第7話
「うーん……。まさか、瞬がここまで車がダメだったなんてねぇ」
兄さんはどこか嬉しそうにニヤニヤと俺の方を見ていた……が、当の俺はそれを気にする余裕は全くなかった。
「すみません……。私の運転技術が及ばず……」
「あっ、いえ……そう言うわけではなくて……ですね……」
これは完全に兄さんのせいだし……。
「……」
そう、宗玄さんの運転技術は素晴らしかった……うん、あれはいわゆる『ドライブ技術』というやつで言えば……だ。
それを知っている兄さんが宗玄さんを上手く乗せてその『素晴らしいドライブ技術』を発揮してくれた。
「はぁ……」
高速での運転に加えてカーブに入った時にはドリフト……。
俺の年が小さければ笑ったり喜んだりしたものだが、今の俺にはただの恐怖でしかない。
なるほど……。俺が小さい頃に宗玄さんの運転する車に乗せられなかった理由がようやく分かった気がした。
そう、俺は小さい頃いくら言っても宗玄さんの運転する車に乗せてもらえなかったのだ。
その為、運転するのは母が行う……という通常ではありえない状況が生まれていた……。
「とりあえず、部屋で休みなよ」
兄さんは振り返りながらそう言って、自分はサッサと家に入っていった。
あえて口には出していなかった。出してはいなかったが……あの急ぎようは……やはり寒かったようだ。
「そうさせて頂きます……」
でも、俺がそう言った時には兄さんはすでに家に入っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こちらになります……」
「ありがとうございます」
俺は宗玄さんにお礼を言って荷物を受け取った。しかし、この部屋に来るまでもかなり時間が掛かった。
まぁ、理由としては申し訳ないと思っている俺と、荷物を持って行かないと気が済まない宗玄さんとのやりとりが原因だ。
実際、ここまで来るのに二十分程かかっている……。
結局、このまま押し問答をしていてもキリがないから、最終的には俺の方が折れて荷物を持って来てもらったわけだが……やはり、申し訳ない。
「久しぶりだな。この部屋も……」
俺が案内された部屋は小さい頃に使っていた自分の部屋だった。
あの頃と違っているのは、ベットの大きさと部屋の雰囲気に合わせた机があるくらいだ。
まさか、ほとんど手つかずだとは……というのが正直な感想だった。
普通、家を出て行った人間の部屋は大抵『物置部屋』状態になるのがほとんどらしく、刹那の姉『遥』さんが使っていた部屋も今では刹那が使い、刹那が使っていた部屋は今では立派な『客室』になっている。
「それにしても……」
よく見ると、掃除も行き届いており「埃なんて一つもない」状態だ。
「……」
そんな部屋の状態を見ると……まるで俺が帰って来ることを予測していたかの様にも見えてしまい、俺は微妙な心境になった。
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