第25章 目的
第1話
兄さんは多分、爺さんを俺以上によく知っていたのだろう。
だから、今回の一連の件で爺さんが実はまだ生きていて、何らかの形で知った時『怒り』でも『憎しみ』でもない『呆れ』という感情が生まれたのだと思う。
それくらい兄さんは爺さんの『性格』を理解していたのかも知れない。
俺自身、爺さんには何も期待されていなかったし、まともに話をした記憶もないから、俺からすれば『爺さん』は『祖父』という名前の人……という認識でしかなかった。
だから、実は爺さんの名前を俺は知らない。まぁ、覚える必要が無かった……と言えば、それまでなのだが……。
「爺さんと父さんは同じ事故に巻き込まれて亡くなった。でも、瞬」
「ん?」
「瞬はあの時、葬式に来ていなかったから知らなかったと思うけど、実はご遺体。なかったんだよ」
「え? それってどういう……」
兄さんが言うには、父さんは意識不明で病院に入院していたらしい。
ただ、爺さんがいなくなっては会社が回らない。それに加え、父さんも予断を許さない状況だった事もあり、父さんの名前で社長を引き継いだ。
「その間に葬式が行われたんだけど、不思議な感じだったよ。ご遺体のない葬式っていうのも、僕もその時は、よく分かっていなかったけど、何も残らないほどだったのか……って事で納得する事にしたんだよ」
兄さんもそこまで爺さんに対して興味も関心もなかったから、そうして納得が出来たのだろう。
しかし、実際のところは違った。
それは、こういった状況になり、調べを進めていく内に、兄さんは当時の状況を知る人に出会った事によって明らかになった。
「まぁ、おかしいとは思っていたんだよ。どうして宗玄さんもいないのに『事故』が起こせるんだろう……って」
「確かに……」
言われてみれば、確かにそうだ。
そういった状況には、普通……ならない。なぜなら、基本的には宗玄さんが一緒なはずだからだ。
ましてや、父さんと爺さん二人きりなんて……そんな状況にすらならないはず。
「そこでその事について聞いたら、事故に巻き込まれたであろう人が救急車を呼んでくれって言ってきたらしい。まぁ、そこは分かる」
その人が言うには、救急車を呼んで欲しいと言ってきた人は初老の男性で、傍目は派手に血が付いていた様だが、その人自身はかすり傷程度だったらしい。
「まぁ、頼んだのは分かる」
「まっ、まぁ」
「そうですね」
なぜその人が、かすり傷程度だったのか分かったのかというと、その怪我した本人がそう言ったかららしい。
多分、余計な心配をされるのを嫌がったからだろう。
「でも、その人が言うにはその救急車を呼んでくれと言った人は、そのまま場所だけを伝えてどこか行ってしまったらしい」
「え、なぜ?」
そう言うのは仕方ないだろう。怪我をしている人間がほいそれとどこかに行ってしまうのは大変困る。
「その人は、その地域に住んでいて、事故が起きた現場が崖の近くだという事も知っていた。父さんはその崖のギリギリのところにいて、もう少しで落ちそうな場所にいるから、誰か他に人を呼びに行ったのだろうと思ったらしい」
しかし、その救急車を呼んで欲しいと言った人間はそのまま姿を消した。それが爺さんだったのだ。
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