第69話 小動物系美少女 シャルロット

 俺の胸の中から顔を出したシャルロットはすぐさま目に浮かんだ涙を拭く素振りをすると、表情を明るいものにして俺を見上げてくる。

 上目づかいと涙目の合体技にどきりとした。

 かわいい。耳で小動物感がすごいぞ。


「すみません。助けていただいただけではなく、こんな姿を見せてしまって」

「ああいいのいいの。むしろお礼を言いたいのは私だから」


 こんなかわいい美少女と抱き合えたのだから。

 シャルロットはよく分からないといった具合に首をかしげていたが、そのまま疑問に思っておいてもらおう。

 無垢な少女を汚してはならない。


「そんなことよりも、もう体は大丈夫?」

「はい。ぐっすりだったので疲れはありません」

「そっかよかったね。後は足が治ればってところか」

「それだったら大丈夫ですよ」


 すると、シャルロットはおもむろに自分の足に触れた。

 怪我した方の足の腫れを確認すると、そこに向かって何かを発動させたのだ。手の周りに緑色の光が宿り、足の腫れが徐々になくなっていく。

 数分もしないうちにシャルロットは手を離し、普通に立ち上がった。

 飛び跳ね足の状態を確認する。


「うん。大丈夫」

「え? 治ったの?」

「はい。そうですよ」

「もしかしなくても回復魔法ってやつ?」

「正確には治癒魔法ですけど……珍しいですか? これぐらい、誰でも出来ると思うんですけど」

「いや、あははは……そうよね。誰でも、誰でもね」


 俺はできないけど。

 まぁ、緑の光を見た時から想像はしてたけど、やっぱりか。緑と言えば治癒といった感覚はどこに行っても伝わるらしい。


「じゃあ、もしかして助けなくても大丈夫だった?」

「ああいえ、それはありません。たぶん、あのときリュウカさんに助けられなかったらきっと今頃」

「うんうん。あんなことやこんなことを」

「―――殺されていたでしょうから」

「……そうよね! 殺されてた殺されてた! 危なかったわね!」


 いやほんと、俺の思考回路が危ない。

 なんだってすぐ美少女と魔物を見てしまうとそういう想像をしてしまうのか。

 反省しろ。俺。


「だから本当にありがとうございました」


 改めてというか、元気になったシャルロットが頭を下げてくる。

 なんだかこう、むず痒いな。日頃人に感謝されるようなことをしてこなかったからか、こういったことに耐性がない。どうすればいいのか分からなくなる。

 なのでとりあえず、慌てて下がったシャルロットの頭を見て優しい声を出した。


「気にしないで。依頼のついでみたいなものだったから」


 言った瞬間後悔した。

 これじゃあまるで、依頼の達成が目的であって、決してシャルロットを助けようとしたわけじゃないみたいじゃないか。助けたわけじゃなく、いつの間にか助けていたという感じになってしまう。

 いや、去り方的にはその方がかっこいいのかもしれないが、俺とシャルロットは同じ宿屋に泊まっている者同士。下手すると毎日顔を合わせることになるのだぞ。

 むしろ、助けようと思って助けたと言った方がいいような……いやどうだ? むしろ今の方がまだましのような……。

 ああやばい。混乱してきた。

 しかし、もう言ってしまったからには仕方がない。

 シャルロットの反応を待とう。


「リュウカさんって……」


 あれ? なんかやばくない?

 体が小刻みに震えているような……。

 もしかして怒ってる!? いやいや、怒る要素どこにもないだろ。大丈夫だ落ち着け。美少女を前にすると変に気にし過ぎてしまうのは悪い癖だ。

 落ち着け落ち着け。

 大丈夫大丈夫。

シャルロットちゃんが顔を上げるよー。さぁなにを言う。


「優しいんですね! わざわざ私が気にならないような配慮をしてくれるなんて!」


 ほーら言っただろ。大丈夫だってな。

 ……よかったぁ。マジで安心したわ。

 いやほんと、心臓に悪い。

 つっても、この子、めちゃくちゃいい子じゃん。もう笑顔が明るい。

 助けてよかったと心から思えるわ。


「シャルロットはかわいいな」


 ついつい、頭を撫でてしまった。

 そのことに、シャルロットの顔がぼふっと赤くなる。


「い、いえそんな……恥ずかしい……。それにリュウカさんの方が大人っぽくて素敵です」

「ああいや私はいろいろ残念だから」


 中身が。

 男だと知ったら卒倒するだろうな。こんな純真な子。


「ん? どういうことです?」

「気にしないで」


 俺は頭をなでるのを強めた。

 耳がピコピコするのがかわいくてやめられない。

 綺麗な髪に整った顔立ち。母性をくすぐる容姿と性格。

 隠すのがもったいないくらいの美少女だ。こんな美少女がギルドメンバーにいたら、放っておかないだろ。特に男連中は。


「もったいないなぁ。こんなきれいなのを隠さないといけいないなんて」


 つい、考えていることが口から出てしまった。

 シャルロットの表情が嬉しさと寂しさの両方を併せ持った、複雑なものになる。


「ダメなんです。この耳は隠さないと」

「なんでそこまでするの? 私は別にいいと思うけど。むしろ、耳があるからいいと思うんだけど」

「リュウカさんは特殊なんです。普通、気味悪がります」

「そうかな?」

「そうです!」


 頑なな態度に俺もそれ以上の追及はやめた。

 なーんか、別の理由があるような気がしてならないんだよなぁ。この反応。

 まぁ確かに、ケモミミ文化のない国に行けば変な奴と思われるかもしれないが、ここは別に日本でも地球でもない。

 魔法も魔物も存在する世界だ。

 おかしいと思われたところで、そんな人間もいておかしくないだろうって思うぐらいだ。そこまで徹底的に隠さなくてもいいと、俺は思うんだけどな。


「私のことはいいじゃないですか。それに、会館に行かなくていいんですか?」

「へ? なんで?」

「依頼ですよ。依頼を受けてたからリュウカさん森にいたんですよね。達成報告、しなくてもいいんですか?」

「あー!! そうだった、忘れてた!!」

「まったく……私はもう大丈夫ですから、行ってきてください」

「いいの!?」

「構いませんよ。助けていただいたのに、これ以上迷惑かけられませんから。むしろ、行ってくれた方が私としても安心します」

「そう言うなら分かったよ! じゃあね! シャルロット!」


 そう言って俺は宿屋の部屋を出ると、そのまま走ってギルド会館に向かった。

 別に依頼に制限があるわけではないし、報酬が早く欲しいと思ってもなかったのだが、なぜだが急がないといけないような、そんな気がしたのだ。

 会話の流れってのは甘くみちゃいけない。

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