第11話


「えと、あなたは確か……」

「父に言われ来ました。卯崎うざき千鶴ちづると申します」


「どっ、どうも……ではなくて! どうしてあなたがここにいるのですか!」


 龍紀が大声で尋ねると、千鶴は不思議そうな顔をした。


「それは今、申し上げたと思いますが」

「…………」


 龍紀としては「いや、そういう事じゃなくて……」もっと色々と聞きたいところだが、どうやらこの言い方では、千鶴さんにとっては説明不足なのだろう。


 常日頃、友達と話したり生徒会のメンバーと話したり、なんだかんだで気心知れたメンバーと話してばかりで、そういった配慮が足りなかったのかも知れない。


 まぁ、ちょっと話をした事がある程度……の人に「察してくれ」とか「言わなくても分かるだろ?」は失礼ではある。


「はぁ、そうではなくてですね……」

「ではどういう事でしょう?」


 龍紀が言いたいのは「どうしてこの間会ったばかりの人が、自分の行き先にいるのか」という点である。


 もちろん『偶然』という可能性もあったが、今の話の内容から察するに『偶然』という事ではなく、父親である宗玄さんからの指示で『このバス停』に来た様だ。


 しかし、龍紀は普段このバス停を利用しない。ただ、瞬と刹那と待ち合わせをした場所にはこのバス停を使わなければ到底たどり着けない。そのため、このバス停を利用していただけに過ぎないのだ。


 そもそも龍紀は学校に行くにしても、バス停を利用することはほとんどない。


 だから、普段の龍紀を知っている人間ですらこのバス停で待ち伏せをする……という事は出来ないはずだ。


 それはつまり、彼女に指示をした宗玄さん。もしくは瞬の兄である想さんが、俺たちが何をしようとしているのかわかっていなければ話の筋が通らない。


 ただ、それをこの人に尋ねるのは筋違いだろう。なにせこの人は『ただ指示を受けてきただけ』という可能性があるからだ。


「はぁ。それで、千鶴さんは『指示を受けて』と言われたみたいですが、具体的に何を指示されたのですか?」

「簡潔に言えば『ボディガード』です」


「……はっ?」

「聞こえませんでしたか? ボディガードと言ったのですが」


 いや、決して『聞こえなかった』というワケではない。しかし、今の発言にはどうしても疑問を持ってしまう。


 彼女は今『ボディガードを父親から指示を受けてするために来た』と言った。


 それ自体に疑問などない。だが、彼女は女性で俺は男性だ。そこに力の優劣はどうしてもあるのではないだろうか。


 そもそも俺は、相手が『見えない』という場合を除けば、そこそこ腕っ節には自信がある。


 だから、特に彼女に『守ってもらう』という必要は……。


「あっ、そうか」

「どうかされましたか?」


 今の『見えない相手』というところで龍紀は気がついた。


 そういえば、この間の一件も彼女のおかげでほぼ無傷で済んだ。そして今回、その彼女が呼ばれたという事は……つまり、今回の相手も前回と同じ……もしくは、それと同等の相手の可能性が高いという事なのだろう。


 もしくは、どっちつかずの分からない相手か……。


 何はともあれ『どんな行動をするにしても一人は危ない』という事を想さんは俺に訴えかけているのだろう。


 それはつまり、相手方にも『俺たちの行動』がバレているという事を意味しているワケなのだが……。

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