第123話 意外な来訪者
アイリスタでの銭湯ぶりとなるお風呂を満喫した俺は、自分の体にリカバリーをかけて、濡れた体を乾かした。
その時に脱衣所に備え付けられた鏡を見たのだが、どうやらもう自分の体で興奮することは無くなってしまったらしい。
心は男のままであり、女性は大好きという気持ちはまるで変わらないのに、なぜだか自分の体だけは別のカテゴリーに入ってしまったようで、女性になりたてのころと比べても裸体を見たところで大した驚きもない。
かわいいなと思うぐらいでそれ以上は。
「っていうか、この謎の光どうにかならないのか?」
俺は胸をつかみ上げると、鏡の前で上下させた。
すると、俺の体にはしっている光の内、上半身の光だけが動きに合わせて上下する。
完璧な処理に感心までしてくる。
しかもだ、これは鏡だけじゃなく俺が下を向いて直接みても効果を発揮するので、映像スタッフの仕事の丁寧さがうかがえる。
まったく自分の裸体さえ満足に見れないとはこれいかに。
これじゃあある意味、永遠と俺は生殺しを受ける羽目になるような……。
「はっ―――嘘だろ……てことはつまり俺は……!」
衝撃の事実に俺は脱衣所で膝をついて倒れこむ。
「俺はリュウカである限り一生、一生女性の裸体が見えないということになるんじゃないかぁあああああ!!!!」
俺の魂の雄たけびが風呂場全体にこだまする。
嘘だ嘘だ。そんな……もし将来、あんなことやこんなことをするような仲になる女性が現れたとき、俺は感触を楽しむだけで、目で楽しむことが不可能になるってことじゃないか!! なぜ今までこんな肝心なことに気づかなかったんだ!
美少女になれたからスキンシップとして、男にとってはウハウハな展開が目白押しだと思ったのに。
俺は、俺は―――どうしようもない屑だ。こんなことにも気づけないなんて。
くそっ。どうすればいいんだ。この光を消す方法は……。
「ちょっと失礼しますよ~。多分この家に……あー!! いた! リュウカ!」
項垂れていた俺の耳に、幼さの残る高い女性の声が聞こえてきた。
声のした方向に顔をあげた俺が見たのは、脱衣所の天井付近にふわふわと浮かんでいる1人の人物。いや、正確には人物じゃない。
先端がハート形になった特徴的な尻尾を持つ、淫猥な雰囲気をいつもよりも抑えた、紫肌の角の生えた悪魔の化身が、こちらを指さしていたのだ。
俺は足して驚きもせずにそいつの名前を口にする。
「駄目サキュバス」
「違うわよ! 私は上級悪魔。魔界では誰もが放っておくことのできない、聡明で高貴な存在」
「淫魔が高貴な存在なわけねぇだろうが」
「うっさいわね! 魔界じゃサキュバスっていったら高根の花なんだからね!」
「高根の花? けっ笑わせんな。お前らはただのくそビッ―――」
「それ以上言ったら殺すわよ」
駄目サキュバスは俺の言葉を待たずして、四つん這い状態の俺の背中に乗ってきた。
声のトーンを落とし足を組んでまるでドS上官の様だ。
「忘れてもらっちゃ困るんだけどさ、私、言った通り上級悪魔なの。これでも本気出せば街の1つや2つ壊すこともたやすいのよね」
「駄目サキュバスがよく言ったもんだ。人1人満足に魅了できない奴が、街を壊すなんて100年早いわ」
「ふふっ。100年ね。サキュバスにしてみれば100年なんてすぐよ。あんたら人間みたいに80年やそこらで死ぬほどやわじゃないのよ悪魔ってのは」
「じゃあ1000年早いな」
「っ―――!」
駄目サキュバスの表情が些細だが歪んだ。
俺に体にかかる負荷も重くなる。
「じゃあさ。試してみる?」
「なにを」
「淫夢。私だってあれからより成長したのよ。なにがダメだったか考えて考えて、改良を重ねてきたんだから」
「真面目だな。悪魔なのに」
「真面目だろうが不真面目だろうが関係ないわ。悪魔だって人格はそれぞれなんだから」
「なるほど確かに」
悪魔だから不真面目というわけじゃない。人間が全員真面目じゃないのと同じことだ。
「だったらいいぞ。試してみろよ駄目サキュバス。お前がどれだけ淫夢の力をあげたのか。ありがたくもこの私が実験台になってやる」
「駄目サキュバス。駄目サキュバス。リュウカ。あんた状況分かってんの? いつまでも上級悪魔をなめてたらダメよ」
「なめるもなにもそれだけの威厳がお前にはないだろうが。威厳もなにもない奴にそんなこと言われても心に響かないな」
俺の完璧な挑発に駄目サキュバスはまんまと感情を昂らせた。
力任せに俺の首元に手をやり、床に押し付ける。
「ほんっとにムカつく!! その余裕な雰囲気もなにもかも全部! いいわ。お望み通りあなたを実験台にしてあげる。強まった淫夢で操られても知らないんだから」
「へっ。別にそうなればそっちの勝ちだろ。駄目サキュバスって名前も返上できる。私もちょうど未来に絶望していたところだ。お前の駄目淫夢をみるぐらいが一番いい薬になる。WIN-WIN、だろ?」
「そうね」
駄目サキュバスは俺の言葉に口元をあげると、そのまま床に押し付けている俺の耳元まで近づいてきた。
「魅了に成功したら、リュウカははれて私の下僕。その恰好がよく似合う私専用の肉椅子にしてあげるから」
「それは嬉しいことだな。私がMだったらの話だけど」
「大丈夫。魅了されればすべてが気持ちよくなるんだから。私の椅子として一生快楽に身を預けることが出来るわ」
「へぇ。そりゃあ幸せかもな」
「ええ」
「だったら早くしてくれよ。この体制、結構腹立つからさ」
「そう焦らなくてもすぐにあなたは夢の中」
駄目サキュバスが俺の目を見る。
黒い瞳が紫に光り、俺の意識がサキュバスの体の中に吸い込まれていく。
「いい夢見させてあげる」
お決まりのささやきで俺の意識は完全になくなった。
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