第12話


『まさか……貴様ら本当に聞いた事がないのか?』


 烏座は怪訝そうな表情を見せているが、聞いた事がないのだから仕方がない。


「……」

「……」


『貴様ら、本当に利用されているだけなんじゃないか?』

「……そうじゃないかと思っているから、聞いているんだ」


 今の今まで……とは言わないが、恥ずかしい話。自分自身ではその事すら気がついていなかった。


『……なるほど。詳しい説明はなしだったのか』

「…………」


 烏座は「それなら仕方がない」といった様子で頷いていたが、そもそも俺が、あのカードをばらまいたのも『計算』だったのでは? と、今更ながら思ってしまう。


「……それで、あの『星を紡ぐ少女』とは一体?」


 龍紀は、早く話の続きが気になったのか烏座に尋ねた。


『ああ、星を紡ぐ少女とはある目的を果たす人間の役目の事だ』

「……おい。そのある目的ってひょっとして『誰かを生き返らせる』ってヤツか?」


『なんだ、それは知っていたのか』

「あっ、ああ。それは聞いている……が」


 その『生き返らせたい人間について』は、なぜか知っているはずの兄さんが渋って教えてくれないのだ。


『この星を紡ぐ少女は役目と口で言っているが、正直その役目は……口だけで、どうしても生け贄にしか思えんな』


「生け贄……」

「生け贄……ですか」


 俺と龍紀はその言葉を思わず揃えて復唱してしまったほどである。


 『生け贄』とは、ほかの人やある物事のために生命や名誉・利益を投げ捨てること。犠牲の事を言っている。


 つまり、今。空が必死に集めている『カード』が集まってしまったら……。


「あいつは、その目的の犠牲になるって事……になるのか?」

『……その集めているヤツがその事を知っていながら集めているのか、知っていないのかまでは知らんがな』


 烏座は「全く、趣味の悪い」と言いながらため息をついていた。


「…………」

「…………」


 その間、俺たちはただ無言になっているしかなかった……が。


『それに、あの儀式が上手くいったとしても、生き返るのは……』


 烏座がそう言った瞬間――。


「っ! 瞬っ!」

「?」


 龍紀の言葉に、一応反応したが、気がついた時には下を向いていた俺の視線が強引に『上』に向かされ……。


「グッ……!」


 そのまま俺はなすすべもなく強風に吹き飛ばされ、後ろにあった木に激突してしまった……らしい。


「――――」


 なぜらしい……なんて、曖昧なのか。


 それは、強風で吹き飛ばされて激突した衝撃によって意識が朦朧としており、その時にせいぜい分かっていたのは……。


「瞬! 瞬っ!」


 俺を呼ぶ龍紀の声……。


「なっ、なに? 今すごい音がしたんだけど」

「おい、どうしたんだ」


 俺が木に激突した時の音に気がついて、集まってきた教師と生徒たち……。


「……」


 そして、その人たちの間から遠くに一瞬だけ見覚えのある足元が見えた……気がした――。

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