第7話


「えっと……こんにちは?」

「なんでお前がいるんだ?」


「そっれは……えっと」

「まぁ、とりあえず立ち話もあれだな」


 そう言って俺は扉付近で立っている『宮ノ森刹那』を居間へと案内した。


「……」


 イスに座ると、俺は少し考えた。それは不思議に思える点がいくつかあったからだ。


 例えば……で上げるのであれば、二点ある。


 それは、この家の執事であるはずの宗玄さんの姿がこの場にいない点。そしてこの家の家主であるはずの兄さんが来ていないの二点である。


 兄さんの事は、まぁ百歩譲って置いておいていいとして……。


「……」


 どうしても宗玄さんがいないことに関しては若干の引っ掛かりを覚える。


 どう考えても、宗玄さんの性格を含め色々考えると……律儀に刹那と一緒に来そうなモノだ。


「……ん? 瞬、どうかした?」

「いや、何でもない」


 そう口では言いながらも、この時の俺はどこか忙しなかっただろうと思う。


「っていうか、なんでお前がいるんだよ」

「いや、えっと」


 さっきといい、コレに関して聞くとなぜか刹那は口ごもる。


「……」


 何やら『ワケあり』の様ではある……それは分かる。いや、むしろ分かりやす過ぎる。


 ……ただ単に言い訳が出来ないだけなのかも知れないが。


「……えと、ここに来る途中にお墓参り、行きました」

「そうか」


「そっ、その時に自分を『執事』という人がいて……」

「そうだったのか」


 そう言われて俺はようやく納得した。どうやら刹那はその時すでに宗玄さんと会っていたらしい。


「その人から色々聞いて……花は二つ必要だって聞いて」


 そう言っている刹那が持って来ていたカバンの方を見た。確かにそこには少しだけ花束が見えている。


「ん? ちょっと待て、刹那はいつ、その人に会ったんだ?」

「えっ? えっと……確か、十時よりも前だった……かな?」


 思い出すようにそう言った後、刹那は「でも、なんで?」という顔で俺の方を見た。


「いや、ちょっと気になっただけだ」

「ふーん」


 今、刹那が言った時間は……確か、兄さんが宗玄さんに起こされて食事をしていた時間のはずだ。


 それなのに、どうして刹那は宗玄さんに会っているのだろうか? いや、待て。そもそも刹那が会ったのは本当に宗玄さんなのだろうか?


 そんな疑問が俺の脳裏を過ぎった。


「なぁ、刹那。その『執事』って言った人、名前とか言っていたか?」

「名前? うーん、言って……いなかったと思う。それ以前に『花束が二つ必要だよ』って事を俺に伝えたらさっさと帰っちゃったし、でも確かに黒いコートを着ていて、帽子を被っていたから顔は分からなかったけど『執事』って言うのも、そうなのかなって」


「……そうか」

「うん」


 つまり、刹那の会ったその人が『宗玄さん』とは決まっていない。


「……」


 そうなると、この刹那が会ったというその『人物』とは一体誰なのだろうか。顔も分からないのならばどうしようもない。


「まぁ、もう一つのお墓の場所は離れているし雪が降って歩きにくくなっているから気を付けろよ」

「あっ、うん」


 実は父親と夢が眠っている龍ヶ崎家のお墓と母親が眠っているお墓はちょうど真反対に位置している。


「そういえば……」

「うん?」


「お墓参りに行った時、なぜか綺麗な道が出来ていたから特に問題なく……」

「そうか」


「せっかく、雪かきしながら行こうと思っていたからちょっと残念だったなぁ」

「それは……うん?」


 俺は残念そうに呟いた刹那の言葉に頷きながら返事をしようとした瞬間、疑問を持った。


 普通、墓参りに行くついでに雪かきも一緒にしてしまおうと考える人は……そういないだろう。


「あー……。それは多分、宗玄さんが除けたんだと思う」

「宗玄さん?」


「ああ。ここの執事なんだけどな」


 正直、確証は無い。


 俺が起きた時点で宗玄さんは玄関の雪をどけ終わっていた。それから俺と朝食の準備をしていたのだから、それが出来たのは俺が起きる前……かもしくは兄さんが俺の部屋に来ていた時のどちらかの時になる。


 兄さんは……ありえないからな。


 一応、兄さんの性格も考えた上での答えだが、今朝の兄さんの行動を見て確証を持っている。


 俺が朝食を食べていた時点で宗玄さんが起こしに行っていた。


 その上、自分が朝食を食べた後はすぐに俺の部屋に来ていたので、兄さんには出来そうにない。

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