第3話


 話を終えた龍紀が何やらプリントをもらったらしく、自分の席にそのプリントを戻した後、俺の席へと戻ってきた。


「……で?」

「ん?」


 戻って来た龍紀に刹那はすぐにそう切り出した。


「いや、一体何の用事でわざわざ話に来たのかなぁって思ってさ」

「ああ」


 刹那の言葉を受け、龍紀は小さく頷いた。


「実は、書類の一部が間違っていたらしいって連絡をしてきた」

「ふーん」


「ただなぁ……」


 龍紀は何か気になる事があるらしく、考え込むような表情を見せている。


「??」

「……どうした?」


 そんな表情を見てしまうと……やはり気になってしまうモノだ。


「いや、ただの俺の勘違いかも知れないんだが……」


「うーん、でも龍紀は気になるんだよね?」

「ああ、生徒会が発足してもう随分経つ。その中で気になる事があるのなら、今の内に解消しておくべきだろう」


 俺たちがそう言うと、龍紀は小さく頷いた。


「そうだな」


「……」

「……」


「実は、さっきの会計のヤツなんだが……」

「ああ、さっきの」

「さっきの子?」


「ここ最近、そいつの『ミス』が増えているような気がしてな」

「……ミス?」


 しかも、その『ミス』が誰が見てもすぐに分かるようなモノではなく、普通に見ても疑問にすら感じない絶妙なモノらしい。


「ただ、本人としてはその『ミス』を自覚しているからなのか、気がついた時に俺の元にわざわざ言いに来ているんだが……」


「……」

「……」


 しかし、会計になった当初はキチンと仕事をこなしていたらしいが、ここ最近はこういった『ミス』が多発しているようだ。


 それに、龍紀曰く『ミス』が多発し始めたのはここ二、三ヶ月の話らしく、ミスの度に龍紀さんに報告をしていたらしいが、ついには教室にまで来るようになった。


「でも『ミス』を自覚しているのなら、なんで後になって言っているんだろ?」

「それは、あれじゃないか『このままミスを放置してはいけない』って思ったんだろ」


「いや、だったら最初からそうしなければ……というか、最初はちゃんと仕事していたんだよね?」

「あっ、ああ」


「……瞬。まさかとは思うけど……」

「ああ……多分、そのまさかだ」


 俺は龍紀と刹那の会話から『ある可能性』を考えていた……が、コレは多分。間違っていないと思う。


「でも、一体どんな星座?」

「……どうやらこの『カード』には『ある傾向』があるらしい」


 そう、この『カード』を集め始めた頃は、何も知らなかったから『その傾向』に気がつくことが出来なかった。


 しかし、ここ最近になってようやく分かるようになった気がする。


「ある傾向?」

「ああ、実は……特にここ最近は顕著なんだが、どうやらこの『カード』はこの『カード』に描かれている『星座が見える季節』に現れるようだ」


「えーと……それはつまり?」

「あいつに『カード』が関係していると仮定して、その『カード』は今の季節。つまり『春』に関係のあるモノ……というワケか」

「ああ、そういう事になるな」


「ふーん、じゃあ『春に関係があって』なおかつ『さっきの子のミス』に関係のありそうな『星座』って事になると……あっ」


 さすが『星座に関して』は頭の回転が速い刹那だ。俺が言う前に、自分で話ながらもう行き着いたのか。


「……ああ。多分『コップ座』が関係しているんじゃないか……と俺は思っている」


 しかし、俺が見た本には『コップ座の神話』はよく分からないと書かれていた。


 ただ、このコップは小さなコップではなく、大きな杯である……という事は分かっている。


 まぁ要するに『諸説あり』というヤツだ。


 その内の一説によれば太陽神アポロンのゴブレットを表すと言われているが、他にも酒の神ディオニュソスの所持品などという記載もある。


  そして、ディオニュソスがアテネに滞在している際にアテネの王から恩恵を受けた。


 ディオニュソスは王へのお礼としてお酒の作り方を教えてもらい、後に王は、農民たちにディオニュソスから教えられた酒を振舞った……。


 だが、酒をしらない農民たちは「酔いがまわった」を「毒を飲まされた」と早合点してしまい、農民たちは王を打ち殺してしまったと言われている。


「うーん。ただ……実は『もう一つ』似たような『星座』があるんだよなぁ」


 刹那は考え込むように腕を組んだ。


「?? そうなのか?」

「……ああ」


 実は俺もそれは思っていた。しかも、その『星座』はさっき言っていた『条件』に当てはまった。


 俺もそのくらいの『知識』はある。


「刹那が言いたいのは『烏座』だろ」


 刹那は俺がそう言うと、素直にうなずいた。


「うん。確かに『烏座』も似たような由来があって、こちらも『春』の星座なんだよ。でも、いくら似たような『由来』と同じ『季節』の星座だからって二枚同時に現れる……なんてあるのかな」


 どうやら刹那が気にしていたのは『その点』だったらしい。


「……どうなんだ、瞬」

「…………」


 確かに改めて言われてみると、似たような『由来』でほぼ同じ時期に見られる星座とは言え、二枚同時にというのは……いや、あったな。


 しかもつい最近――。


 ただあの二枚は……見られる時期はほぼ『同じ』だったが、さすがに『由来』までは違っていた。


 それに、あの二枚は俺たちの前に姿を現した。


 その内の一枚は彷徨っていた……いや、正確には『この世界に未練のあった』少年の魂に強い影響も受けていて、随分と印象が違っていた様に思う。


 じゃあその時の『彼ら』と今の話題に上がっている『二枚』が一緒か……と言われると、正直なんとも言えない。


「そもそも『烏座』の由来ってなんだ? さすがに『趣味』でもない限りそこまで詳しい話は知らないんだが」


「……」

「……」


 確かに、龍紀の言う通りだ。


 俺は必要だから自分自身で調べて『由来』知っていて、刹那はそもそも『天体観測』及び『星座』が好きな人間である。


 だからこそ、この星座の『由来』を知っているという前提で話を進めてきたが……。


 普通の人は授業でもない限り、こういった知識は知らないだろう。特に授業で使われる知識でもないし、それこそ龍紀の言う通り『趣味の世界』だ。


「うーん。まぁさっきも言った通り『コップ座』に似ている……というか」

「由来が教訓みたい……と言った方が合っているな」


「?? どういう意味だ?」


 そもそも『烏座』の由来であるギリシア神話では太陽神アポロンの使いのカラスで、銀色の翼をし、人間の言葉を話す賢い動物だった。


 アポロンはテッサリアの王女コロニスを妻としていたが,このカラスは自分の道草の言い訳にコロニスの不貞を言い立ててアポロンは矢で貞節な妻を殺した。


 しかしすべてがカラスの虚言からと分かり、それ以後罰として羽色は黒く、ただ「カア、カア」と鳴くばかりになったという。


「だからこちらは『口は災いの元』って感じだな」

「でも、コップ座も烏座もそもそも『早合点』をしてせいで起きているんだけど」


 要するに、何も『星座の由来』は悲しい出来事とか、記念に……というだけのものではない。


 中にはこうして『人生の教訓』として残っているモノも存在している……一口に『由来』と言っても色々あるモノだ。

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