第47話 いい湯だなぁ

「わふ~……」

「ふふ。幸せそうね」


 ミルフィさんに髪を洗ってもらった俺は、アーシャさんとミルフィさんに向かい合うかたちで湯船の中に入り、温泉を堪能していた。

 いやぁ、いい湯だぁ。しかも、前には美少女が2人と来たもんだ。これはもう、死んでもいいかもしれない。

 相変わらず、なにに対しての規制を気しているのか分からない湯気のせいで、アーシャさんとミルフィさんの顔しかはっきりとは見えなのだが、これはこれで良いような気がしてきた。

 チラリズムというか、そういった類のあれである。見えないからこそ、妄想の幅が広がり興奮してくるのだ。だからまぁ、この湯気ばっかりの状況も結構楽しめていたりする。

 お湯の蒸気で火照った頬に、若干見える2人の少し違ったシルエット。アーシャさんはスレンダーでとてもかっこいいというか、見ていてエロいというよりも綺麗だという感想が最初に出そうな体をしている。対して、ミルフィさんは洗い場の時でも触れたが、大きな胸と女性らしい柔らかそうな肌がとてもエロかった。

 そんな2人の美少女を前にして、俺はぼけーっと妄想にふけっていたわけである。

 ついつい、緩み切った声をあげてしまう。


「はぁ~……」

「気持ちいいわねぇ」

「そうですねぇ。なんだか、このまま寝てしまいそうです。私、今物凄く幸せですよ~」

「おいおい。幸せなのはいいが、湯船で寝たら死ぬぞ」

「死んでも構いません~」

「あらら」

「まったく、リュウカは」

「……まさかこっちでこうやって温泉に入れるなんて思ってもみませんでした」

「まぁ、リュウカはまだアイリスタに来たばかりだもんな」

「どう? リュウカちゃん。ギルドメンバーになって、やってけそう?」

「分かりません~。でも、何とかなるんじゃないですかね」

「なんとかってお前な。相変わらず、変に気楽というか……」


 アーシャさんが呆れ交じりに呟いた。

 だが、お湯の中ともあってかどこか全員、ふわふわしているのでいまいち会話が頭に入って来ない。

 受け答えも適当になっていた。


「でも不思議よねぇ。リュウカちゃんはなんというか、そうやってなんでもできそうな、そんな感じがするわね」

「ミルフィまで……まぁ、否定はしないがな」


 そんな中でも2人は仲良さげに会話を繰り広げている。

 俺はまどろみながら2人の会話を聞く。


「……それにしてもでかいな。それに比べ私のは」

「ん? どうかしたのアーシャちゃん。自分の胸なんか触って」

「な、なんでもない!」

「ええー? そうかなー?」

「な、なんだミルフィ」

「ふふっ。えい♪」

「ちょっ! や、やめろミルフィ。くすぐった……ひゃうんっ!!」


 ……おおっと! 今何やらとても可愛らしい声が聞こえましたぞ!!

 危うく聞き逃しそうだったが、確かにアーシャさんの声だった。俺は湯船に半分ほど浸かっていた顔をガバッと起こし、対面の2人を見た。


「だ、だから、やめ……あっ…」

「遠慮しないのアーシャちゃん。知ってた? 胸って揉むと大きくなるのよ」

「べ、別に気にしてなんて」

「じゃあ、なーんで私とリュウカちゃんの胸を見てたのかなー?」

「そ、それはだな、その……」

「しかもその後自分の胸なんか触っちゃって。ちょっと悲しそうな顔したの、私見てたんだからねぇ」

「うっ」

「素直になりなさーい。アーシャちゃんも女の子ね」

「や、やめろ恥ずかしい。あと、そんなこと言いながらも揉み続けるな。な、なんだか変な声が、あん♡」

「あらら、かわいい。いつも冷静なアーシャちゃんらしくない声。リュウカちゃーん」

「は、はい! なんでしょうか!」

「一緒にアーシャちゃんの胸、モミモミしましょ」

「も、モミモミだなんてそんな……」

「そ、そうだぞリュウカ。断っていいんだ。ていうか断れ!」

「リュウカちゃーん。ほらほら~」


 ミルフィさんが小悪魔スマイルを浮かべて俺を手招きする。しかも、片手ではアーシャさんの胸を鷲掴みときている。

 なんとまぁ、いやらしい誘い。そんなの、初めから決まっておろう。


「リュ、リュウカ……? お前まさか」


 徐々に近づく俺を見てアーシャさんが引きつった笑みを浮かべる。俺はそんなこと気にすることなく、手をワキワキさせながらアーシャさんに近づいていく。

 ミルフィさんの時はへたったが、今は違うぞ。GOサインが出た時の男をなめてはいけない。


「……そんな嬉しい誘い、乗らないわけないじゃないですかーー!!」

「い、いやあぁあああ」


 俺は某泥棒アニメさながらのダイブでアーシャさんの胸を、正面から鷲掴みにした。

 もにゅん。

 柔らかい確かな感触が俺の両手におさまる。

 俺はそのまま何かにとりつかれたようにアーシャさんの胸を揉みしだく。


「あっ、ちょ、やめ……激しい…」


 アーシャさんが身もだえようがそんなの気にしていられない。

 なんだこの感触。自分の胸を触った時とはまた違う、張りと艶のあるお胸。失礼だが、膨らみがあまりなくても、女性の胸って柔らかいんだなぁということを学ぶことが出来ました。ありがとうございます!

 ああちなみに、言っておきますけど、これは女性同士だから出来ることですからねぇ! そう女性だから。俺、女性なんだよ。知ってたと思うけど。

 だから、これはスキンシップの一環なんです。ええ。規制はされませんよ!


        **********


「も、もう、やめて……これ以上したら私、壊れちゃ…あっ♡」

「な、なんでしょうこれ。物凄く興奮してきました。やばいですよ……」

「あらら。でも少しやり過ぎちゃったかしらね」

「うう……」


 あれからしばらく俺とミルフィさんの交互でアーシャさんの胸を揉んでいたのだが、あまりにもアーシャさんの日頃とのギャップが良すぎてついつい調子に乗ってしまった。

 俺の手には未だに幸せな感触が残っているが、顔を真っ赤にさせて涙目で許しを請うアーシャさんが出来上がったことにより、少しだけ反省の色を感じていた。

 すっげー悪いことした気分だ。

 でも、またその涙目のアーシャさんがかわいいともあって、俺はどうしたらいいんでしょうか。


「私……汚された……」


 沈んだ声で自分の体を抱くアーシャさんがいる。

 俺はミルフィさんと見つめ合った後、2人してアーシャさんに頭を下げた。


「ごめんねアーシャちゃん。つい調子に乗っちゃった」

「ごめんなさい。あまりにもアーシャさんの胸が気持ちよくて」

「うう……許さないぞ…」


 それでもアーシャさんは恨みがましく俺たちを見つめている。

 あれ、これは完全に怒らせただろうか。

 そう思ってミルフィさんがアーシャさんに近づいた時、アーシャさんが今だとばかりにミルフィさんに抱き着いた。そして、後ろから胸を揉みしだく。


「お前らにも私と同じ思いをしてもらうからな!!」

「やん♡ アーシャちゃんったら」

「もう怒ったからな。なんだこの胸! でかすぎるんだよ! 戦いの邪魔になるだけだ! このこの!」

「ちょ、ちょっとアーシャちゃん。手つきがいやらし―――あっ……♡」

「へっへっへ。まだまだ、私がされたことよりももっとひどいことしてやる」


 ここぞとばかりにミルフィさんの豊満な胸をアーシャさんは後ろから揉みしだく。

 くそっ! この光景が湯気に邪魔されて見えないのが堪らなく悔しい! 

 だがしかし、アーシャさんが怒ってなかったのはよかった。

 これで安心。

 ホッと胸をなで下ろした俺だったが、すぐに嫌な視線を感じ顔を上げる。


「リュウカー? お前も同罪だからな」

「へ? い、いやその……」


 アーシャさんがミルフィさんから俺に狙いを変えてきた。

 徐々に近づいてくるアーシャさん。俺は体をそらせつつ、アーシャさんから逃げようとするも、元々そこまで広くない浴槽で、すぐに背中が端につく。


「ちょ、ちょっと待ってくださいアーシャさん」

「誰が待つか。このやろー! お前もこうだ!」


 アーシャさんは目を真っ赤に染めて、さながら魔物にでも取りつかれたように俺に飛びかかってきた。


「い、いやあぁあああ!!!」


 俺の空しい悲鳴が浴室内に響き渡る。


        **********


「はぁはぁ……」

「……はぁはぁ…あっ…はぁ……」

「よし。これでいいな」


 アーシャさんが浴室に顔を真っ赤にして悶え倒れている俺とミルフィさんの2人を満足そうに見下ろすと、勝ち誇ったような笑顔を浮かべている。

 や、やばい。めちゃくちゃ体が熱いぞ。のぼせたとかそういったわけじゃなく、単純に体が火照ってたまらない。

 あれからとにかく、俺とミルフィさんはアーシャさんの猛攻にあっていた。

 ギルドメンバーで姉御と呼ばれるほどの実力を持っているアーシャさんから逃げることなどできるわけもなく、ずっと胸を揉まれていた。執拗にミルフィさんと俺の両方を相手に、仕返しのごとく繰り返し揉みしだかれた。

 おかげで、俺とミルフィさんは完全にやられ、こうして浴室の床に寝そべっているわけである。

 お互い甘い吐息が口から洩れ出る。

 なんだろう。男の時には感じたことのないこの感覚。正直、やばいかもしれない。男の比じゃないぐらいに感じる感覚が強くなっている。しかも幸福感も混ざって、とにかく頭が回らない。


「ア、アーシャちゃん。手加減、して…よね……」

「ふん! 始めたのはそっちだろ。知らんな」

「そ、そんなぁ……あっ……アーシャさん、どうにかしてくださいよぉ。体が熱くて仕方がありません」

「じゃあ、そろそろ出るか? まぁ、立ち上がれたら、だけどな」


 そんな意地悪なことを言って、アーシャさんは1人勝手に浴室から出ていってしまう。残された俺とミルフィさんは互いに頬の赤い顔を向かい合わせ、力なく笑う。


「アーシャさんをからかうのはやめましょう」

「そうね。やり返されちゃったらかなわないものね」

「そうです。倍にして返されちゃいます。やめましょう」

「うん。でも、ついつい癖になっちゃうっていうか、やめようと思ってもやめられないのよね、いつも」


 のんきに笑いながらそう言うミルフィさん。


「いやいや、今やり返されたばかりじゃないですか」

「でも、可愛くない? 悶えてるアーシャちゃんとむきになってるアーシャちゃん」

「まぁ、それは否定しませんけど……でも次やるときは私のいないところにしてくださいね」

「ええー? どうしよっかなー」


 俺の言葉を流すようにとぼけた後、ミルフィさんは体を起こして俺に手を差し伸べてきてくれる。

 俺は差し出された手を握ると、ミルフィさんに引き上げられた。


「……分かったわ。リュウカちゃんのいないところでからかうよ」

「頼みます。こんなの続いたら体がもちません」


 火照り過ぎてどうにかなりそうになる。

 やるのは好きだがやられるのって結構疲れるな。

 俺とミルフィさんが脱衣所に戻ると、すでにアーシャさんは着替え終わった後で、鏡の前で長い髪を1つに結んでいた。

 俺はミルフィさんについて行くように移動して、自分の服が入った籠の前に立つ。


「アーシャちゃん早いー」

「お前たちが遅いんだ……なんてのは冗談で、待っててやるから早く着替えろ」

「ふふ、ありがと」


 俺は2人の会話をしり目に、自分の着替えを手に取り、そして困り果てていた。

 バスタオルがない。そう、このままでは濡れた体のまま着替えをする羽目になるのだが、それってお風呂入った意味がないような気がしてならない。というか、ベタベタのまま着替えるとかさすがに無理だ。

 でもな、タオルの類が脱衣所にあるとは思えないし、第一俺たちはミルフィさんの突発的な提案により、なんの準備もなく温泉に来たのだ。

 アーシャさんやミルフィさんもタオルの類は持ってなかっただろうし、どうするのだろうか。

 しかも、よく見れば先に着替え終わっているアーシャさんの髪の毛はすっかり渇いている。ドライヤーもないのにどうやって。

 そう思って辺りをきょろきょろしていると、それに気づいたミルフィさんが俺に声をかけてくれる。


「ああそっか。リュウカちゃんにはこれも教えておかないといけなかったね」

「はい? なんです」

「ちょっと見てて」


 ミルフィさんはそう言って自分の体に手を当てる。

 すると、徐々にだがミルフィさんの体から水気が消えていく。そして最後に、髪の毛をファサっと上に跳ね上げるしぐさをした。

 髪が元の位置に戻ったとき、完全にミルフィさんの髪は渇ききり、いつものふわふわな髪のミルフィさんになる。

 そして、難なく着替えを始めた。


「魔法…ですか?」

「そうそう。リカバリーって言ってとっても便利な魔法なの。覚えておくと何かと役に立つと思うわよ」

「リカバリーですか」

「うんそう。まずは自分の体に手を当てる。ほらやってみて」

「は、はい」


 言われるまま、俺は自分の胸に両手を当てた。別に変な意味があって胸に置いたわけじゃないぞ。ただ、1番置きやすかっただけだ。


「そうそう。そうして綺麗になれって願うの」

「はぁ、なるほど」


 俺は自分の体に意識を集中させると、綺麗になれと呟いた。

 すると、見る見るうちに体全体から水気がなくなっていく。


「うんそんな感じ。あとはその意識のまま髪を勢いよくあげる」


 ふぁさー。

 俺の長い黒髪が上に巻き上がる。

 そして元の位置に下がってきたらなんとびっくり、完全に乾ききっていた。


「そう。それで大丈夫よ」

「便利ですね」

「そうなのよ。リカバリーは覚えておくだけ得な魔法よ」


 なるほど、これがあるからドライヤーもタオルもなかったのか。準備がいらないとなると確かに便利な魔法だ。

 俺はそのまま着替えを始める。


「リカバリーには水気を取る以外も効果があってな」


 すると、髪を結び終わったアーシャさんがこちらに歩いてきながらリカバリーの説明をしてくれる。


「水気を取るほかにも、体の汚れや服の汚れなども落とす効果があるんだ」

「そうなんですか」

「ああ。だから、わざわざ温泉に入らなくてもリカバリーあれば体から服の汚れまで、全部とれるってわけだ」

「へぇ、じゃあ洗濯とかも必要ないと」

「せんたく? なんだそれ」

「あ、いえ、気にしないでください」


 そりゃあ全部リカバリーで1発なんだから洗濯なんて概念なくて当たり前だよな。

 そんな魔法があるから、みんないつも同じ服なのか。納得だ。


「……? リカバリーがあるならなんで温泉なんて……」

「リカバリーには心まで治す効果はないの。だから、こうして温泉に入って癒されるのも大切なのよ。いいこともあるしね」

「そうですね! そこは賛成です」


 俺はミルフィさんの言葉に力強く頷いた。

 ぜひとも、通いまくりたいところだ。この湯気がなければな。

 そして、3人ともが着替え終わったところで夢の温泉タイムが終了。

 でも、俺の心は未だにポッカポッカです。今なら何でもできそうだ。

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