第7話


「遅い……」


 そう呟きながら瞬は、星空を見上げた。


「……」


 ちょうどベッドから空が綺麗に見える。その見事な光景にますますお金持ち感が溢れて溢れ出ている気がする。


 本当のお金持ちはもっととんでもない……とテレビなどで言っているのを聞いたことある。


 でも、実際のところ……その姿を目の当たりにしなければなかなか現実味がわかないだろう。


「はぁ……」


 ただまぁだからこそ、今の俺にとってはこの見えている景色が現実味のある『お金持ちの部屋』だった――。


 まぁ、それはどうでもいい……。それにしても……遅い。


「……」


 そう思うのには当然理由がある。


 実は刹那にメモを渡して見送ってから一時間は経っているのだ。しかし、刹那の家から俺の部屋までどんなに遅く往復しても三十分もかからないはずだ。


 それは何度も行き来しているからよく知っている。


「……何かあったか?」


 そうなると色々不安になってくるものだ。連絡でも入れた方がいいか?と考え始めたその時…………。


「コンコンコン……」


 部屋の扉をノックする音が響いた。


「どうぞ……」


 ため息ついでに「やっと帰って来たのか?」といった感じの文句の一つくらい言ってやろうか……と思ったが、一応丁寧な言葉で反応した。


 これで刹那の両親とかだったら失礼に当たるだろうからな……という気遣いからである。


「あっ、よっ……よお」


 そして、それが正しかったとすぐに感じた。


「おっ、おう……」


 俺の返事と共に扉を開けて入って来たのは――――玉村たまむら龍紀りゅうきだったのだ。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……」

「……」


 どこかぎこちない……なんとも言えない空気が流れているが……別に他人行儀とかでは決してない。


「……」


 ただ……よく考えると、龍紀と二人で話す機会があまりなかっただけで……なんて、俺は一体誰に言い訳をしているのだろうか。


「ほっ、本当は明日にしようと思っていたのだけど、明日だったら明日で困るよな……って思って」

「……」


 そう言いながら今日の授業のノートを俺に渡してくれる生徒会長に……俺は感動した。


「わざわざ、悪いな」


 でも確かに、明日学校に行くと言って明日の朝に渡されても……それはそれで困る話だ。そんなことを見越した上での判断……本当にさすがである。


 まだ短い付き合いではあるものの、なんだかんだで世話焼きなところがあるという事は俺も刹那も知っていた。


「……」


 見た目とは裏腹に見事な楷書で書かれたノートには今日の授業の内容が書いてあった。


「わざわざ悪いな……。部活に生徒会もあって……龍紀も大変だろ?」

「まぁ、でも……風邪は誰でも引くから」


 そう言いながら龍紀は次々とノートを近くにあった机の上に置いていったのだが……その量はかなり多い。


「…………」


 積み重ねられたノートをパッと見ただけでも、とても一日で見終わる量ではない……のだが、人の好意に対して俺が言える事なんて『感謝』しかない。


「えっと、コレで最後」

「あっ……ありがとう……」


「そっ……それで、一つ気になったんだけど……」

「……?」


 突然、龍紀は口ごもった。


「なんだ?」

「突然こんなことを聞くのもおかしいとは思うんだけどさ……。瞬って……幽霊が見えるって……本当?」


 龍紀は半信半疑という顔で俺に尋ねてきた。

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