第4話
「…………」
しかし、ワザと聞こえないモノを聞こえる……と言って下手に噂が広まってしまうのもそれはそれで困る。
多分、刹那も『そんなこと』にならない様に……と思って俺を呼んだだろう。
出来るのであればどうにかしたいのだが……、残念ながら、今の俺の耳には何も聞こえなかった。
「……どうだ? 瞬」
「……悪い。俺には、何も……聞こえないが……」
それどころか……俺は、辺りを見渡し、ある違和感を覚えた――。
「なぁ……」
「なっ、なんだよ……」
「いや、なんでもない……」
「なんだよ。気になるだろ……」
「いや、大したことじゃない……気にするな」
「気にするな……って言われてもな」
刹那は何かブツブツと文句を言っていたが、ここまでのことを思い出すと……ここに来るまで俺は、『幽霊』はおろかを『人間』いや、人影も……一切見ていない。
まぁ、この際『住人』がいないと仮定したとしてもおかしい……。他にもおかしいと思った理由は色々あるが、一番おかしいと思ったのは……。
これだけ古い洋館にも関わらず……地縛霊すらいないという点だ。
普通、こういった年季の入った建物には何らかの形で『地縛霊』が憑くことが多い。
例えば――そこで生活した人たち……などなど。
しかし、そうじゃなくても人が住んでいない場所だったら、ネズミなど何かしらの動物が住みついていてもおかしくないはずだ。
だが、そういったこともない……。違和感の正体はこれだけではなさそうだ。何か他にもありそうな……。
そう考えた瞬間――――。
「なぁ……」
突然、刹那が俺の腕を小さく引っ張った。
「どっ、どうした?」
「…………」
見ると刹那の表情は真っ青だった。その様子があまりにもさっきまでとは違い過ぎる事に驚いた。
「きっ、聞こえる……!」
「なっ、何が……だ?」
「えと『娘を返せ』って言ってる!」
「とっ、とりあえず、落ち着け? なっ?」
とりあえず刹那に説得するように落ち着かせ様とした。それにしても……刹那には怯えてしまうほどハッキリと聞こえているのか。
それなのに俺には全くと言っていいほど聞こえない―――。
「そうだ、深呼吸しろ。深呼吸」
「はぁ……はぁ」
しかし、とりあえず……怯えたままの人間をそのまま放置しておく訳にはいかない。そこで、俺は刹那に深呼吸をさせて落ち着かせた
「落ち着いたか?」
「あっ、ああ。悪かった。もう……大丈夫。大丈夫だ」
ひょっとしたらタイミングが悪かった……ってこともあるかも知れない。そう考え、俺はしばらく目を閉じたまま些細な音も逃さない様に神経を集中させた。
すると――――
『~』
「まっ、またっ!」
「少し黙っていろ……」
『返せ。娘を……返せ。私が悪かったから…!』
「……確かに聞こえるな。場所は……」
「だろっ! だから……って! おい、瞬っ!」
俺は刹那の言葉を最後まで聞かずに声の聞こえる場所まで……走った。
「おっ、おいっ! ああっ! くそっ!」
刹那は一人取り残されるのを恐れたのか、俺を追いかけて来た。
「はぁ……全く、どうしたんだよ」
「…………」
「いきなり走り出して……って、瞬?」
「ここだ………」
「はっ?」
「声のする場所だ……」
俺たちが辿りついたのは洋館の二階の右隅にある部屋だった。俺は扉を開けようとドアノブに手をかけた……。
「待った……」
その時、刹那が俺を制した。
「なんだ、刹那……」
――なかなか珍しい事もある。
いつも刹那は、こういった『幽霊』が関わりそうなことには俺にお任せ……というスタンスを取っている。だから、今回の様に「俺を制する」ということはほとんどない。
「なんだ?」
「……なぁ、今回」
「どうした?」
「…………」
なぜか刹那は深刻そうな表情で俺を見ている。
「あんまり深く関わらない方が良さそうな気がする……」
「いや、今回は幽霊の類じゃない」
「俺にはそれすら分からない。春画言うならそうかも知れない……。だけど!」
「俺を連れてきたのはその『何か』を見極めて欲しかった……。そうだろ?」
「……確かに、そうだよ」
「だったら、その『何か』が分かる……。それを逃すのは……」
「……だから」
「それが危ないって言っているんだ!」
「だが、それは少なくとも生死に関わる話じゃない。それは断言できる」
「…………」
「…………」
「はぁ、そこまで言うなら分かった。」
「悪い」
そう言って刹那は手を引き、そして俺は扉を開けたが……。
「え……いない?」
「そっ、そっか……」
刹那はどこかほっとしているようだったが、俺は周囲を見渡した。しかし、幽霊も人も確認出来ない。
「……おかしい」
確かにここから聞こえたはずだ。だが、今では姿や声はおろか雰囲気全てが消えている――。
「なぁ……」
「ん?」
「そろそろ帰ろうぜ? 俺、今回の追試のせいであまり外に出歩くなって言われているからさ」
「…………」
それは自業自得だろ……と言いたくなったが、最終的には俺のわがままにも付き合ってもらったので、無下にするわけにもいかない。
「仕方ない。分かった……」
「ヨッシ!」
結局、早く洋館から出たい空気感を醸し出していた刹那に連れられる形で俺たちは洋館を後にした――。
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