第2話


 ポケットから『おおいぬ座のカード』を取り出し、俺の隣から刹那がのぞき込む様な形で見ていると……。


「ん?」

「なんだ」


「いや、それ……重なってない?」

「え」


 刹那に言われ、持っていたカードをスライドされると……。


「……」

「あ」


 確かに下の方から『カード』がもう一枚現れた。


「コレは……」

「うーん、コレは『エリダヌス座』だね」


「エリダヌス座」

「多分、そうだと思う」


 刹那にしては、珍しく自信がなさそうだ。


「しっ、仕方ないじゃん。だって、川の絵しか書かれていないからさ」

「……」


 まだ、何も言っていないのだが……。そんな状況で何か言われると、なぜか言い訳の様に聞こえてしまうのはなぜだろうか。


「……いや、俺はまだ何も言っていないんだが?」

「えっ、あ……」


「まぁ、いい。つまり、コレは『エリダヌス座』なんだな」

「たっ、多分だよ? それにしても……」


「なんだ」

「いやね。なんで『エリダヌス座』なんだろ……って」


「それがどうした?」

「うーん、コレが『こいぬ座』ならなんとなく分かるんだよ? でも『エリダヌス座』だからさ」


 確かに『おおいぬ座』に『こいぬ座』。大と小……なんとなく関連性はありそうだ。


 しかし、俺の手元にあるのは『エリダヌス座』。


 刹那曰く『エリダヌス座』は『川』が関係のある『星座』の様……という事はなんとなく分かる。


 ただ、それが有名な『十二星座』ではないという事もあるからなのか、俺はこの『エリダヌス座』を知らない。


「でも、この『カード』があるって事はやっぱり雨宮さんが関係あるのかな?」

「……それはどうだろうな。俺は『こいぬ座』を実際にこの目で見たから気づけた。だが、この『エリダヌス座』は違う」


「そっか」

「ああ、それに……コレは『蟹座』の時に似ている」


 あの『蟹座』も突然送られてきた手紙に同封されていただけだ。つまり、俺はその『蟹座』の姿を実際に見たわけではない。


「うーん、ますます分からなくなってきた」

「それは俺もだ」


 空は俺から会いに行く事が出来ないし、そもそもどこにいるのかも分からない上に知らない。


 兄さんからは冬休みに行って以来何の音沙汰もない。


 こちらから連絡してもいいとは思うけど、俺は俺で兄さんから預かった『古びた本』の解読が全然出来ていない。それなのに、手紙だけを送るのも……変な感じがする。


「…………」

「…………」


 俺と刹那はお互い考え込み、黙っていると……。


「おーい、そこで何しているんだい?」


「えっ」

「……雨宮さん」


「いや、実は図書室から姿が見えていたんだけど、なんかお取り込み中だったみたいだから……声かけそびれた」


「そっ、それは……」

「……すみません」


 俺たちは「まさか、会話の内容まで聞かれていたのでは?」と一瞬身構えたが、雨宮さんの様子を見た限り、どうやらそれはなさそうだ。


「ところで、もうすぐ門が閉まるぞ?」

「えっ」

「もうそんな時間ですか?」


「ああ、だから声をかけようと思っていたんだ」


「それはわざわざ……」

「ありがとうございます!」


 そう言うと、雨宮さんは「うん、うん」と頷いた。


「……」

「……」


 どうやら雨宮さん的に「お礼を言ってもらっている俺」という構図が出来た時点もう満足だったのだろう。


 俺たちに「早く帰りなよ」とだけ言って、そのまま雨宮さんは振り返り、早々と帰って行った。


 そんな雨宮さんの姿を俺たちは、黙って見送った……。そして、俺たちも急いで階段を下り、学校を後にした。

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