第24章 乙女座

第1話


「…………」


 ここは……どこだ?


 辺りを見渡しても、ついさっきまでいたグランドじゃない事くらいはすぐに分かる。どうにも見覚えがない。


 それに、俺はさっき……。


 全身……いや、正確には『背中辺り』を強く後ろにあった木に打ちつけたはずだ。


「……」


 あー、じゃあコレは『死後の世界』ってヤツか……じゃあ、俺。死んだのか……。


 なんて、他人が聞いたら「縁起でもない事を言うな!」と言われそうだが、あいにくここにいるのは『俺』だけの様だ。


 ……ん? 俺だけ? それはおかしい……と、思う。


 いや、そもそも『死後の世界』なんて、行った事すらないから、コレがおかしいのかすら分からないのだが……。


 妹の『夢』に連れて行かれた『夢の世界』は『死後の世界』とはまた別の……夢が作った、いや『作られた世界』のはずだった。


 その世界と明らかに違うのは、一目瞭然だ。


「…………」


 それに『ここ』は……何かの建物の中の様に感じる。


 ただ『部屋の中』という感じではないし、目の前には『窓』がある……というところを見ると、どうやらここは『廊下』の様だ。


 それを考えると、ここが『死後の世界』とは考えにくい。


「……」


 じゃあ、ここは『俺の過去の世界』なのか……という事も考えられるが……。どうやらここは『洋風を基調』としながらも『和室』もあるという家の様だ。


 しかし、俺の幼い記憶にこんな『和室』がある家にいた覚えはない。父方の実家は『洋風』だった。


「じゃあ……」


 その他に考えられる『可能性』は……。


「母方の実家……か?」


 しかし、俺は母方の実家に一度も行った事がない。だから、この『予感』が合っているのかすら……分からない。


「……」


 せめて、誰か通ってくれれば……物陰から見る事も出来るのだが……。


「……と」


 そうこうしている内に『誰か』が来たようだ。


「……」


 俺はこれ幸いと、物陰からその『姿』を確認すると……。


「……! あいつは……」


 物陰に隠れている俺になんて全く目もくれず、通り過ぎて行ったのは……星川空だった。


 そして『誰か』を見つけると、その場で何か話をしている。


「……」


 あいつにも普通の……と考え始めたところでふと思った。俺も物陰に隠れているとはいえ、空からは『見えている』はずだ。


 それなのに、彼女は俺に見向きもしない。しかも、リアクションは、ワザと……という感じでもない。


「……そうか」


 俺は、ここにきてようやく気がついた。幼い『あいつ』の姿。


「ここは……」


 星川空……あいつの『思い出』いや『過去』の世界なのか……。


「……」

「……」


 二人はさっきから何やら話をしているが、残念ながら俺の位置からは聞こえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る