第9話
「……瞬」
「聡さん」
「…………」
「…………」
「…………」
部屋に入ってしばらくは、お互いどう切り出そうか探り合いになっていた。
「……悪かった」
そうして、俺は改めて佐藤さんから謝罪、および事情の説明をしてもらった。
実苑さんからも改めて謝罪されたけど、事情が事情だっただけに、俺もそこまで強く怒ることは、出来ない。
「それにしても『誰かを蘇らせる』ということは……『死者』をという事?」
「まぁ、生きていれば蘇らせる必要はないからな」
俺と刹那は実苑さんたちからの事情を受け、お互い小さく確認した。
「でも、明確に誰とは言っていなかった……と?」
「はい。俺はその『蘇らせる』という話は聞いていましたが……それだけです」
「それで、君はそれより以前に前当主の葬式の時に何かは分からないけど、何やら事情があると知った……と」
「……はい。でも、あの本を奪ってくるよう言われたのは数か月前のことで……」
「ふーん、なるほど」
前当主が拒み続けていた事に実苑さんが加担するとは思えない。
でも、そのまま拒み続けてしまうと、いざという時の援助がなくなってしまう可能性が高い。
だから、聡さんはそれを避けるために実苑さんにも言わず、一人。暗躍していたのだろう。
「あれ? それってつまり……」
「あぁ、修学旅行先で二人に会った時はまだ、目星がついていただけで確証はなかった」
「なるほど、それで僕が持っていると確信し、瞬に手紙を出した……と」
「……はい」
まさか聡さんに『変装』のスキルがあったとは、誰も知らなかったが、聡さんは宗玄さんに化け、手紙をもらった……という訳だ。
「でも、お二人はすぐに分かっていらっしゃったんですね」
聡さんは「さすが」とでも言いたそうな表情を見せた。
「うーん? まぁ、本人に聞けばすぐ分かる事だったし。でも、一体それが誰で、どうしてそんな事をしたのかまでは分からなかった。だから、瞬からの連絡を受けて、その時にハッキリさせようって話になったんだよ」
「……そういう事でしたか」
「えっ、でもあの手紙に同封されていたカードは……」
「あれは持ってくるように言った内の一人から渡さていたものだ」
つまり、話の流れから今までの一連の出来事のほとんどは母さんの実家の人間が仕組んだことだったのだ。
「ん? そういえば……」
すると、実苑さんは突然辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「??」
「??」
「あの……ほら、この間いた女の子……あの子は?」
「そういえば……」
「ああ」
そう、事『カード』について聞くには俺や刹那なんかよりも空の方が断然役に立つ。
しかし、どういう訳かここにはいない。
「車で移動したのが原因……って、事じゃないよね」
「ああ、あいつはその到着した先に突然現れる事もあるからな。だが……」
「ん?」
「…………」
思い返してみると、ここ最近。空の姿を見かける事自体がめっきり減っているような気がしている。
――特に、カードが現れる時は決まって俺の近くにいたはずだ。
「だが、ここ最近はそれがない」
「偶然……なのかもしれないけど」
俺たちがそう言いながら考え込んでいると……。
「はぁ、
もしかしたら、その可能性は十分考えられる。現に聡さんはここにいる。それを考えると……よほど用心深い人間がいるのかも知れない。
「それはそうと実苑さん、聡さん」
「ん?」
「どうした?」
「全部俺たちにその事、話しちゃって」
「…………」
「…………」
刹那の素直な疑問に二人は顔を見合わせた。
「まぁ、いつかは話さないといけない事だっただろうし……」
「ああ、それに……失敗した時点で、どうしようもないだろう。あの家の人間が守ってくれるとも、思えない」
そう言って聡さんは、苦笑いを見せた。
「自分の母親の実家を悪く言いたくはないが……あの家の連中はそういうヤツラばかりだ。用心深い上に臆病。必要がないと分かれば即切り捨てる」
「……そんな」
「…………」
刹那は兄さんの言葉に絶句していたが、俺はその言葉を受けて思い出した事がある。
あの大火事の後、明らかに『母さんの実家』が関わっていると分かっていた。だが、その全てを捕まった人間になすりつけた……という事を。
そして、その事実と判決を知った犯人の「あぁ、やっぱりか」という全てをあきらめた様なあの表情を――。
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