第6話


「それにしても……」

「なんですか?」


「寒くない?」

「…………」


 そりゃあ、兄さんのその恰好は寒いだろ……と思いながら、俺は兄さんの恰好をもう一度見た。


「いやー、まさか外で立ち話することになると思わなくって……」


 俺は「寒くない?」の兄さんの言葉をあえて無視したが、どうやら兄さんは俺の心を読んだらしく、すぐに言葉を返した。


 でも、正直なところ。俺に「兄さんの方が寒いだろ」と言われても仕方ないと思う。


 なぜなら兄さんは寒い雪山にいるにも関わらず上着すら着ていなかったのだ。


 幸いチェックのシャツの上にセーターを着ていた為、まだ寒さは凌げている……のだろうか。


「はぁ……しかもマフラーどころか手袋もしていないのはどうかと思いますよ」

「マフラーは首がゴワゴワするし、手袋はなんか自由が制限されるから嫌いなんだよ」


「むしろ、制限して欲しいくらいですね。兄さんの手癖の悪さは折り紙付きですから」

「えー、ちょっとひどいなぁ」


 そんな兄弟の会話を宗玄さんは懐かしそうな表情で見ているのが一瞬見えた。


「……」


 しかし、こんな何気ない会話でさえ、兄さんとは違い、俺は警戒心を持って行っていた。


 少しでも、気を抜けば……なんて気持ちが未だに俺の脳裏に残っていたのだ。


「とりあえず、早く行こう?」

「……そうですね。風邪をひかれては困りますし……」


 そう言いながら宗玄さんの様子をチラッと窺った。


「かしこまりました。それでは、参りましょう……」


 どうやら俺の言いたいことが伝わったのか小さく頷き、宗玄さんはそう言った瞬間――。


「よーっし! そんじゃ、張り切って行こう!」


 兄さんのテンションはなぜか上がり、車に向かって走り出して行ってしまった。


「はぁ……」


 そんな兄の姿にため息をつきつつも、俺は兄さんに続いて歩き出していた。


「…………」


 宗玄さんは……俺たちが車に向かって行ったのを見た後、母さんの墓に一礼していた……。


 でも、それを俺は知ることなく来た道を歩き、そんなこんなで俺たちは母さんの『お墓』を後にしたのだった。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「いっ……よ~し! 着いたぁ!」


 家に到着したと同時に、兄さんは車から元気そうな声で降りていたけど……俺はというと……。


「大丈夫ですか? 瞬様……」

「あっ、ありがとうございます……。大丈夫です……」


 宗玄さんの心遣いに感謝しながらも、俺の心情とは裏腹に体はヨロヨロとふらつかせながら歩いた。


 なっ、なんか……気持ち悪い。


 多少は……宮ノ森 刹那の母親の素晴らしい運転で慣れている……と思っていたが、どうやら山道の揺れには耐えられなかったのだと……俺はこの時直感した。

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