第3話


「おい、ここか?」

「うっ、うん……」


 そう言った刹那の顔は青ざめている。


「…………」


 まだ入ってすらいないのに、この怯えよう……本当に大丈夫なのだろうか。


「…………」


 そんな刹那のことはおいておくことにし、とりあえず、俺は目の前に佇む『建物』を見上げた。


「でかいな……」


 それが、俺がこの『建物』を見た第一印象だった……。


「うっ……わぁ」


 しかし、刹那はその建物の大きさよりも雰囲気に圧倒されている。


 確かに今、俺たちの目の前にある建物はテーマパークの『ホラー系のアトラクション』にある様な『洋館』だった。

 その上、放課後を過ぎていることもあって夕焼けがさらにホラー的な雰囲気を倍増させている……。


「やっ、やっぱり、かっ帰ろうかなぁ……」


 そう言って刹那は、俺の方をチラッと様子見をしてきた。


「お前から言ってきたことだろ……」

「そっ、そうなんだけど……」


 俺から呆れたように言われた刹那は、今更ながら後悔している様子だ。

いつも思うが、苦手なら来なければいい。それくらい刹那は『怖いモノ』が苦手なのである。

 だが、そんなことは自分自身で分かっているはずなのにどうしてか、俺がこういう場所に行くときは大抵一緒に来たがる。


 例えるなら、怖がりなのにテーマパークでオバケ屋敷を見ると無性に入りたくなってしまう……といった好奇心と同じ様なモノだろう。


「大体、お前が案内役を買って出たんだろ?」

「たっ、確かにここまでの案内はしたけど! 中まで一緒に行くとは言ってない!」


「まぁ……言ってはいないが、なんだかんだで付いてくるんだろ?」

「うっ……」


 ――――俺は『幽霊』を見える。


 そして、唯一知っている刹那はそのような話を聞いてはそのままの情報を俺に『相談』と称して話す。

 まぁ、俺はその話を聞いて実際に『幽霊』がいるのか確認も含めてその場所に行く。だが、その際、刹那もなぜかいつもついて来る……というのがお決まりだ。


「はぁ、とりあえず行くぞ……」

「うー、分かったよ……」


 刹那は、ブツブツと文句を言いながらも一緒に洋館に入って行った――――。


「…………」

「…………」


 入って数分後――――。


「…………」


 ――こいつが『幽霊』の類が苦手なのは知っていた……それについて今更文句はない。人によって好き嫌いがあるのは当然だ。確かに、知ってはいた……が!


「うぅ……。こっ、怖えよ……」

「っ、おい!引っ張るな!」


「だって……」

「動きにくいっ!」


 なんだかんだ文句を言いながら俺に付いて来た刹那だったが……。洋館に入るなり普段では考えられないほどの力で俺の腕を引っ張っていた。


「うぅ……」

「……はぁ」


 これが女子だったらなぁ……いや、それでも青あざが出来てしまう程の力で引っ張られるのは頂けない。

 そんな『男のロマン』みたいなモノをこの男子高校生に望む事自体、そもそもの間違いだ。


 刹那は身長百八十㎝越えで、ば黒縁メガネをいつもかけている。そのせいか、根暗に見られがちだが、眼鏡を外せば……心底どうでもいいが、かなりのイケメン……らしい。


 ただ、学校で見せたいつものハイテンションと、この態度の落差を果たして『ギャップ』と呼んでもいいモノだろうか……。


 まぁ、どうやら巷ではオバケ屋敷で怖がる男性はモテない……。という話を聞いた事がある。その話が本当だとすれば……。まさしくこいつは完全にアウトだろう。


 思いっきり腕を引っ張られながらそんなお節介を考えた。


「うぅ」

「ん……?」


「なっ、何? どうしたの?」

「いや、何でもないが……」


「が? 何?」


「――とりあえず、もう少しこの掴んでいる手を……」

「うん」


「緩めてくれないか? そろそろ痺れて痛い……」

「うわっ! ごっ、ごめんっ!」


 刹那は驚いたように俺から手を放した。


「はぁ……」

「ごめん」


 俺は腕をさすりながらため息をついた。

 そう、実はかなりの力で掴まれていた俺の腕は……かなり痺れていたのだ。正直、いつ言おうとか……とタイミングを計っていたくらいである。


「本当、ごめん。そこまで強い力で掴んでいたつもりは、なかったんだけど……」

「いや、そこまで気にしなくていいんだが……」


 平謝りしている刹那を落ち着かせ、俺たちは洋館をさらに進んで行った――――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「ところで……」

「ん?」


 刹那は、なぜか辺りを窺うように声を潜めながら俺に尋ねてきた。


「どうした?」

「なんか……」


「おう」

「……聞こえないか?」


「…………」

「…………」


 ずっと考えてはいたのだ「この洋館は本当に『住人』はいないのか?」という事を……。

 一応、『誰も住んでいない』と聞いてはいたのだが……実は、その証拠と呼べるモノは一切ない――。


 近くに誰か住んでいれば色々話を聞けたかもしれないが、そもそもこの『洋館』どうやらいないようだ。

 しかも、警察官とかが尋ねるのではなく、俺たちは普通の高校生だ。教えてもらえるか……と聞けば、答えは『無理』だろう。


 そもそもこの話自体『噂』というだけだから……もしかしたら『幽霊』と呼ばれているのも……ここの『住人』の可能性は十分にある。

 しかし、そうなると……俺たちがしていることは『不法侵入』だ。そして、これは立派な『犯罪』だ。


「…………」

「……瞬?」


 この際「何か聞こえる」ということにして、速やかに帰った方がいいかも知れないな……という考えが頭の中で過った――。

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