第8話
「ふーん、それでその『宗玄さん』って人が雪をどけておいてくれたから、俺は何不自由なくお墓参りとここに来れたわけだ」
「まぁ、そういう事になるな」
今日降っている雪の量を考えると、早朝から雪かきをしていれば問題なく通れるだろう。
ただ、この家から墓までは相当な距離がある。一体……宗玄さんは何時に起きていたのだろうか。
「そっかぁ」
「ところで刹那」
「ん?」
「自分で言わないからあえて言うが、刹那は兄さんの仕事関係でここに来たんだろ?」
「……瞬、知っていたんだ」
「まぁな」
兄さんは『お客様』と言っていた。
そもそもこんなところに人が来る事自体珍しい。それでも、兄さんはわざわざ予定を空けてまで対応しようとしている。
つまり、その兄さんの『お客様』はかなりの常連だろうと推測出来た。
「まぁ、父親の代わりに来たっていうのは分かる」
だから、俺がここの住所を教えていなくても、父親に教えてもらってここに来ることは出来る。
「ただ、なんでわざわざ刹那が来たのか……それが分からない」
「それは……えと」
ここまで言っても刹那はなぜか言い淀んでいる。
「そっ、それは」
「……」
俺は刹那が次に言う言葉を待った。
「それはやっぱり『お友達』が心配だったからだって!」
しかし、刹那がその言葉を発する前に『ある人物』そんな事を言って現れた。
「え……」
当然、刹那は驚いてその『人物』を見ていたが……。
「……」
俺はもはやため息も出ない。
「えっ、と……瞬。もしかしてこの人が?」
刹那も一度は写真を見ているはずだが、やはり困惑しているのか、俺に確認を求めてきた。
「ああ、俺の兄さんだ」
「初めまして、龍ヶ崎想です」
兄さんは困惑している刹那に対し、満面の笑みで刹那の前に手を差し出した。
「あっ、はい。よっ、よろしくお願いします」
「いえいえ、弟がお世話になっています」
「……」
刹那とは違い、兄さんは笑みを絶やしていないが「弟がお世話になっています」と言われる日が来るとは思ってもいなかった。
「それにしても……」
「ん?」
俺はふと『ある事』に気が付いた。
「いや、刹那の家が常連だとは思わなくてさ」
「うーん、確かに」
兄さん……いや、俺の実家は『アパレル関係』と言われる業種だ。しかし、刹那の家は『病院』である。
一見すると、特に関係のありそうな感じはしないが……。
「ああ、昔は『呉服屋』っていう色が強かったけど、今は色々とジャンルの縛りをなくして色々展開していてね、彼の病院で使っている『ナース服』とかはうちで取引しているんだよ」
「へぇ」
「そっ、そうだったんですか」
どうやらこの事自体、刹那は初耳だったらしく「知らなかった……」と小さく呟いた。
「……」
俺がいない間にどうやら兄さんは兄さんのやり方でこの『家』を……いや『会社』を成長させていっている様だ。
そして、俺はその『当たり前』の様に言った兄さんの言葉に『その事実』を痛感させられたのだった。
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