第4話


「…………」


 そういえば、このカードがあったは確か……俺はようやく『ある事』を思い出し、空高く舞っていた本の行方を目で追った。

 もし「どこか行ってしまった……」となった場合。俺のせいになってしまう可能性も十分にある。


 それは正直困る――。


 だが、そんな俺の思いとは裏腹にあれだけ拒絶していたのが、今では暴れまわり、疲れ果てて眠くなった子供の様に静かになっていた。


「……よかった」


 俺はその姿を見て、小さく胸を撫で下ろしていたのだが……。


「…………」


 なぜか少女は俺に向かって、スタスタと歩いてきた。


 最初はなぜ向かって来ているのだろうか……と思っていたが、すぐに自分自身で手に持っていた『カード』の事を思い出し、少女の目的は多分……いや、絶対コレだと察した。


 正直俺としては「なんで本が突然あんな大暴走したのか……とか色々聞きたい……」という言葉が喉ギリギリまで出かかった。

 しかし、結局俺は何も言わず、目の前に来た少女に『カード』を手渡した。


「……」


 少女は結局何も言わず黙ったままで、表情もさきほどから変わらず……と思ったが、若干怒っている様だ。


「?」


 ただ、俺にはその心当たりが全くない。


「はぁ……」


 少女はそんな俺の様子を見ると、小さくため息をついた。その様子は「疲れた……」というよりかは、むしろ「呆れてものが言えない……」といった感じだ。


「……?」


 しかし、呆れられるような事をした覚えもない。

 そんな俺の様子を今、遠目から見ればかなり挙動不審きょどうふしんな人間に見えるだろう。


「なぜ……ここに……人が……?」

「……はっ?」


 突然ボソッ……と呟く様に……しかも、つっかえるように言ったため、最初は何を言ったのか上手く聞き取れなかったが、少女は構わず言葉を続けた。


「ここは……崖などが多い……から」

「……」


 少しの表情の変化と、もごもごと小さく動く口から、俺はこの少女が「あまり人と話すのが好きではない」と思う事にした。


「この地域の人で……すら、ほとんど……近づかない……って聞いていた。それなのに……なぜ?」

「いや、なぜって……そんなこと。俺に言われてもな……」


 いや、思い返してみれば、来る途中に『崖注意』の看板があったかも知れないが、俺はただあいつが書いたの地図の通り素直に来たので特に気にしていなかった。


「ただここは立ち入り禁止にはなっていなかったはずだ。特に文句も問題もないはずだが?」


 でも、確かに俺の記憶が正しければ『崖注意』という看板はあった。

だが、あったのは看板だけで、他に『立ち入り禁止』の表示や看板もなければ警告もなかったはずだ。


 だから、俺が文句を言われる道理はどこにもない。


「確かに、そういう看板はなかった。でも、ここ最近何かと物騒。一人でこんなところにいるのは……どうかと……」

「……それ、そのまま君に返すぞ。なんで、君みたいな女の子が、たった一人で、しかもこんな時間にこんなところにいるんだ?」


「私は……ちょっと用事が……あって」

「……だろうな」


 そうでなければ、こんなところに来る理由はないだろう。しかし、それについて聞こうと思ったが、それを聞く前に少女が話を続けたため、聞けない。。


「だけど、あなたが……それを邪魔した。その結果。その用事に……必要なカード。バラバラに……散らばった……」


 少女は顔を下に向け、悲しそうな表情をしていた。


「……」


 なるほど……ここにきてようやく俺は理解した。


 要するに俺はこの少女の邪魔をしただけでなく、大事な用事に必要なカードをバラまいてしまった様だ。


 それなら……怒るのも分からなくはない。ただ7そうなると、俺はこの少女に何らかの形で謝罪をするのが筋なのだろうか。


「……じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」

「カード探しを手伝ってほしい……」


「はっ?」

「カードをばら撒いたのはあなたのせいだから……」


「そう……だな」

「分かっていると思うけど……、拒否権は無い」


「……無いのか」

「…………」


 正直、無意識とはいえこれだけこの少女に迷惑をかけたのだから仕方ない……のだろうか。


「まぁ、それはいいとして、そもそも……。そのカードは何だ?」


 そう言うと、少女の持っているカードに目線を移した。


「これは星占いとかに使うカード」

「星占い……? テレビとか雑誌とかでよくやっているヤツか……」


 俺は今朝ニュース番組で見た占いを思い出した。


「……そう。でも、その類……の占い……で普通使われるのは……12星座」

「そうだな。しかし、どう見てもその本で、十二枚は……」


 よほど分厚くない限り、足りそうにない。

 つまり、見せてもらったカードの厚さと本のくぼみをたった十二枚で埋めるのは、どう考えても物理的に不可能という事になる。


 そうなると――。


 俺は、思い至った答えを確かめるようにおそるおそる少女に尋ねた。


「なぁ、このカードに必要な枚数は……?」

「……四十八枚」


「四十八枚!?」


 カードの厚さがないならば枚数が多いに違いない。そう考えてはいたが、まさか四十八枚は予想外だった。

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