第5話
「じゃあな~!」
「おっ……おう」
結局、俺たちは洋館から出てそのまま真っ直ぐ帰宅したのだが……刹那は洋館を後にしてから、すっかり元気を取り戻した様だ。
「…………」
そして、俺は刹那の後ろ姿を見送った後、自分が住んでいるマンションを見上げた。
「相変わらず、古いな……」
ただ、それは今に始まったことではない。でも、今日は俺の住んでいるこのマンションといい勝負の『年季の入った』洋館を見たから……尚更そう思ってしまったのだろう。
「はぁ……」
俺は現在、一人暮らしをしている。ただ、この生活も決して楽じゃない……がまぁ、気分的には楽だ。
しかし、誰か人を呼びたい……とは到底思わないし、思えない。
後、オマケで話を続けると、さっきも説明したように俺の住んでいるマンションは、まぁ………いい言い方をすれば『味のあるマンション』で……簡単に悪く言えば『ボロい』わけだ。
でも、俺がここに住み始めた時から外見は何一つ変わっていない。要するに慣れてしまえばそれほど気になる事でもないのだ。
そして、俺の部屋はこのマンションの二階なのだが……。
「んっ!?」
自分の部屋を確認した俺は一瞬、自分の目を疑った。
「なんだ? なんで『あいつ』が?」
いや、もう自分の目を疑いたくなるほど『彼女』の存在は驚きと共にかなり目立っているが、それ以上に部屋の前に、誰かいるっていうのは……なかなかインパクトがある。
元々俺にそんな『経験』がなかった……というのもあるが、その人物が俺に関わりのある人……というものあったのだろう。
「……おい」
ただまぁ、そのまま放っておくのも……と思い、俺はとりあえずそいつに声をかけた。
「あっ……」
すると、俺の声に気づいたそいつ。『
「やっと帰ってきた」
「帰ってきた……じゃない。こんな時間に一人で何してやっている?」
「……待っていた」
「はっ?」
「だから……待っていた」
さも当たり前……といった様子で立ち上がり俺に言った。
「いや、待っていた……って。こんなところでか?」
「うん」
「うん……って」
「????」
今の時刻は、空の様な未成年の少女が一人で出歩くには危ない時間帯だ。それを待っていた……というのだから、危険極まりない行動である。
「はぁ……まぁいい」
「……何?」
「とにかく入れ………」
「えっ?」
俺は扉の鍵を開けながら空を部屋に入るように促したが……空は立ち話で終わらせるつもりだったらしく、驚いたままその場を動かない。
「……早くしてくれないか? 寒いから……」
「あっ……。うん」
呆れながらもそう言うと、空は小さく頷き、ゆっくりと部屋に入った……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで? 何の用だよ?」
「せっかく、来たのに……」
「いや、普通に聞いただけなんだが……?」
「………………」
俺は、思っていたことをただ言っただけのつもりだったが、なぜか空は突然無言になってしまった。
「とりあえず質問に答えてくれ、話が進まない」
「……ちょっと噂話を小耳に挟んだ」
「どんな?」
「…………」
俺の場合。自分の部屋に来客が来た時、基本的に緑茶を出す……というのが、実はお決まりだ。
だから、俺は『いつもの通り』空の前にお茶の入った湯呑を置いた。空は小さく丁寧に会釈して少し飲んで俺の問いかけに答えた。
「どこ……。詳しくは……確か、『娘を返せ』っていう声が……するっていう」
「……洋館の話か?」
「………知っているの?」
「まぁ……な。そういえば、俺も聞きたい事があったな」
「……私に?」
空はかわいらしくお茶を飲みながら首をかしげた。
「ああ……」
「……聞きたいことは分かる……し、その勘は……合っている……と思う」
そう言って空は、コップをゆっくりと置いた。
「今回の発端は、カード『カシオペア座』が原因だと思う。しかも、噂になっている洋館で……。この話が出てきたのはここ一週間の話……らしいから」
「一週間……か。なるほど」
それはちょうどカードがバラまかれた時期ときれいに重なっている。
「でも、その洋館に住人なんていなかったぞ。」
「……………」
「どうかしたか?」
「さっきから話を聞いていて思っていたけど……」
「………………」
「まさか……行ったの?」
「あっ……」
「………………」
「………………」
ここまで言われて俺はようやく空の指摘に気が付き、後悔した……が、そもそも連絡が取れないのだから仕方ない。
「いや……あれだ。友人に言われて……だな」
しかし、この時の俺にその「連絡手段がなかった」という言葉は浮かばず、誤魔化す事に必死だった。
「…………」
「っと、ところで、その『カシオペア座』ってどんな由来があるんだ?」
だから、すぐに話題を変えようといつも以上に早口に言った。
「……うん。えと『カシオペア座』の由来は……」
でも、空は深く追及はせずに何事もなかったかのように質問に答えてくれた。
「一言で言えば『美人な娘自慢をし過ぎた母親が、偉い人の怒りを買い、取り返しのつかなくなったところで、やっと……自分の過ちに気づいて嘆き悲しんだ母親』だったかな」
「なんて言うか、それは……何とも……」
それが最初に空の話を聞いた俺の心境だったのだが、空はさらに話を続けた。
「母親は自分の娘が、あまりにも美しかったことを自慢した。それが、お偉い人の怒りを買ってしまった。怒りを静める為にその娘を生け贄にした……」
「生贄……」
それを聞くと母親自身は何もなかった……という事になる。
しかし、その母親は、自分よりも何よりも『自慢の娘』を自分の手元から離れるのを……一番、避けたかったはずだ。
でも、その時はそうするしかなかった……いや、それしか方法がなかったのだろう。
「……自分の子供がかわいいと親は大抵思うものだと思う。でも……」
「なんにしても『やり過ぎ』はよくないってことか……」
「うん」
「まぁ……そうだな。由来は分かった……とりあえず、もう一度その洋館に行って確かめないとな」
「!」
「ほぼそのカードが原因だろう。だが、ここで話しているだけじゃ、なんとも言えないからな」
「うん。そう……だね」
「よし。じゃあ、明日の昼にするか。ちょうど明日は、土曜日だからな……」
俺はそう空に提案にした。
「…………」
――空は黙ってうなずいてくれた。
「……ところで」
「????」
「お前、どうやって帰るつもりだ?」
「!」
空は驚きながら俺を見つめている。
しかし、俺の心配は当然だろう。今の時間に未成年の少女をたった一人で帰らせる……なんて事は出来ればしたくない。
「いや、一人で帰るのは危ないだろ?送ろうと思ったんだが……」
だが、実は不審に思われていないだろうか……と俺の内心はヒヤヒヤしていた。
「……心遣いには……感謝する。でも、大丈夫」
「そうか? それならいいが……」
あまり深く追求しなかった。本当は気になっていたが、空が自分で「大丈夫」と言っているのだから大丈夫なのだろう。
「じゃあ」
「うん」
空と玄関で別れ、すぐに寝ることにした。
「ふーん。なるほど『娘自慢』か」
俺はその言葉を思い出しながら、天井を見ているうちに、自然と眠りについていた。
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