第28章 別行動
第1話
「……それで、ここが母さんの実家……というワケですか」
「うん、そうだよ」
兄さんが俺を案内した場所は、元々行くはずだった孤児院からあまり離れていない場所にあった。
父さんの実家が『洋風』なら母さんの実家は『和風』だろうと勝手に思っていたが、まさかこんな大きな門があり、完全に和風な家だとは思ってもいなかった。
「……ここに」
星川空がいる……という事なのだろう。
「多分……ね」
しかし、正直な話。俺は意外だと思った。
今まで手にしてきた『カード』を見て思っていたが、このカードはどことなく『洋風な感じ』だと思う。
それなのに、この騒動のそもそもの発端の場所がこんな和風な家だとは驚きである。
「……で、これからの作戦なんだけど」
「はい」
「さすがに正面突破! なんて言うのは言語道断だと思う」
「はい、それこそ愚の骨頂だと思います」
母さんの実家も、昔はかなりの名家である。しかも、母さんは家出同然で出て行っている。
その後に俺たちは生まれた。
そんな家に母さんの息子である俺たちがいきなり行って、両手を広げて歓迎してくれるとは思えない。
もし、逆に歓迎されたとしたら……それは『何か裏がある』と逆に疑った方が良いくらいだろう。
「あの爺さんがいる可能性も否定は出来ない。ただ、ここは慎重を期すべきだろうね」
「はい」
結果、俺たちはこの家を囲っている塀を乗り越え、家の敷地内に侵入し、俺は空が本当にいると聡さんが兄さんに伝えた場所に向かうことになった。
俺の事を知っている人たちは、多分『塀を乗り越える』と言った時点で、止めに入るだろう。
しかし、どうやら兄さんは「瞬ならこれくらい出来るだろう」と最初から思っていたらしい。
確かに、昔は木登りとかよくしていたから、あの俺より倍くらい高い塀くらいなら、どうにか上れそうではある。
ただ、どうして兄さんがそれを知っているのかは謎ではある。まぁ、どこかで聞いた……としておけばいいか。そして、兄さんは……。
「僕は正面からは行かない。途中までは瞬と同じルートで行くよ」
「そうですね。では、本家に侵入した後で別れる……という事になりますね」
俺がそう言うと、兄さんは「うん、そうだね」と小さく笑った。
「ですが、兄さんは一体どこに向かわれるのですか?」
俺としては、兄さんも一緒に来てくれた方が安心するのだが……。
「そうだね。うーん、とりあえずあの爺さんたちに挨拶し来ようかな。これまで散々引っかき回してくれてありがとうございました……って」
「…………」
どうやら兄さんとしても、今回の一件だけでなく今までの出来事全てに対し、祖父たちに一言もの申したい様だ。
ただ、その表情は……笑ってはいるモノの、その笑顔が逆に怖い。
兄さんのいつも見せる満面の笑みの中に『何か別の感情』があるのが、普段鈍感と言われる俺ですら分かるくらいである。
「わっ、分かりました。くれぐれもお気を付け下さい」
「それは僕の台詞だね。瞬は無理をしちゃうから。もし、何かあったらすぐに離脱してね」
俺は兄さんの言葉に頷き、兄さんは「よし!」と言って、俺たちは車から出た。
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