第5話


「で……なんであんなことしようとしたんだ?」

「………………」


 しかし、少年はうつむいて地面を見たままだ。俺たちは書店から少し離れた公園にいた。


「…………」


 そんな少年の姿が……誰かに似ていると思っていた。


「……」


 コレは……刹那の小さい頃…………まだ自分に自信がなかったあの頃を彷彿とさせている。


「……皆、僕を『貧乏』ってバカにするんだ。でも……」


 なぜか少年は突然口ごもった。


「でも……なんだ?」

「お金がなくて……でも、お母さんには言えない。お母さんは毎日必死に仕事しているから……」


 多分、それは少年ならではの小さな心遣いだろう。その気持ちは……分かる。小さい頃はなんだかんだ、大人から「いいよ」と言われてもどこか遠慮してしまうものである。


「まぁでも、万引きはダメだろう」

「今回は龍紀が止めたから何事もなかったけどさ」

「……ごめんなさい」


 そう言って少年は俺たちに頭を下げた。


 確かに、今回は龍紀がすぐに気がついたから良かったモノ……あのまま少年が『万引き』をしてしまっていたら……今頃は警察が来ていたかも知れない。


「でも、お母さんと仲いいんだな」

「うん!」


 少年は輝くような笑顔で俺たちを見た。よほどお母さんが大好きで、大事なのだろう。でも、それならなおさら『万引き』なんてよくない。


「でも……最近お母さん元気なくて……」


 そう言って再び地面を向いてしまった。でも、その事に対して俺たちが口を出すのは良くないとは思う。


 ただ……気になる事があった。


「そっか……」

「それは心配だな」

「ああ……」


「でも、すぐに元気になるから大丈夫……。あっ、もう帰らないと!」


 そう言って少年はランドセルを担いで走り出した。まだ外は明るいが冬はすぐに暗くなる。


 だから、明るい今の内、早めに帰って間違いはないだろう。


「ありがとー!バイバーイ!」

「バイバーイ!」


 刹那と少年のやり取りを見ているとどうしても……。


「……精神年齢一緒だな」

「フッ」


 公園を出る前に俺たちを見ながら少年は、手を振って帰って行った。俺たちも笑顔で手を振った。


「あっ、笑ったね?」

「いや、笑っていない」

「笑ってない」


「うっそだー! 絶対笑っていたって」


「あはは、俺たちも帰るか」

「はぁ……って瞬?」

「あっ……、ああ……」


 俺は一瞬遅れて刹那に返事をした。


「…………」


 しかし、あの少年の母親が元気のなくなった原因……。それに一つ、思い当たるモノがあった。

 あの『カード』が、もしかしたら……そして、それが可能性として俺の頭の中によぎった…………。

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