沸々と沸き起こってきた。


「どうしたリュウカ」

「なんだか顔が強張ってるわよ」


 そんな俺の顔を見て、アーシャさんとミルフィさんが気づかわし気な声をかけてくれる。

 はぁ、2人は優しいな。どっかの神様とは大違いだ。


「い、いえ、なんでもないんですよ。ちょっと気を引き締めたと言いますか。そんな感じですから」

「そうか。ならいいが」

「ふふ。これからはあまり無理しちゃだめよ」

「はーい」


 子供っぽい俺の返事に、アーシャさんもミルフィさんも微笑ましい眼差しを向けてくれる。

 散歩ってこんなに楽しかったんだな。ずっとこの時間が続けばいいのに。

 まぁ、そんなことあるわけなく、それからすぐに俺たちはアイリスタの街に入っていった。


        **********


「じゃあ、私はギルド会館に行きますね」

「ええ。私たちはここで待ってるわ」

「悪いな」

「いえ。ではまた」


 アーシャさんとミルフィさんとはアイリスタの街の入り口で別れる。 

 早いうちに依頼の報告を済ませた方がいいだろうとアーシャさんに言われたからだ。騒ぎになることを見越して2人はこの場所で俺の帰りを待っているというので、先に別れて俺だけがギルド会館に向かう。

 ギルド会館までの道のりは聞いてある。

 今歩いている道に沿っていけばいいらしい。

 なので、俺はその道をまっすぐに歩いて行った。

 すぐに目的のギルド会館の建物が見えてきた。朝よりも多くの人が行き来している。あの2人が来たら確かに騒然とするだろうな。

 ほんと有名人は大変そうだ。

 俺はギルド会館に入ると、寄り道せずにカウンターへと向かう。

 依頼の達成報告は名前を言えばすぐにも対応してくれるというので、俺は空いているカウンターの前に来るとすぐに口を開いた。


「リュウカですけど、依頼の報告を」

「はい、分かりました。早かったですね」


 知的で冷静な声がカウンターの向こうから聞こえて来る。なんとなくそうだろうなと思っていたが、その声の主はあの受付のお姉さんだった。

 運がいいのか悪いのか、まだ出会って2日だと言うのにお姉さんの声は聞きなれてしまった。カウンターに来たのは3回。それも3回とも同じカウンターには顔を出していないのにもかかわらず、絶対にこのお姉さんが受付をしてくれる。


「では、確認させていただきます。ストレージを出してください」

「はい」


 俺はポケットからストレージを取り出す。

 草原では仕方がなく体に入れていたが、やっぱりこっちの方がしっくりくる。

 完全に収納するようになるのは、まだまだ先だ。今は街の外に行く時だけにしようと思っている。


「そのままストレージを持っていてくださいね」


 そう言ってお姉さんは、同じようなストレージを俺のストレージの上に置く。

 すると、互いのストレージが光り輝く。

 なにかが俺のストレージからお姉さんの持つストレージに移動するような、そんな感覚が手のひらに伝わってきた。


「はい。確かに受け取りました。白薔薇の庭園、これでクリアです」


 お姉さんはストレージに浮かんだ文字を読むかのように、ストレージを眺めながらそう言う。


「では次は報酬を授けますので、そのままでお待ちください」


 間髪入れずお姉さんがストレージを俺のストレージの上に持ってくる。

 今度はお姉さん側から俺のストレージに何かが渡る。


「はい。確かに報酬のエターナルブレードを渡しました。ご確認ください」


 ご確認くださいと言ってもな。まさかここでエターナルブレードなるものを出せってことだろうか。

 そう思いながら、俺は自分のストレージの文字に目をやる。

 

『エターナルブレードを手に入れました』


 すると、俺のプロフィールが薄くなり、その上に被さるようにそんな文字が浮き上がっていた。

 なるほど、確かめるってそういうことか。

 よく出来てるな。……スマホだわこれ。

 しばらくすると、その文字は消え、いつものプロフィールが浮き出てくる。

 俺はストレージをそっとしまう。


「ご確認いただけましたか?」

「はい。確かに受け取りました」

「そうですか。初めての依頼、お疲れさまです」


 珍しくお姉さんがそんなことを言ってくる。

 キャラっぽくないその言葉に、すぐに仕事だなと思いいたる。


「ありがとうございます」

 

 なのでこちらも社交辞令の様にお礼を言う。


「こうしてお話をしていると、本当は男だと忘れてしまいそうになりますね」

「そうですかねー? なんだったら忘れてくれてもいいんですよ」

「いえ、それはあり得ません。身の危険がありますから」

「まったくもう。人を変態みたいに」

「変態でしょ」

「まぁ、否定はしません」


 今更お姉さん相手に隠しても仕方がない。

 小さな声でそう会話した後、俺はカウンターから離れていこうとする。


「あら?」


 そんな時、お姉さんが俺の腕部分を見ながら口を開いた。


「リュウカさん。服が破れていますけど」

「ああ、これですか?」


 俺は破れた部分を見つめる。

 オオカミ改めウルフの攻撃により、俺の服は所々破れてしまっていた。本当であればその先の皮膚まで傷が及んでいたのだが、それはミルフィさんが魔法で治してくれたので、今は痛くない。


「ちょっと魔物にやられまして」

「そうだろうとは思いました。よければ服が売っているお店の場所、お教えしましょうか? まだまだ知らないところばかりでしょうから」


 お姉さんが優しくそう言ってくれる。

 これは仕事の範囲ではないことはさすがに分かった。純粋なお姉さんの厚意だ。

 しかし、俺は首を横に振る。


「大丈夫です。実は、これからある人たちに店を紹介してもらう約束になっているので」

「そうでしたか」

「はい」


 実はアーシャさんとミルフィさんとはまた会う約束をしていた。

 ミルフィさんが俺の服を見て、買い替えたほうがいいと言ったからだ。つまり、これからアーシャさんとミルフィさんの2人と俺はお買い物に行く。デートだデート。

 楽しみだなぁ。


「早くもそういった仲間に出会えたのですね。ギルドメンバーを見守る立場として嬉しく思います」

「仲間……ですか。それもそうですね。ありがとうございます」

「よければ私にもいつか紹介してください」

「いいですけど、きっとびっくりすると思いますよ」

「はい? それはいったい」

「では、行ってきますね」


 俺は戸惑うお姉さんをしり目に、ギルド会館を出て2人の待つアイリスタの入り口付近へと向かう。

 いくら会館の職員であろうと、絶対驚くだろうな。

 なんていったって、その仲間というのはこの街の有名人のアーシャさんとミルフィさん。通称、姉御と姫の2人なのだから。

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