第3話


「ほら、ちゃんと一列になりなさ~い!」

「は~い!」


 そう言う先生の言葉に生徒たちは列を正した。


「はぁ……」


 俺、天野 瞬が宮ノ森 刹那のいる小学校に転校し、最初に迎えた学校は『秋の遠足』だった。


「なんで、こんな道を一列で歩かなきゃ行けないんだ?」


 俺は列の前にいる刹那に後ろから声をかけた。


「なんで……って言われても……危ないから?」


「歩く方が危ないだろ……」

「そう……かな?」


 確かにバスとかの方が安全などの面ではいいかもしれない。それは刹那も賛成らしく言葉を濁していた。


「例えば……ああやって列からずれている奴とか……確実に一人は出てくるじゃん?」


 俺にそう言われて刹那は前を見ると、目の前では先生に怒られて列に戻されている生徒の姿があった。


「逆に制限を加えるとああいう風にする奴は絶対いる。だったらむしろバスで移動すべきだと思うけどな……」

「そりゃ、バスでここが通れればそうしたいけど……」


 刹那は周りを見渡した。


「ちょっと厳しいかな」

「はぁ……」


 そう、ちょうど俺たちが歩いているのは森……というよりもむしろ『山』だ。キチンと道路が整備されていれば、車でも移動は出来ただろう。


「そもそもこんな場所を選んだ理由が分からない……」

「それは毎年の恒例らしいよ」


「まぁ『恒例』だとしても……だ。もう少し道の状態を見て行くべきだと思うけどな……」

「それは……まぁ……うん」


 刹那は『何も言えない』と言ったように言葉を濁した。


「……」


 そう、この日の山道のコンディションは最悪だった。


 その理由は、前日に雨が降り、コンクリート整備が進んでいないこともあり、地面はぬかるんでいたのだ。


「でも、こんな道じゃ『バス』も来られないだろ?」


「近くにバスでお越しの方はって矢印があった」

「…………へぇ」


 俺は来る途中にあった看板を思い出しながら言った。


「はーい、天野くんも宮ノ森くんもあんまりしゃべると体力が持たないよぉ」


「はーい!」

「……はい」


 それは先生が……だろ……と言いたい気持ちをグッと堪え、俺は刹那に促されるがまま返事をした。


 そして、そのまま俺達は一列を作ったまま……と言いたいところだが、やはりたまに乱れて正して……を繰り返しながら目的地である『公園』に辿り着いた。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「はぁ……、お茶が美味しい」

「……どんな年寄りだよ」


 俺たちは近くにあったベンチ…………ではなく誰も近寄らなさそうな日陰の地面に座っていた。


 なぜ、そんな隠れる様なことをしているのかというと


「なぁ……」

「なんだよ突然……」


「やっぱり、俺といるのは……辛くない?」

「……辛いな」


「……」


 言いにくいことだからずっと言えなくて、やっと口に出せた言葉に俺があまりにも即答してしまったことに刹那は少なからずショックを受けていたようだ。


「はぁ、何か色々と勘違いしているみたいだけど……。俺が言っているのは、女子にキャーキャー言われながら逃げるのは……ってことだぞ」

「えっ?」


 刹那は「そっち?」という顔で俺を見てきたが、俺はその言葉を無視して言葉をさらに続けた。


「……何であんなに速いんだ? 体力測定で測った時よりも確実に速いぞ……」

「ははは……。えーっと……」


「……」

「……」


 刹那の顔は『分からない……』と言っているように俺には見えた。


 でもまぁ、分からないだろうな……と刹那の返ってこない返事に俺はそう思った―――――。

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