第4話


「……でだ。問題は」

「その『カード』が、あの子にどういう形で関わっているのか……って事だね」


「ああ、それと……」

「そもそも根本的な部分の問題だよね」


 本当にその『二枚』が関わっているのか……という根本的なところから確認しなければならない。


「……それはもう分かっている事じゃないのか?」


 俺たちの話を黙って聞いていた龍紀がそう切り出した。


「…………」


 今までの俺の話を聞いていれば「遠目でも何となく感覚分かるモノ」だと思われても不思議ではない。


 だからまぁ、こう言われてもおかしな話では……いや、むしろ想定内である。


「龍紀、悪い。さすがに何となく『カード』の感覚が分かるようになったとは言え、せめてその『カード』が俺の方を見ていないと、あれだけ遠いと分からない」

「そっ、そうだったのか……悪い」


 龍紀は俺に向かって申し訳なさそうに謝ってきたが、そもそもそんな話をした事がなかったから、分からなくても当然だ。


「まぁ、分かるのは瞬だけだし」


 そう、コレは『感覚』の問題でもある。


「でも、刹那は分かっていただろ?」

「今までの話の流れで何となくだよ。そういえば……って感じでさ」


「……」

「……」


 果たして、それだけで分かる人間が……いや、そもそも今までの俺の会話をそこまで覚えている事が驚きだ。


「……せめて『カード』の方が瞬に注意を向けてくれるとまだ分かるんじゃないかな?」

「もしくはその少年と俺がどんな形であれ話せればまだ……」

「可能性はある……が」


 ただ俺とその会計の男子との『接点』がそもそもない。


「でもまぁ『嘘はついても』わざわざ訂正しに来ているところを見ると、あの子の元々の性格は『真面目』なんじゃないかな」

「……そうかも知れないな」

「どういう事だ?」


 龍紀は不思議そうな表情を見せている。


 でも、コレは『カードに影響された人間』を見た事がなければ、こういう反応になるのは分かっている。


 その点、刹那は今までの経験やそれこそ『カードに影響された人間』を実際にこの目で見ている。


 だかこそ、こういう風に言えるのだろう。


「そもそもあの『カード』は『人間に影響を与えやすい』代物だ。そして、今回の候補として上がっている二枚は分かりやすく『悪い影響』を与えるモノだ。だが、ミスをしている点を見ると、多分影響を受けているだろう」

「……」


「それでもなお、自分から言いに来ているのを見た限り……」

「影響を受けながらも、自分を律している……と言うワケか」


「ただ、それがいつまで続けられるか……というのが問題なんだけどね」

「ああ」


 それこそ『本人の問題』と言ってしまえば、それまでなのだが……いつまでもミスが続くのも困るだろう。


「だからさっさとしないといけない……と」

「それはそうなんだが、何せ接点が何もないからなぁ」


 この間のバレンタインデーは、本当に運が良かった。たださすがに、これかもずっと運任せに事を運ぶのは危険だろう。


 それに、それが上手くいくとも思えない。


「……」


 さて、どうしたモノか……と、俺は本当に悩んだ。


 なぜなら、接点もないのに突然声をかけ、馴れ馴れしい態度をとり続ければ、下手をすれば、ずっと警戒されてしまうのが目に見えていたからだった。

「……じゃあ、さっきもらったプリントの訂正したモノをあいつに渡して来てくれないか?」

「え?」


 龍紀がそう提案してきて真っ先に反応したのは刹那だった。


「いや、本人たちに『接点がない』というのなら『接点のある人』を使った方が良いんじゃないかと思ったんだが……」

「ああ、なるほど」

「……」


 今の会話の流れで、なぜ違和感を覚えたのだろうか。ただ、龍紀の言っている事は分かる。


 要するに会計の彼と俺。


 この二人に共通する『接点』は、本当に『龍紀と関わりがある』という部分くらいしかない。


 だから、龍紀自身がそう言ってきたのだろうが……。


「それで……刹那は一体何を考えたんだ」

「いやぁ、ただ仕事の押しつけなのかと……」


 さすがに「恥ずかしい」と思ったのか、刹那は気まずそうに自分の頬を掻いた。


「いや、さすがにそれは……」

「わっ、分かっているよ! だから驚いたんじゃんか!」


 これでは完全に逆ギレなのだが……まぁ、コレも「恥ずかしい」という気持ちの裏返しなのだろう。


「でも、俺が行って本当に大丈夫か? この資料について詳しく聞かれても分からないぞ」

「そこら辺は……まぁ、大丈夫だろう」


 ……本当に大丈夫なのだろうか。


「適当に『先生に呼ばれて来れそうになかったから代わりに来た』とでも言えば納得しそうだけどね」

「……そうだな」


 まぁ、今回の目的は『接触』というところだけだ。


 それで『カード』が何かアクションもしくは、その人自身が何か態度を取ってくれれば、御の字と言ったところである。


「上手くいけばいいけどな」

「そればかりは……さすがにな」

「相手も『由来』が由来なだけに『嘘』とか『偽り』とか上手そうだからねぇ」


 確かに『コップ座』ならまだしも、コレが『烏座』だった場合。刹那の言う通り『由来』の関係上、偽ってくる可能性も十二分に考えられる。


「あっ……でも、もしかしたら早く『カード』に戻りたいからってこちらの『意図』を汲んで出てきてくれるかもよ?」

「ああ、その可能性はありそうだな。確か、この前の『カード』もそういった感じだったんだろ?」


「………………」


 そう、二人の言う通りバレンタインデーの時に現れた『二枚』のカードに関してはそうだった。


 しかも、手元にある『カード』に至っては俺に姿すら見せずに勝手に俺のポケットの中に入っていたり、知らない内にあったり……という感じだ。


 俺としては『違和感』しか感じないが、今までの傾向や話を聞いている二人……特に刹那は『カードが俺に集まっている』と強く感じるらしい。


 まぁ、何はともあれ……。


「今日はお昼前に終わるからな。とりあえず、帰りの時に渡しに行ってくるか」

「一応、念のために『帰る前にそのプリントを渡しに俺の友人が行く』って連絡を入れておくぞ」


「あっ、そうした方がいいね」

「ああ、頼む」


 確かに、何も連絡をしなかったら学校が終わり次第帰ってしまうかも知れない。さすがの判断だ……と、サラッとそう言える龍紀に俺と刹那は感心しきりだった。

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